2011年5月26日

「あるべき社会保障」の実現に向けて

社会保障と税の抜本改革調査会

Ⅲ.安心できる医療・介護の実現

=医療・介護制度の改革の方向性=

1.基本的な考え方

 我が国が世界の最長寿国となる原動力となった世界に冠たる「皆保険」を将来にわたって維持し、国民ができる限り地域で健康で過ごすことができ、必要なときに良質な医療・介護サービスが利用できるように、医療・介護の提供体制、従事者の確保、予防、認知症対策、医療・介護保険制度の持続可能性等に関する改革を進めていく。

2.安心できる医療・介護の提供体制の構築(包括的な医療・介護連携のための機能分化とネットワークの構築)

(1)病院・病床の機能分化と強化

○身近な地域で必要な医療を受けられる体制作りを推進する。高度な急性期医療、一般的急性期医療、亜急性期医療、回復期、長期療養についてニーズに応じた機能分化、病床の転換、そして連携強化を図り、地域で完結できるネットワーク(情報共有、連携パス)を構築する。

○施設における医療提供については、医療・介護連携、チーム医療の特性を生かし、一人ひとりにとって必要な医療・看護・介護が提供できる仕組みを検討する。

(2)地域での暮らしを支える仕組みの強化

○日常生活圏で在宅医療・介護が可能となるよう、市町村レベルで計画的に整備し、入院から看取りを含めた在宅への移行が円滑に行われるようにチームとしての連携を強化する。

○高齢者が住み続けながら必要な医療・看護・介護が受けられるように配慮した住宅やヒートショック対策など健康の維持に配慮した住宅を整備するとともに、民間住宅の利用法について検討を加える。

○日常生活圏内の医療、介護、予防、住居が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の確立を図る。特に今後、都市部を中心に急速な高齢化が進展するため、過疎化する団地において多世代共存型のまちづくりを進め、教育、医療、介護が地域の支えあいの中で行われるように検討する。僻地においても医療等の体制を確保する。

(3)ICT利活用

○医療・介護双方のニーズをもつ高齢社会では、シームレスなケアの実現のために個人情報保護に十分配慮しつつ健康情報、診療情報、レセプトの共有が不可欠である。

○受診行動の困難な引きこもり、うつ、認知症、離島や僻地の医療、在宅医療・介護、あるいは薬局でインターネット、テレビ電話等を利用した擬似対面診療、および個人による健康管理のあり方について検討を加える。

(4)精神科医療のあるべき姿

○チーム医療(医師・看護師・ソーシャルワーカー・精神保健福祉士・臨床心理士等)によるアウトリーチ支援を推進する。退院後も必要な医療との連携を図りながら、介護サービスの継続的な提供によって出来る限り地域の生活の場で暮らせるための精神科医療を目指す。

3.地域に必要な医療・介護従事者の確保と調整のスキーム、処遇の確保

(1)国民の期待する専門医療と診療科領域別の医師養成のあり方

○地域における科別医師の必要数、不足数の把握と地域偏在に対処するため、平成23年度に新たに導入した「地域医療支援センター」を活用する。

○高齢化により、複数の疾病に罹患している患者への対応の必要性が高まっていることから、フリーアクセスを確保しつつ総合的な診療を専門的に行う『総合医』について積極的に評価することを検討する。

(2)専門的医療従事者の職能分担の見直し、チーム医療・介護の推進

○チーム医療推進の観点から薬剤師、看護師等の専門的医療従事者の職域、職能分担について総合的に検討を加える。他学部4年生大学卒業予定者が現在よりも短期間で看護師国家試験等の受験資格を得られるよう検討を加える。

○多職種の専門性を高めつつ、例えば早期からのリハビリや緩和ケアなど、個人のニーズにあった必要な治療やケアが提供できるようにする。

○服薬指導や栄養指導など質の高い医療提供を受けるとともに、きめ細かな在宅での対応を可能にすることにより、特に慢性期、終末期に安心して良質な医療・介護が受けられる体制づくりを目指す。その際、ケアマネジメントの強化が必須であり、ケアマネジャーの資質の向上及び専門性を高める必要がある。

(3)女性医師、看護師等の労働条件の整備、ケアラー(介護者)の研修等

○女性医師や看護師等が病院において持続的に勤務が可能になるよう、短時間勤務制や交代制の導入を進める。家庭内介護者の研修、ならびに評価・支援策について検討する。

4.国民の願いに応える予防、認知症対策の強化等

(1)予防医療・介護予防

○医療や介護は提供者側とサービスを受ける側との協働作業であるとの認識に立ち、健診の受診、保健事業への積極的な参加を促す仕組みを構築する。

○WHOの推奨するワクチンの法定接種化を進める。そのための予防接種法改正、健康被害救済制度の拡充を図る。

○費用対効果の高いがん検診の推進を図る。

○自立支援型介護、予防型介護へ重点化を図る。介護が必要な高齢者に対して、心身機能や生活機能の維持・向上を図るため、リハビリテーションを重点的に提供する。

(2)認知症対策の強化

○様々なタイプの認知症の正確な診断、及び治療への取り組み、さらに本人・家族支援を推進する。小規模多機能型居宅介護、グループホーム等の基盤整備、市民後見人の育成等個人の意思を反映させる仕組みや尊厳の保持に努める。

(3)自己決定権の尊重

○医療や介護の提供者側の説明責任とともに、情報の共有に基づいた理解のうえに協働によって成り立つという医療や介護の特性に鑑み、受ける側の役割についても定めるよう、必要な法令整備を行う。

(4)死亡原因診断への積極的取り組み

○死因不明社会からの脱却をめざす。納得の得られない医療関連死、及び非自然死体に対し、積極的にAi(Autopsy imaging)を取り入れるための支援を行う。さらに、医療事故に関する無過失補償制度の検討を進める。


(5)高額療養費制度と難治性疾患自己負担のあり方の連続性・整合性

○疾患によって医療費負担の仕組みが異なるという制度を拡大していくことは困難である。比較的高額で長期にわたる療養を必要とする場合の負担軽減策を検討することとし、その際に、大病院に紹介状を持参せずに受診した場合の初診の患者負担のあり方について、負担軽減策の推進という観点からも検討する。保険者の機能の強化による負担軽減策として、受診抑制につながらないよう配慮をしながら受診の際に低額を負担する制度の導入についても検討を加える。

5.若者や現役世代にも配慮した持続可能な医療・介護保険制度の構築

○経済成長(新成長戦略に整合させた名目GDP)、高齢化率、医療費自然増、介護費用自然増、報酬改定の影響を加味したシミュレーションを行う。

○増加する非正規労働者の市町村国保への加入状態を、本来の被用者保険に適用する方策を検討する。

○医療保険の最後の砦である市町村国保、被用者保険の最終受け皿である協会けんぽの基盤強化のため、広域化とともに国と都道府県の役割の見直し等を行う。将来的には、医療保険制度の一元的運用を通じて、国民皆保険を堅持する。

○後期高齢者医療制度廃止に向けた取り組みを進める。加速する少子高齢社会における高齢者に係る公費負担割合の見直しを検討する。医療保険の自己負担割合の見直しも検討する。

○医療・介護のみならず、子育てや障がいも含めた自己負担について、世帯内合算に上限を設ける。

○会計検査院から指摘された柔道整復療養費等の支給について効率化する。

○介護施設における給付の公平化を図るとともに介護保険の2号被保険者の年齢を引き下げることを検討する。

○長く健康を保った場合、保険料上のインセンティブを考慮する。