生まれ故郷を離れて5年、彼と暮らし始めてもう3年になる。
そんなことをカレンダーを見て気づくと同時にぼんやりと目を向けたのは国際結婚の手順をまとめたパンフレットだった。
去年のクリスマスに結婚しないかと言われてから2か月。
私はずっとこのパンフレットを手に悩み続けている。
テレビをつけると数年前から続く故郷の紛争がニュースを流れる中で、この国で生涯を過ごすか否かをまだ決められずにいるのだ。
幸い私の地元は主戦場となっていないが、それでも混迷する紛争地帯となった祖国へ愛する人を連れて行ってよいのかという迷いはある。
結婚しても問題はある。
私がこの国に来たのは柔道がきっかけで、彼もまた柔道の先生であった。
その彼の家族は妻となるだろう私に青い目の日本人であることを望んでいた。
日々白米を食べ、季節の行事には和装をし、日本的な謙遜を教え込んだ。
当初は私が相手の気遣いだからと割り切っていたが、私が彼にカーシャを振舞い故郷の歌を教えていることを知ると『それではいつまでたってもこの土地に馴染めないよ』と忠告した。
果たしてそうだろうか?この地に暮らして5年も経てばこの現地の友人の一人二人は出来るというものであるし、この国の風習も理解したうえで振舞えるようになったつもりだった。
この土地に馴染む努力が足りていないのか?と考えた私は彼の家族に理解されるよう必死に努力して学び続けた。
それでも私は青い目の日本人にはなり得なかった。
どれだけ努力しても私はこの国の人間にはなり得ず、この土地で長く暮らす異国人でしかない。それは諦めであり事実だった。
幸いであったのは彼が私に青い目の日本人であることを望まず、カーシャを食べる故郷の歌を覚えてくれた事であった。
白米とカーシャ、どちらを選んで生きるか。まだその答えは出せずにいた。




NHKでやってた「ドライブインウクライナ」というドラマを見ていて思いついた話。