好きな女性がいる、という事実は長く私に圧しかかる荷物だった。
一挙手一投足が注目されて世間に広く知らしめられる立場に好きで生まれたわけじゃない、けれど国じゅうからの視線という針に刺されながら一族郎党生きてきたからと言われながら生きていく以外なかった。
国家の象徴と呼ばれる家に生まれついたが故に、世間が自分の恋をいつか暴き立てて好きな人や周囲の人に迷惑をかけてしまうのではないか?という危惧がずっと頭の隅にあった。
だから私の心はいつも漠然と死の淵に立っていたし、自室から外を恐れて歩けなくなる日もあった。
ちょっと外を出れるようになったころに出会った彼女はいつも手の届く場所で、私を淵から数歩だけ引き戻してくれた。
だからこそ私は愛する彼女と生きてゆきたかったし、同時にそれは私の生まれでは出来ない気がしていた。
けれど彼女はメディアの光の下で私を愛してる、と言葉にした。
それは必要に駆られての宣言だったけれど、私はその一言に確かに救われたのだ。
国じゅうからの視線の針という地獄の道に行く覚悟はあるのだという宣言は私にとって最初の救いであり、この人しかいないと心底思い知らせてくれた。
彼女を私の周りから排斥しないという周囲の判断にも救われた。法律上結婚できない私と彼女を認め、事実上の伴侶として扱う事が無ければきっと私たちはもっと苦しい修羅の道を歩くことになっていただろう。
視線という針からすこし離れた海辺の町で愛する人と暮らしたいという冗談のような願いも彼女と周囲の不断の努力によって叶えられ、私は人生の重荷を随分と降ろせるようになった。
「ただいまー、見て見てスーパーに鱧売ってた!」
彼女が楽しそうな顔をしてエコバックからパック詰めされた地元産の鱧を見せてくる。
東京ではめったに見ない夏の食材でふと、私たちが暮らし始めたのもちょうど鱧の季節だったなと思い出させてくれる。
「本当だね、今夜はもにするの?」
「うん。この間小さいフライヤー貰ったでしょ、あれで串カツならぬ串天ぷら祭り。それならたかちゃんも少量づつ色んな種類楽しめるかなーって」
「色々考えてくれてありがとう、今日はちょっと家事やっておいたからお米もうすぐ炊けるよ」
「ナイス!じゃあさっそく夕飯にしようか!」
願わくば、クローゼットの外に一歩飛び出して始まったこの暮らしがずっと続きますように。
気の早い七夕の祈りを胸に私たちは台所に立つのだった。




そういえばプライドマンスだなあ、という事で久しぶりにこの2人を。
初読の人にはわかりにくい気がする。ごめんね!