幕が開くと、そこは華族にして大財閥の


 円城寺家の瀟洒な大邸宅の中庭


 鳥の囀る音が爽やかな


 洋風建築で、廊下には絵画が掛けられ


 中央には、中庭に出る扉がある


 そこに、下手側廊下を通って


 円城寺家の一人娘 円城寺かおりお嬢様が

 

 現れて、庭に出てきて、舞台中央に立つ


 何やら、可愛くふくれ面で、ご機嫌


 斜め。


「もう!お祖父様ったら、なんで、社会進出を

認めてくれないのかしら!」


 そして、次に、円城寺かおりお嬢様の


 祖父にして円城寺家当主円城寺三郎右衛門和時と乳母の三木京子、そして白衣姿の侍医が

遅れて同じ扉から現れて


祖父は、


「なんじゃ、かおり、ここにおったのか?」


そう言うと、上手側にあるテーブルに一人


腰掛ける。


そして、杖をついて、困った顔で、かおりさんの方を向いて


「かおり、まだ、社会進出などと言うことを考え手おるのか!お前は、我が円城寺家の

大事な跡取り娘。良いところへ嫁に行って

この円城寺家の、跡をついでくれれば

良いのじゃ!」


かおりさんは


「私は一生籠の鳥ですか?

第一、女性はいまの世の中どんどん社会進出

してるじゃないですか!

現に平塚雷鳥さんの青鞜(注:せいとう)だって

あんなに、持て囃されているじゃないですか!」


と返す。


「何を言ってるんじゃ!こんなことじゃ、

女だてらに

大学など行かずのじゃなかったわ!

現に、お前の父親、和正も、一人で

大陸などに渡ってしまって、ロシアとの

戦争で死んでしまったではないか!」


祖父も孫の言葉は全く受け入れないという

勢い。


そして

下手側からは、円城寺家お抱えの

庭師の直吉さんが、はしごを抱えて

ひょこひょこと歩いてくる


「そうじゃ、いっそのこと、

お前の婿には、何の取り柄もない

男がよい。」


そう言うと、もう、下手側にまで行った

直吉さんに向かって


「おい、直吉!どうじゃ、

お前、かおりの婿になって

この円城寺家の跡を継がんか?」


振り返って、なんのことかと聞いていた

直吉さんは、この場の雰囲気を察したのか

平静を装うと

よしてくださいよーという感じで手の平を下に

ふっと振ると


「な~にをご冗談を、御前様。」


そう言うと、何も無かったように振り向いて

また、上手へ歩きだすが


「うは、うは、うは、」 と変に不自然な

笑い方に緊張が現れていて、

舞台から去っていく。



すると、かおりさんは、腰に指していた

錦の袋に入った細長い袋を手に取ると 

中から、短刀を取り出すと


「わかりました!およそ、この世に

生を受けて、のぞみがかなわないなら!」


そう言うと、キラッと光る切っ先の

短刀を引き抜き、それを天に向かってかざすと

次の瞬間、祖父、乳母、侍医は


「おおう!」


とどよめきの声を上げた。


そして、かおりさんは、その切っ先を

両手で自分の、喉に向けてかざすと!


「死にます!お祖父様!お、さらば〜!!」


そう、言って、三人を脅す。


最初驚いていた祖父は、やがて正気を取り戻すと


一番青い顔をした侍医の気勢を制して


また、孫のいつものことだと思い


「そ、そうか!死ぬのか?

そうか、よし、死ね!とんどん死ね!

死んでみろ!」


「御前様!!」驚いた乳母と侍医


「お祖父様、お!さらば〜〜!」


かおりさんも、社会進出を認めてもらいたくて


頑張っている。



「そ、それはな、正宗の懐剣、すごく

切れるぞ、切れると痛いぞ、なははは!」


祖父もかおりさんの演技を見抜いて

からかいに転じている。


なかなか、うまく行かないかおりさんは

懐剣を下ろすと、あたふたとしていた時

指を切ってしまった。


「あっ!血、血〜」


パニックになったかおりさんは

刀をかざしながら、なんと

上手側に立っている侍医の方へ

突き進む!


慌てたのは、いつも患者さんを

メスで切開手術しているお医者さん。

皮肉にも健康にも関わらず

家のお嬢さんの手にかかる寸前

なんとかかおりさんの手首をつかんで

それは免れた。


根比べに耐えきれなくなった祖父は


「わ、分かった!頼むからその懐剣を

収めてくれ、わしの知り合いの

濱貼出版に行ってこい。そこで丁度記者の

募集をしておる。ほれ、明治座のすぐ

近くじゃ。」


そう聞くと、満面の笑みを浮かべた

かおりさん、祖父に甘えたように

抱きつくと


「有難う、お祖父様、お祖父様

だ~いすき♡」


祖父は、困ったような顔で。


そして、


「じゃあ、早速言ってまいりまーす!」


かおりさんはスキップしながら

もと来た扉を開けて

円城寺家の廊下を楽しく去っていく。





第1場 円城寺家、中庭にて

この場面でも、早速アクションの連続でした

かおりさんの持っている、円城寺家の

家宝の高価な正宗の懐剣

それを喉に向けて突き刺す真似をしてまで

祖父の気持ちを変えたいという、

お転婆でそして、意志の強いお嬢様の

好演をコミカルに、そして、アクティブに

演じられていました。

この公演は、かおりさんが一番

動きが大きく目立っていました。

すごいです!




祖父役の石倉三郎さん
このあと現れる別の役柄との
演じ分け、流石でした。
自然な老人の演技は、キャリアあっての
上手な演技、とても同一人物に
見えませんでした。



イギリス、ビクトリア朝調のエプロンを
和服姿にかけた、私達が大正時代って
これっ!て感じのメイド服を
着られた三林京子さん。
本当に舞台では、お母さんというか
したたかな女性というか
どこかちゃっかりしてて、そして
とてもエレガント
そんな、普段の三林京子さんそのものの
魅力にあふれた演出でした。



侍医役の、山口竜央さん。
普段は悪役で有名ですが
とても、木訥で実直なお医者さん役で 
好演されていました。
 
お芝居に締まりを与えるもうひとりの 
重要な役者さんでした。

これを機にいろんな役柄を演じて
ほしいと思うのは私だけでしょうか?