世界が一色だった頃には

争いや戦いはなかった

ただ

どうしようもなく退屈だった

（キコブタケ）

退屈に打ち勝てなかった人たちが

別の色を作り始めて

それはあっという間に

無数の抗争をもたらした

人々は

自他の間に線を引くことで

無益な争いを避けようとした

線を引いて囲い込むことが

もっと多くの

もっと激しい

諍いを生むとも知らずに

（腐朽材と帯線）

　そうは言っても、線を引かない世界ってのはありえないわけで。そりゃそうですよ。生きとし生けるもの、みな線を引くことで自他を分け、そうやって生きながらえていますから。
　そういう意味で、先に示した二つの画像はとても示唆的なんです。

　一枚目の一色に見える画像はキコブタケの裏面。本体は木材の中にがっちり食い込んで、材をせっせと食ってます。つまり一色なのではなく、木との境界線が表から見えないだけです。

　二枚目はその逆で、線だらけですね。線で区切られた中身も必ずしも一様ではありません。不定形の線は帯線と呼ばれ、ある菌の侵略を木や他の菌が阻止しようとして形成されます。異なる生物間にせめぎ合いがあった証拠みたいなものですね。ただし帯線が出来ていることは、切ってみないとわかりません。

（ハカワラタケ）

　外に見える部分と見えない部分を対比すると、こんな風になります。
　左側。ミズナラの材を腐らせているハカワラタケがまぶしく照り輝いていますが、連中が何をどうしているかは外からはわかりません。
　彼らが取り付いている材の断面が右側ですが、先ほど紹介した帯線が見えますね。この木はすでに枯れていたので、木がきのこに直接対抗することはできません。複数の菌類が、枯れ木というごちそうにアタックしていることがわかります。彼らの間の線引きは、外からはわかりません。外見的にはハカワラタケの一人勝ちに見えますが、帯線があるので必ずしもそうではないんです。

◇　◇　◇

　揚子江高気圧と太平洋高気圧のせめぎ合いは、まだ続いています。
　その間の線は、二者の間に決着が着くまで揺れ続けるのでしょう。

　拮抗する、対抗する、せめぎ合う。あまりいいことでないように見えますが、自他の差や違いをしっかり意識しないと、どちらかが他方を無神経に食い散らかしてしまうことがあります。

　せめぎ合いの結果作られた線がどのようなものか。
　それが単なる識別境界なのか、もっと深い意味があるのか。

　光が何もかも境界を焼き尽くしてしまう前に。
　そぼふる雨が境界線をぼやかしている間に。
　少しばかり線の意味を考えたいなと思う、六月の終わりです。

　　梅雨前線の尾に水色のリボン結ぶ

Behind The Line　by Genesis

　デュークは、旧来のジェネシスとの間に新たな線を引いた作品でした。
　評価は割れましたが、わたしは聞き倒しましたねえ……。大好きです。

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