白雪ちゃんの継母ちゃんは隣の国の王子様が好き。

ずっと前から見ていたの。


王子様に嫁ぐ日を夢見ていたのに、結婚したのは違う国の老いぼれた王様のほう。

それなのに継子の白雪ちゃんに王子様との縁談が来たと聞いた時、腑は煮えくりかえらんばかり。

継母ちゃんの部屋の真ん中には大きな銀製の鏡がある。

この国に嫁ぐ時、お道具の中にこっそり入れて持ってきた。

こっそり部屋に飾ってある、その鏡の中には魔女がいる。

継母ちゃんと一緒に鏡の中に紛れ混んでこの国へやって来た。

継母ちゃんは黒色が好き。

部屋はいつも黒い物で覆い尽くされていた。

黒いカーテン、黒いテーブル、黒い絨毯。

赤い薔薇が咲いたような刺繍が施された黒いビロードのドレスは彼女にとても似合ってる。

黒い髪は床まで長さがあって、黒い瞳はまるで宝石のような輝きを放ってる。

継母ちゃんはいつも鏡の中の魔女に聞いていたの。

「鏡よ、鏡よ、鏡さん、この世で王子様と添い遂げるのはだあれ?」

すると鏡の中の魔女がこう言った。

「白雪ちゃんよ」と。

誰よりも美しい継母ちゃん。

でも誰にも振り向いてもらえない継母ちゃん。

あの老いぼれた王様でさえ別の女に夢中。

継母ちゃんは部屋の中の物を壊して壊して気が済むまで暴れ回った。

黒いカーテンを引きちぎり、黒い絨毯にワインをぶちまけた。

魔法の鏡に花瓶を投げつけて粉々に。

魔女は鏡の中から黙ってそれを見ていた、笑いながらね。

侍女たちは普段から誰も近寄って来ない。

魔女が言った。

「王妃様、白雪ちゃんにこれを渡すのです」

それは青い青い林檎。

「そんなもの、食べる筈がないじゃない。」

魔女が冷ややかな笑みを浮かべながら手に持った青林檎に手を翳した。

すると林檎は冷めた青色から鮮やかな赤色へと変化した。

毒林檎。でも、どこから見てもただの林檎。

継母ちゃんの顔に微笑みが戻る。

「これで王子様は私のものよ。」

でもね、白雪ちゃんがこの林檎を食べても王子様は振り向いてくれなかった。

何故かって?

王子様は生きている人間を愛せないせいへきの持ち主なの。

「したいあいこう者って知ってる?」

死んでしまった白雪ちゃんにずっと頬ずりして愛するの。