星つくりの少年は退屈でした。
空高くに上ってくるのはいつもと変わり映えのない心。
「『神さまお願いします』? はあ、ばかだなあこいつ。神さまっていうのは願いを叶えてくれる存在じゃなくて、いつもタダ見てるだけの奴なのに。気紛れにちょっぴり幸運を分けることもあるけどさ。結局自分で頑張らないやつにそんなもの分けてやろうとも思わないさ。って、そういえば僕も神さまの端くれだっけ?」
星つくりの少年は自嘲気味に笑いました。今夜は特に仕事に気が乗りません。
「あーあ、つまんない。月女神様に怒られてもいいから仕事さぼっちゃおうかなー」
少年がごろりと空のてっぺんに寝ころぶと、ふわふわと一つの小さな心が上がってきました。
目の前にふんわりと浮いているそれを見た少年は、体を起こし呟きました。
「これってなんかおいしそう」
白いような桃色のようなふわふわとした幸せな心です。星つくりの少年は心の端をほんの小さくちぎって口にいれました。
すると一瞬にして星つくりの少年の体が温かい空気に包まれ、自分の心に淡い光が灯りました。
星つくりの少年は、ふわふわと漂うその心を両手でそっと掬うと、にこりと微笑みました。
「これは僕のとびきりの星を作るための材料になるな。大事にとっておこう」
それから、やっぱり仕事をする気になった星つくりの少年は、地上から上ってくる心を集めては、捏ねて星を作りました。
上ってくる心は星つくりの少年が「汚い」とそっぽをむくような心や、くだらない心がたくさんありました。それはいつもと同じことです。
しかし、今夜は違いました。
たまにさっき食べたようなふわふわの甘く幸せな心がいくつも上ってくるのです。少年はつまみ食いをしながらも、その心を大切に取っておきました。
「これってみんな同じ心? 誰の心だろう」
星つくりの少年は、ふわふわの心が上ってくる場所を見下ろしました。ぐんと近づいて見てみると、そこは小さな二階建ての家で、そしてその二階のまどからふわふわとたくさんの甘く幸せな心が浮かび上がってくるのです。
星つくりの少年が窓を覗き込むと、そこには女の子がベッドの中で眠っていました。
星つくりの少年は窓をすり抜けて部屋の中へ入りました。そして女の子に話しかけます。
「ねえ、この綿菓子みたいな甘い心は君のもの? 僕が作る星の材料にしたいんだ。もっと頂戴」
星つくりの少年の言葉に返事がありました。
<あなたは誰?>
その声は女の子から発せられたものでしたが、女の子は一度も唇で言葉を紡ぎませんでした。それは女の子の心の声。
でもそんなことは星つくりの少年にはどうでもいいことでした。
「僕は≪星つくり≫さ。僕は君の心が気に入ったんだ」
<わたしの心?>
「そうさ。君の心はとびっきり素敵な心だ。君の心なら、それはきっと誰も見たことのないきれいな星になる。僕が夢見ているとびっきりの星ができる」
少年は重ねて言います。
「だからもっと君の心をおくれよ」
星つくりの少年の言葉に、女の子は少し考えるように間を置きました。そして少年がさっき言ったことを尋ねます。
<あなたは星をつくるの?>
「そうだよ」
<流れ星も作れる?>
星つくりの少年はうなづきました。
「ああ。作った星を空に浮かべずに地上に落とせばいいだけさ。でも、流れ星になれる星はあんまりないな」
<どうして?>
「流れ星は願いをかなえる星だから。流れ星に願いを込めれば願いが叶うのは君だって知ってることだろう? そしてそれはとても特別なことだ。だから流れ星を作るには、特別に素敵な心でないといけない」
神さまとしての星つくりは、特別な星を頑張っている人の頭上に落として、ほんの少しの幸運のかけらを分けてあげます。
でも星つくりは、そんなことほとんどしたことがありませんでした。
「流れ星を作ってあげたいって思う人間は、まあ、いるにはいるさ。でもそれにはいい心が足りない。誰かの幸せを願う心や、生きたいと強く願う心。そんな心が星の美しい輝きになる」
<わたしの心じゃダメ?>
「君の心は僕が欲しいんだ。きれいな星を作って、僕だけの星にするんだよ。ずっと部屋に飾って大事にするんだ」
星つくりの少年は、自分が作る最高の星をうっとりと思い描きました。
そんな少年に女の子は言いました。
<それじゃ、わたしの心をおあなたにたくさんあげる。だからあなたの作りたい星を作って。そして余った心で、わたしのために一つ流れ星を作ってよ>
星つくりの少年はうなづきました。
「それならまあいいよ。流れ星にどんな願いを込めたいの? それを言ってくれれば僕がちゃんと流れ星の中に君の願いを混ぜて捏ねてあげるから」
<ほんとう!?>
女の子のうれしそうな声に、星つくりの少年は言いました。
「うん。だって君、願いを声にできないでしょう? もう誰とも話ができないんだよね」