10月に入り少しヒンヤリするくらいの気温となって参りました。ようやく過ごしやすい季節となりましたが、今年の夏は歴代最高気温を更新するなど、数々の猛暑記録が生まれました。そして猛暑は来年以降も続く見込みです。だからこそ、気温が日本経済に与える影響について、本気で考える必要があると感じています。
 1人当たりGDPを国別に示し世界地図に並べると、豊かな国々は高緯度(赤道から離れた、南北両極に近い地域)に偏っており、貧しい国々は赤道付近に集中しています。また気温が上がるほど、1人あたりGDPが下がる関係も確認されています。ではなぜ暑さは経済成長を阻害するのでしょうか。その原因として近年注目されているのが「待つ」という行為です。待つ能力とは『未来の出来事に対して、どれだけ辛抱強く待つことができるのか』という能力を指します。気温が豊かさに直結するのではなく、気温が人間の待つ能力に差を生み出し、その結果が各国の豊かさに繋がっているのではないかという仮説が提唱されています。
 経済の場においては、待つ能力が大きな成功を生み出します。資本主義とは、今ある資本(労働力やお金など)を投資し、その後に利潤を得る仕組みだからです。また「石の上にも3年」という諺や座禅といった行動にも現れているように、日本では昔から待つことや耐え忍ぶことは美徳とされてきました。なぜなのでしょうか。
 結論としては「日本が温帯地域だったから」とするのが、気温に着目した1つの答えとなります。農業という人類がこれまで最も従事していた仕事をベースに考えると、温帯には四季が存在しているため、計画的に作物管理をしなければ飢えてしまうことになります。具体的には、収穫の不足する冬や飢饉に備えて備蓄をする必要がありました。中でも穀物は適切に乾燥させれば何年も腐らずに保存ができるので、長期的な備蓄計画を立てることが可能となりました。その一方、熱帯地域では温帯地域ほど計画性が求められていませんでした。熱帯地域の主食である芋類は、高温多湿の環境下において通年で育つ作物であるためです。なおかつ水分を多く含むので腐りやすく、収穫したらすぐ食べる必要がありました。
 要するに、温帯の農業は計画性(長期志向)が重視され、熱帯の農業では収穫性(短期志向)が重視される歴史を歩んできたことが、待つ能力に差を生じさせ、資本主義という枠組みの中で各国の経済成長に差を生み出した可能性があるということなのだと理解しました。この結論を起点とすると、日本がより暑くなると農林水産品の収穫に影響が出て、待つ能力に負の影響が出る可能性があると言えます。またそれ以外の負の要素として、SNSの隆盛も無視できません。SNSではショート動画やファスト映画に代表されるように、短い時間で効率的に満足を得る短期思考が重視されています。だからこそ、気候変動対策と共に、長期思考を重んじる教育の発展を後押しすることで、日本人の待つ能力の拡大に努めて参ります。