久しぶりに東京に来ると、雪も雲もない街並みが新鮮に感じられる。

愛する人について東京から青森に移住してそれなりに経ったせいか、東京生まれのくせに東京の冬を忘れつつあるのかもしれない。

久しぶりの東京はバレンタインのピンクとチョコレート色に包まれ、そんな季節だなぁと思い出させてくれる。

(帰りにお土産と一緒にチョコ買ってこうかな)

そんなことを考えながら新幹線から山手線に乗り換えようと歩いていると、壁に貼られた大きなポスターに目がついた。

それは色んなカップルがチョコを手に幸せそうに笑い合う写真がまとめられたポスターだった。

若い男女の夫婦から高齢の夫婦、障がいのある夫婦や同性のカップルの写真もある。

そこに映った壮年男性同士のカップルが幸せそうにチョコケーキを食べている写真を見てなんとなく僕は豊さんのことを思い出す。

(……僕も豊さんとこんなふうに死ぬまで過ごせるかな)

豊さんの方が多分先にいなくなってしまうけど、一緒にいられるなら何度でもこんなふうに笑ってバレンタインを過ごしたいものだ。

そのポスターの写真をなんとなく撮影して豊さんに送ってから、スマホに書かれた時刻に目がいく。

(まずい、早く行かないと!)

ぼうっとしてる暇はない、東京駅から職場まで意外とかかるから早く行かないと間に合わなくなる!

そう気づくと足早に山手線ホームを目指すのだった。


***


雪かきを終えてスマホを見ると、充希くんから写真が届いていた。

一枚はさっき会社から撮ったらしい東京の冬の青空、どうやら先ほど無事に到着したらしい。

その前にもう一枚届いていた写真はチョコレートの広告だった。

様々なカップルが幸せそうにチョコを食べるだけの巨大広告の中には壮年の男性カップルもおり、その写真とともに『今日バレンタインですね』というメッセージが添付されている。

「これは、チョコ買って来てくれるってことかな」

佐藤充希という青年との付き合いがもう30年近くなり、その言葉の裏の意味ぐらいはなんとなく察せられるようになって来た。

なら今夜はチョコをデザートとして食べる前提で夕飯を準備しておこうか。

疲れによく効く食材で鍋を拵えて、食後にウィスキーを飲みながら2人でチョコを楽しもう。

そして久しぶりの東京の冬の話でもゆっくり聞かせてもらおうじゃないか。






弘前のねーちゃんがバレンタインプレゼント送るねー!と言ってくれた喜びのあまりに書いてしまったお話。作中の広告にモデルはないです