民主党の社会保障と税の抜本改革調査会では、<「あるべき社会保障」の実現に向けて>と題して改革案をとりまとめました。政府の社会保障改革に関する集中検討会議に民主党の意見として提出することになります。

参考にテーマごとに数回に分けて全文をを掲載します。


2011年5月26日

「あるべき社会保障」の実現に向けて

社会保障と税の抜本改革調査会

 民主党では、社会保障と税の抜本改革の実現に向けて、昨年末「中間整理」をとりまとめた。その中で、社会保障を取り巻く社会・経済情勢の変化を整理した上で、「全世代を通じた安心の確保」「国民一人ひとりの安心感を高める」「包括的支援」「納得の得られる社会保障制度」「自治体、企業の役割分担」といった抜本改革の方向性を明示した。

 今回のとりまとめは、この「中間整理」で確認した方向性を踏まえ、我が国が目指すべき「あるべき社会保障」について党内で議論を重ねてきたものである。

<あるべき社会保障と目指す社会像>

 我が国の社会保障は高齢化の進展や経済構造の変化に対応できないままに、旧政権下において社会保障費の抑制が続いたために、セーフティネットにほころびが生じ、格差を拡大させてきた。その反省に立ち、これからの社会保障改革は、所得の再分配機能の強化や家族関係の支出の拡大を通じて、これまでセーフティネットから抜け落ちていた人を含めて、すべての人が社会保障の受益者であることを実感できるようにすることが必要である。そのことが、社会保障に係る負担が単なる負担ではなく、将来のリスクに対する国民一人ひとりの備えであるという、社会保障に対する理解につながる。政治は国民の信頼を獲得することによって再分配機能の強化などの社会保障の抜本改革を実現し、国民の理解の下で、安心できる社会保障制度を構築しなければならない。

 社会保障の各分野の議論を通じて浮かび上がってきたことは、国民が社会保障という支え合いの仕組みに積極的に参加するためには、サービスの欠乏、就職難・ワーキングプア、社会的疎外、虐待などの国民が直面する現実の課題に立ち向かい、情報開示や必要な効率化などの質の向上を図りつつ、より公平・公正で、より受益感覚が得られ、より納得できる社会保障制度に改革していくことが必要だということである。さらには、社会保障サービスの提供において、行政が「待ち」の姿勢にとどまることなく、適切な情報提供などを通じて、ライフステージに応じた、適切な社会保障サービスを全ての人に能動的に提供できる体制を構築しなければならない。

 そこで目指すのは、制度が出産・子育てを含めた生き方や働き方に中立的で誰しも生き方や働き方を選択できる社会であり、雇用などを通じて参加が保障される社会である。また、子どもが家族や社会とかかわり良質な環境の中でしっかりと育つ社会であり、健やかに暮らすことができ、病気なった場合にはしっかりと治す医療と、治らない病気等であっても地域で最期までその人らしく尊厳をもって生きられるよう支える医療・介護が実現した社会である。さらに、様々な困難な状況にある人を単に保護するのではなくその人の自立を支援し、居場所と出番が確保され一人ひとりの力が活きる社会である。

<社会保障と経済の好循環>

 子育て、医療、介護などの社会サービスの分野は、需要に供給が追い付いておらず、こうした巨大な潜在需要に応えていくことで雇用を生み、またデバイス・ラグやドラッグ・ラグの解消を含むライフイノベーションを通じて医療分野などを成長産業化することで、デフレを脱却し、経済成長に結び付けることができる。また、当面、少産多死で人口減少が見込まれる我が国では、若者、女性、高齢者、障がい者の就業率を高めていくことが、本人の人生にとって大きな意味があるだけでなく、一人あたりのGDPを押し上げ、我が国の経済成長を下支えすることも忘れてはならない。

<東日本大震災を受けて>

 この間、3月11日に「東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)」が発災した。史上最大レベルのマグニチュード9.0の地震、大津波に加え、我が国が初めて経験する極めて深刻な原発事故まで同時発生した今回の事態は、まさに未曽有の事態であり、多くの国民の生活、我が国の将来に重大な影響を与えた

 社会保障もその例外ではなく、診療情報の喪失や医療介護・医薬品の提供不足など高齢化の進む地域におけるサービス提供体制のあり方、地方自治体におけるワンストップ機能・セーフティネット機能の重要性などを浮き彫りにする一方で、地域社会には「国民の絆」がまだしっかりと結ばれており、社会保障の基盤である国民の連帯感が維持されていることに希望が感じられた。

 また今回の震災は、少子高齢化の急速な進行、人口減少社会の到来、社会保障制度の疲弊、極めて厳しい財政状況など危機的な状況の中で生じたいわば「危機の中の危機」である。震災からの復旧・復興に真剣に取り組むのは当然であるが、震災を理由とする抜本改革の先送りは許されるものではなく、社会保障と税の抜本改革の歩みを着実に進めなければならない。

 その際、被災者・被災地の復旧、復興を日本全体の復興、そして再生へつなげていかなければならない。社会保障についても、以下に記載する事項を中心とする「あるべき社会保障」を実現することで、災害に強いだけでなく、未来志向の見地から、被災地を少子高齢化が進む日本社会の先進的モデルとしていく。

<社会保障と税の共通番号制度の導入>

 今回、「あるべき社会保障」に向けた検討を行うにあたって、これまでとは大きく異なるのは、政権交代によって「社会保障と税の共通番号制度」が2015年のスタートに向けて着々と進んでいることであり、今後の社会保障制度の構築にあたっては、これが前提となる。番号制度は、特に個人情報保護に関するセキュリティに万全を期すことが前提であり、その導入によって抜本的な行財政改革が可能となる。

 民主党が目指す「社会保障と税の共通番号制度」の最大の目的は、「すべての人が、支援を必要とする場合には、効率的に、適切に支援を受けられる」ことにある。国民一人ひとりの税や社会保険料の負担状況、社会サービスの受給状況などについて的確に把握することによって、例えば種々の自己負担の合計負担額を無理のない範囲に調整することができる。また、社会保障制度の「申告制度」を抜本的に改め、番号制度によって把握できる情報を基に「必要な人に必要なサービスの情報を適切に提供する」ことも可能になると考えられる。さらに、一人ひとりの状況に配慮した給付付き税額控除も可能になる。

番号制度の導入によって、年末の「中間整理」に掲げた「国民一人ひとりの安心感を高める」「包括的支援」「納得の得られる社会保障制度」の実現に向けて、大きな一歩を踏み出したと考えている。

<国・地方の役割分担>

 子育て、医療、介護などの社会サービスの多くは、地方自治体を通じて国民に提供されており、社会保障における自治体の役割は極めて大きい。地域住民の視点から見ると、国庫補助事業と地方単独事業は一体として提供されている。特に現物サービスの提供については、地域事情や国民生活の多様化に応じてきめ細かに提供する必要があること、そのためにはNPOやボランティアなどの「新しい公共」と協力する必要があることなどを考えても、主たる担い手は地方自治体、とりわけ住民に直接接する基礎自治体になるのが当然であり、民主党政権の掲げる地域主権改革を進めることで、その重要性は一層高まる。

 この基礎自治体をはじめとする地方自治体が、自らが持つ資源を十分に生かし、住民に対してワンストップサービスを含む質の高い社会サービスを効率的に提供し、また助け合いの地域社会の基盤を強化できるよう、国は財政基盤の安定化、柔軟なルールの設定などを進める必要がある。国は社会保障制度の改革に当たっては、「国と地方の協議の場」などを通じて、十分に意見交換を行うことで双方の役割分担を明確にするとともに、改革の実施に当たっては、密接な協力を行っていく必要がある。