子どものころ、俺はいつだって集団の中に馴染み切る前にそこを去る運命だった。
何かの折に以前住んでいたところに戻って見ると俺は覚えてるのに相手のほうが俺のことを忘れてる……なんてざらで、それで忘れられるのが怖くなったんだと思う。
それでも思春期になれば性の目覚めを迎えたし、俗にいうデブ専という性癖であることを理解すると俺はそれを言うか言わないか迷いながらも口にした。
同級生からはゲテモノ食い・趣味が悪いとイジられたけど明確な嫌悪や攻撃の対象にはならず、最後は好みの女子が釣れるしいいかと割り切ってしまった。
しかし、芸能界に入ればそのゲテモノ食いはマイナスだった。
『タレントならまだしも俳優にゲテモノ食いの趣味なんかあったらイメージ良くないでしょう』
それが最初の担当マネージャーの言葉だった。

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「で、現在までそのデブ専性癖は公にされてないと」
いま俺の目前に座る恋人との関係はもうすぐ4年になる。
木村千金、本名度会智幸。放送作家。
俺好みのふわっふわボディと落ち着いた声の持ち主だけど、仕事にクソ真面目な職人でちょっとネガティブな人だ。
というか智幸さん、俺が抱きしめるのにちょうどいい身長なんだよなあ。ふわふわだし匂いも俺好み。
4年かけて日常的スキンシップに慣らし、事務所に色々言われつつもようやく半同棲状態にまでこぎつけた。
「そういうこと。でももうそろそろ、落ち着くところに落ち着きたいなって」
「事務所はお前のことキラキラわんこ王子様系イケメンで売りたがってるからなあ、放送作家よりどこぞの女優のほうがイメージとして売りやすいんじゃないのか?前に女優と撮られたときも事務所側だって匂わせてたろ」
もう一年前になるが、うちの事務所の後輩の女の子との恋愛疑惑を書き立てられたことがあったのだが事務所側もこの後輩を売り出したい思惑もあってわざと匂わせてたことがある。
このとき、智幸さんは俺の番号を着信拒否して老舗ホテルで狂ったように仕事していたのを見かねた岸菜さんが俺に連絡をしてくれてようやく言い訳できた……という事がある。
「というかデブ専カムを事務所が完全拒否なのほんとわかんないんだよね」
「お前をバラエティやワイドショーのいじられキャラにしたくないんだろ、まあお前が面白キャラなのバレてるからもう無理だと思うけど」
俺もそう思う。
わりと素に近いキャラで通してるし、たいていの仕事okしてるからもう何言っても世間から非難されないと思うのにな。
「……人に、デブ専のことからかわれたりイジられるの平気なのか?」
「それより俺は好きな人のこと好きって言えないほうがつらい」
俺が太ってる人が恋愛的に好きなのことを変わってると思われたりするのはちょっとモヤッとする部分はある、けどそれ以上にいま俺の腕のうちにある人が大好きなことを大きい声で叫びたい。
「早く一緒になりたいなあ」
「それはどういう意味だ?」
「言葉通りの意味、一緒に人前に出て『俺たちこんなにラブラブなんですよー』って言いふらしたい」
ちょっと太めの指をなぞり、左手薬指を重ねる。
ここにいつ俺たちは同じ指輪をはめられるんだろう?



とりあえず書きたいものを書いた。あまい。
真珠星はスピカのことで、珊瑚星はアークトゥルスのこと。この二つの星は夫婦星とも呼ばれるらしいよ。甘ったるいね。