「……このリュック重くない?」
トイレに行くから預かっといてと言われて抱えた智幸さんのリュックは、思いのほかズシリとしていて思わずそう聞くと「仕事に必要なもの全部詰め込んでるから」と当然のようにさらりと答えた。
「何入れたらそんなに重くなるの?」
「仕事用のパソコンとPC周りの道具類が重いだけ」
智幸さんあんまり体大きくないのに色々持ち歩いてるんだなあ。
「お前は手ぶらが多いよな」
「あんまりいっぱい持ってるの苦手で」
俺は引っ越しの多い生活のせいで物は少なく身軽なほうがいいという価値観がすっかり身についてしまい、日常においても必要以上にものを持ち歩かないことが多かった。
ズボンのポケットに入るだけのものがあればいいし、化粧直しも仕事先のメイクさんに借りるとかメイク道具貸し出しのあるパウダールームに駆け込むとか方法はある。
「私も最低限まで削ってるんだけどな、これ以上減らすと迷惑かけないかとどうにも不安で」
「そっかあ」
迷惑をかけたくない智幸さんと、そういうのはお互い様だからとあまり気にしない俺。これが価値観の違いという奴なんだろう。
ひとと違う事は生きていくうえで難しくしていく。そういう苦しみを一番よく分かってる人なのだ。
「にしてもまさか先輩たちの単独公演にお前がお呼ばれするとはなあ」
「いいじゃん。岸菜さんが中日のゲストにって頼んできたんだもん、夕飯も奢ってくれるし智幸さんがコント台本書いたんでしょ?俺ちょっと見てみたかったし」
「……私の台本は普通だよ。先輩たちが面白くしてくれるだけで」
智幸さんはこういう時も真面目に自分の先輩を立ててくれる。
俺たちは違う。だから、面白くて大好きだ。



特に内容のない話