2011年5月26日

「あるべき社会保障」の実現に向けて

社会保障と税の抜本改革調査会

Ⅳ.抜本改革で公平で、信頼できる年金へ

=公的年金制度の改革の方向性=

1.基本的な考え方

 現行の年金制度は、職業によって加入する制度が異なる上、非常に複雑な制度となっている。そのため、ライフスタイルの多様化など現在の国民生活に適合せず、また制度を理解することが困難なことから、公的年金制度にとって最も重要な国民の信頼を失っている。

 そこで民主党は、先の総選挙マニフェストで年金制度を抜本的に改め、簡素で、公平で、わかりやすい制度に転換することを訴えた。具体的には、公的年金制度を、納めた保険料に応じて年金を受給できる「所得比例年金」と、公的年金制度に適切に加入した場合に一定額の年金を保障する「最低保障年金」を組み合わせた年金制度を創設し、すべての国民がこの制度に加入する(「公的年金制度の一元化」)こととした。

 これによって制度が簡素かつ公平になるとともに、高齢期の生活の安定を高め、また国民の多様なライフスタイルにも対応が可能となると考えており、今般の抜本改革において、改めて民主党案の実現を求めていく。

 一方で、いわゆる「公的年金制度の一元化」を実現するためには、所得の捕捉を確実に行うための番号制度の導入、税と社会保険料の一体徴収など、現在の行政の仕組みを大きく転換することが必要であるが、これを短時間で実現することは困難である。

そこで、このような公的年金制度の抜本改革を実現するための環境が整備されるまでの間、現行制度の問題を可能な限り是正し、国民の年金制度に対する信頼を回復することとする。

2.抜本改革後の新たな年金制度のポイント

(1)抜本改革の前提

<年金受給者(60歳に達し、保険料を払い終えている方を含む)>

 制度改革の影響を受けず、現在の受給額に変化なし。

<制度改革時に現役世代(20-59歳)>

①制度改革時までに現行制度で納めた保険料に対しては、将来、現行制度に基づく年金額を受給(現行制度の受給資格期間25年に達していない方も含む)。

②制度改革以降に新制度で納めた保険料に対しては、将来、新制度に基づく年金額を受給。

 将来の受給額は「現行制度に基づく受給額①」と「新制度に基づく受給額②」の合算額。

<制度改革時以降に20歳に達する方>

 新制度に基づく保険料納付を行い、将来、新制度に基づく年金額を受給。

(2)新制度の骨格

①加入対象者

○20歳以上65歳未満の者すべて

○20歳未満または65歳以上で所得のある者

○被用者も自営業者もすべての人が同じ制度に加入(一元化)。

②制度の骨格

○現役時代に納める保険料に応じて給付を受ける「所得比例年金」と所得比例年金の額に応じて給付を受ける「最低保障年金」の組み合わせ

○上記の組み合わせで、すべての人が概ね月額7万円以上の年金を受けられるようにする(新制度の完成時点)。

○「所得比例年金」の給付財源は「保険料」、「最低保障年金」の財源は「税」。

(3)所得比例年金

①保険料

○保険料は老齢年金に係る部分について15%程度とし、別途、遺族年金・障害年金に係る保険料を加算することとする。

○被用者の保険料は労使折半とする。また、被用者保険の使用者負担分は企業会計上、給与と同等の扱いであることを踏まえ、自営業者の保険料は全額自己負担とするが、導入にあたっては激変緩和措置を設ける。

○被用者の賦課ベースは給与収入、自営業者の賦課ベースは「売上―必要経費」とする。なお、賦課ベースには上限を設ける(=年金受給額に上限を設ける)。

②所得比例年金額

○個人単位で計算(有配偶者の場合、夫婦の納めた保険料を合算して二分したものを、それぞれの納付保険料とする=二分二乗)。

○納付した保険料を記録上積み上げ、その合計額を年金支給開始(裁定)時の平均余命などで割って、毎年の年金額を算出(納付保険料については、年金支給開始時まで、一定の運用益=金利を付利して計算)。

○上記の「一定の運用益」として「見なし運用利回り」を用いる。「見なし運用利回り」は、1人当たり賃金上昇率をベースにしつつ、現役人口の減少を加味することで、概ね100年間、所得比例年金の財政が維持できるように調整した値とする。

○出生率・人口動態、経済成長率・賃金上昇率等の経済前提に一定の変化があった場合には、将来の年金給付を確実にする観点から、「見なし運用利回り」及びこれを通じた年金の財政計算の見直しを速やかに行う。

(4)最低保障年金

①最低保障年金の骨格

○最低保障年金は、消費税を財源として、所得比例年金の受給額の少ない人に給付することとする。最低保障年金の受給にあたっては、適切な受給要件を設ける。

○最低保障年金の満額は概ね7万円(現在価額)。

○最低保障年金は、生涯平均年収ベース(=保険料納付額)で一定の収入レベルまで全額を給付し、それを超えた点より徐々に減額を行い、ある収入レベルで給付額をゼロとする。

○全ての受給者が所得比例年金と最低保障年金の合算で、概ね7万円以上の年金を受給できる制度とする。

○最低保障年金についても、所得比例年金額の算定に用いる「見なし運用利回り」でスライドを行う。














3.抜本改革までの現行制度の改善

 「公的年金制度の一元化」などの抜本改革を実現するまで、一定の時間を要することから、その間は現行制度を改善することによって、無年金者・低年金者問題、年金の財政基盤強化などの課題に対応する。なお、抜本改革の着手にあたっては現行制度の財政再計算を行うこととする。

【現行制度改善の例】

○厚生年金の適用範囲拡大

 非正規雇用の増大を踏まえ、現在の加入要件を見直すなどによって、可能な限り厚生年金の加入者の適用範囲を拡大することで、将来の低年金者・無年金者を少なくする。

○年金財政の基盤強化

 税制の抜本改革を通じて、基礎年金国庫負担1/2の安定的な財源を確保する。

○国民年金保険料の適正な徴収

 国民年金保険料の納付率の低下が続いていることから、徴収体制の見直しなどにより納付率の向上を図る。

 またマクロ経済スライド、物価スライドのあり方を検討するとともに、抜本改革の環境整備に必要な期間、新制度への移行期間などを踏まえつつ、被用者年金の一元化、基礎年金の最低保障機能の強化、在職老齢年金制度の見直しなどについても、検討を加えていくこととする。

Ⅴ.障がい者が当たり前に地域で暮らせる社会へ

=「障がい者施策」の改革の方向性=

1.基本的な考え方

○1.基本的な考え方

○民主党は、障がい者が当たり前に地域で暮らし、いきいきと働き、社会参加が保障される社会、インクルーシブ社会の実現を目指し、「制度の谷間」のない支援体制を構築する。身体・知的・精神・発達障がいに加え、高次脳機能障がい、難病などを支援の対象とするよう引き続き求めていく。また、障害者権利条約の批准、障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定に向け取り組む。

2.新たな障がい者福祉制度の構築

○障害者自立支援法を廃止し、「制度の谷間」のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を内容とする制度を構築するため、障がい者総合福祉法(仮称)を制定する。障がい者・障がい児の家族、保護者への支援を拡充する。現在、障がい者制度改革推進会議・総合福祉部会において、当事者が参加して制度について検討中であり、2012年に法案提出、2013年8月までの施行を目指す。

3.福祉から就労へ

○障がい者の雇用の機会を増やし、勤務先で安心して働き続けられように、法定雇用率の徹底、就労支援、職場適応支援(ジョブコーチの派遣)、職業能力開発・職業リハビリテーションの拡充、在宅就労支援、公共事業・サービスの受注について障がい者雇用率の要件を設ける等の取組みをすすめる。

○障がい者の就労・定着には、住まいや通勤手段の確保など、生活基盤を整えることが重要であり、包括的な相談・支援を受けられるようにする。

○障害年金については、年金制度改革の中で位置付ける。

4.障がい医療

○社会的入院を解消するため、地域での受入れ体制を整備する。精神障がい者の強制入院の在り方については、障がい者制度改革推進会議で検討しており、2012年度内の取りまとめを目指す。

○低所得者世帯の障がい医療費負担を軽減する方策を検討する。

<今後の進め方>

 民主党は「中間整理」で、「社会保障の水準を現在より引き上げることで、国民が社会保障のメリットを実感でき、現在の安心と将来への希望を抱ける豊かな福祉社会を構築」「国民の安心感、生活を高めるための社会保障の量的・質的な拡充を実現」という方向性を打ち出した。

 その後、東日本大震災が発災し、国民生活や我が国の経済・財政に甚大な影響を与えたが、国民の安心と社会の活力を高めるためにも「中間整理」に掲げた基本的な方向性を維持する。

 そのためには社会保障に係る財政的基盤を大幅に強化することが必要であるが、冒頭提示した目指す社会像を実現するため、この財源の議論から逃げることはできない。国際的にみても、高齢化の状況からいっても、我が国の国民負担率は決して高いとは言えない。国民負担率を国際的に妥当な水準まで引き上げ、社会保障分野への還元率もふまえて、適切な所得再配分の財源に充当することで、より公平・公正で、より受益感覚が得られ、より納得感のある社会保障を実現し、真に必要な支援の更なる拡充を図るべきである。

 今後、「あるべき社会保障」を実現するための財源の議論を行うことで、将来の社会保障の姿とこれを支える財源について、国民の皆様に提示していく。

以上