今思い出せばあれが一目惚れだったんだと分かる。
高校ラグビー全国大会予選、花園の第一グラウンドで出会ったあの人の飛ぶような走りは俺の行く先を決定づけてしまった。
(俺もあの人と走りたい!)
その衝動に突き動かされてたどり着いた時にはその人はもうシューズを脱いでいた。
でも諦めきれなくて、がむしゃらに追いかけて抱きしめて、気づいたら俺はあの人を胸に抱いて走るようになっていた。
俺の憧れもあの人の愛と絶望もみんなの勝利への願いも全部抱えて走るようになってから俺はもっともっと走れるようになった気がする。
そうしてどこまでも果てしなく走れるようになった俺は、気づいたら秩父宮までたどり着いていた。
「先輩、」
キャプテンズランを終えた俺は水を持ってきてくれた先輩に声をかける。
「なんだよ」
「先輩は俺にどこまで行ってほしい?」
先輩の足はもう走れない。あの飛ぶような走りは永遠に失われてしまった。
だけれど今は俺にその走りを託してくれた。
だから俺はこの大好きな愛すべき先輩の願いを叶えなくちゃいけないのだ。

「最低で日本一」

当然というツラで先輩がそう言うので「ははっ」と笑い声が漏れる。
「先輩ってばゴーヨクじゃん」
「当然だろ、俺はずっと自分の足で日本一獲るつもりだったのにお前が俺に託せって言うから託してやったんだ。それぐらいしなきゃ元がとれねえ」
「じゃあまずはこの後勝って先輩に元取れたって思って貰わなきゃ」
先輩の走りも心も全部俺が貰ったから悔やむ暇なんて絶対にあげない。
俺はあなたの足になって世界のてっぺんを見に行く、ここはその始まりの一歩だ!




-終-

この話のネタ元