2011年5月26日

「あるべき社会保障」の実現に向けて

社会保障と税の抜本改革調査会

Ⅰ.すべての子どもの育ちを社会全体で支える

=「子ども・子育て」の改革の方向性=

1.基本的な考え方

○子ども・子育てをめぐる社会環境が大きく変化している。少子化は日本が直面する国家最大の危機であり、民主党は子ども・子育て支援を成長戦略の一環として位置づけ、社会に出る前のすべての子どもの育ちを社会全体で支えていく。

○子育ての第一義的責任を担う家族を支え、高齢期を含むすべての世代の社会保障を支える次世代の子どもの育ちを社会全体で支えることは、子育てを終えた世代の方々、子どものいない方々も含め、社会全体にとっての「将来への投資」にほかならず、被災地の復旧・復興を支える上でも重要なテーマである。

○日本の「家族関係社会支出」は、子ども手当を加えたとしてもなお、先進諸外国と比べて低く、所得の再分配が十分効いているとはいえない。民主党は家族関係社会支出を拡充し、所得の再分配を確実に行い、公平・公正・平等な社会、子育てのしやすい社会の実現をめざす。

○同時に、いわゆる「M字カーブ」という言葉に象徴されるように、女性が「就労」か「結婚・出産」かの二者択一を迫られることがないようにする。これは男性が長時間就労のため、家族とともに過ごし、子育てに十分参加できない現状を変えることと表裏一体の関係にあるといっても過言ではない。民主党は働き方の改革を進め、男女ともに、それぞれが希望する結婚・出産・子育てが可能となる社会を実現する。また、働く意欲を持つすべての人の労働市場参加を実現し、非正規社員の雇用の安定、処遇改善などを進め、その均等待遇を実現する。

2.子ども・子育て支援の4本の柱

(1)子育てを包括的に支援するバランスのとれた枠組み

①現金給付 

○現行の「子ども手当」は、年少扶養控除と予算の組み替えによりすでに恒久財源を確保しているが、今後の見直しにおいても「控除から手当へ」の考え方に立ちつつ、実質手取額の逆転現象が、特に3歳未満児、低中所得世帯において生じないよう最大限配慮する。

②現物給付 

○幼保一体化を含め、地域において当事者が参加する中で、すべての子どもと子育て家庭を支援する仕組み・「子ども・子育て新システム」を実現する。新システム開始前においても、待機児童対策などを強力に推進する。また、ひとり親家庭など経済的に恵まれない子どもや社会的養護の必要な子どもに対する迅速な支援に取り組む。

○保育サービスの量の拡充のみならず、夜間(深夜を含む)・休日サービスの拡充などのため、職員体制の強化、職員の処遇改善等、質の改善にも取り組む。

(2)働き方の改革による仕事と生活の調和の実現

①仕事・雇用の確保

○生活するに足る十分な収入を得られるよう、資格取得の促進など、特に若年者やひとり親家庭に対する積極的な就労支援・能力開発等を展開する。この際ジョブカードを全員に配布し活用する。

○正社員の過剰労働、過剰拘束を是正すると同時に、非正規社員の雇用の安定、処遇改善、公正な働き方を実現し、ライフスタイルに応じて多様な働き方を可能にする。これにより、子どもを産み育てながら、安心して働くことができるようにする。

○特に専業主婦の就労構造に制約を与えている配偶者控除については、平成23年度税制改正大綱の方針を踏まえ、抜本的な見直しに取り組み、女性がライフスタイルの選択をしやすい社会を構築する。また、第3号被保険者問題を解消する。非正規労働者への社会保険の適用を拡大する。

②ワークライフバランス

○男女ともに「働きたい」という希望と、「子どもを持ちたい、家族といっしょに過ごしたい」という希望とを両立させる。

○育児休業取得促進のため、企業に対する助成の充実や、育児休業給付の引上げに取り組む。現行育児介護休業法で、短時間勤務制度が義務化されているのは3歳未満であり、この年齢の引き上げに取り組む。

○週1日の休日取得すら困難といった正社員の過剰労働を是正し、メンタルヘルス対策を含めた労働安全衛生対策を充実させ、勤務間インターバルについて労使の取り組みを促す。

○非正規雇用から正規雇用への転換を促す。非正規社員の正社員化やワークライフバランスの推進に積極的に取り組むことが企業価値の評価につながるようなメリットシステムを導入する。「くるみんマーク」のさらなる活用や、競争入札の指名の条件にすること等にも取り組む。

3 子ども・子育て関係経費のあり方

○平成25年度からスタートする予定の「子ども・子育て新システム」では、国の一般会計からの負担金・補助金と労使(事業主・本人)の拠出金により、財源を「子ども・子育て勘定(仮称)」に一元化し、ステークホルダーの関与の仕組みも設けたうえで、都道府県の一般会計からの負担金・補助金を実施主体である基礎自治体の負担分とあわせて給付・サービスを包括的・一体的に実施する仕組みを想定している。

Ⅱ.希望するすべての人が働いて能力を発揮できる社会を

=「就労促進」「貧困・格差」の改革の方向性=

1.基本的な考え方

○民主党は、働くことを望むすべての人が、それぞれの希望や能力、ライフスタイルに応じて、そのなかで公正に処遇され、安心して健康に、やりがいをもって働くことのできる雇用社会を目指す。

○そのため、雇用を通じた参加保障を社会保障制度改革の最優先課題として位置づけ、新卒やフリーターなどの若者、女性、高齢者、障がい者、非正規社員を念頭に、①失業給付や求職者支援制度の給付と結びついた職業紹介、②地域経済の実情に応じて、民間活力を導入した計画的な職業能力開発による人材育成、③企業に対する雇用助成のみならず、特に若年世代の資格取得の促進等、早期に就職につなげる「攻め」の労働政策を展開し、労働市場への参加保障を実現する。

○今国会で成立した求職者支援法の国会審議において、今後の見直しに際して費用負担の在り方を検討する旨の与野党合意が行われたことも踏まえ、求職者支援制度の十分な財源確保に加えて、安定財源確保とあわせて、第一のセーフティネットの一角を担う雇用保険制度の国庫負担本則戻しを引き続き求めていく。

2.「第二のセーフティネット」である求職者支援制度の機能強化

○現在住宅手当を一時的に利用している人、母子家庭の母、生活保護受給者などが求職者支援制度を積極的に活用して職業訓練を受け、仕事のある世界に戻るプログラムを充実させる。

○このため、現行のハローワークでの求職者支援制度に対する取り組みに加え、社会福祉協議会が対応する総合支援資金貸付、福祉事務所が対応する生活保護を組み合わせ、ハローワークとの連携のもと、市町村の窓口に専門相談員を配置し(「4.無縁社会」参照)、あちこち行かずにワンストップで労働市場復帰につなげる。この際ジョブカードを全員に配布し活用する。

○住宅支援についても、現行施策を整理し直し、現金給付のあり方を検討するとともに、ソフト支援が組み込まれている「求職者支援制度」と「公営住宅」等の現物給付を適切に組み合わせ、就労・自立につながるような住宅支援策を行っていく。

3.公正な働き方の実現

○既に国会に提出している「労働者派遣法改正案」の成立を図る。さらに非正規社員の雇用の安定、処遇改善、公正な働き方を実現するため、雇用形態による合理的理由のない不利益取り扱いを禁止するための法整備に取り組み、均等待遇を実現する。また、年齢・障がいを理由とした不利益取り扱いを禁止するための法整備に取り組む。最低賃金引上げに向けてさらに取り組みを強化する。低賃金でもすべての労働者に社会保険を適用し、保険料支出に見合った給付を行うのが基本であることを明確にする。

○高齢者の就労促進のため、少なくとも希望者全員についての65歳までの継続雇用を確保する。

4.無縁社会を防ぐパーソナルサポートの充実

○所得確保の観点から、また、無縁社会を防ぐため、仕事、家族、病気、生活、多重債務などの複合的な悩みを抱え、誰にも言えずに困っている人たちに対して特別な支援を実施する。まずは気軽に無料で相談できるよう、全市町村に窓口を設置し、懇切丁寧に長期にわたって付き添う専門相談員を配置する。

○小口の貸付と相談事業を組み合わせ、少額でも定期的に返済しながら、専門相談員との対面相談を通じて将来の展望を描き、自立・就労を促すパーソナルサポート体制を敷く。地域や相談者の実情に応じ、アウトリーチ型支援やNPO等の支援機関との連携を進める。

5.国民の理解を得られる生活保護への転換

○生活保護については、①上記のような自立・就労支援の強化、②子どもの貧困連鎖を防ぐ進学支援など現物給付の充実、③医療扶助を悪用した重複診療による医療機関の不当な診療報酬請求、過剰に薬を入手して転売するなどの不正行為の防止徹底、④生活保護基準のあり方の検証作業⑤受給資格審査の適正化――などを実施し、生活に困窮する人がその能力に応じて、自立・就労を実現し、社会生活を送ることができる仕組みに改善する。

6.給付付き税額控除の導入

○給付付き税額控除は、その制度設計によって雇用促進、子育て支援、消費税の逆進性緩和など幾つかの政策目的を実現するための有力な手段であり、民主党政権による番号制度の導入により、これを実現する環境が整いつつある。給付付き税額控除の導入は、これまでの社会保障の在り方の根本的な見直しに繋がることから、従来の社会保障制度との整合性を確保しつつ、また番号制度の安定的な運営等を前提に導入を図る。