番組がCMに入るとすぐ井澄明人はラジオブースを出て、私は即座に収録室から出て井澄を壁に押し付けた。
「井澄彰斗、お前は私が好きだって言ったよな」
「うん」
「私がもし違う職業についてても、初対面で逃げないような奴でも、スラッとした美女でも、好きになったのか」
その問いに目前の相手は少しだけ考え込んだ。
「……スラッとしてたら一目惚れはしなかったかなあ。あ、でもね、恋でも友情でも尊敬でも何かしらの形で好きにはなってたと思うよ。俺が出会ってきた中で一番仕事に情熱的で愚直なひとだから」
「そうか」
「もしかして、俺のこと好きになってくれた?」
「嫌いではない」
そう告げると井澄は実に満足そうに微笑んだ。
いわゆる壁ドン状態になっていたのを解放すると井澄は「だいすき」とつぶやいた。
「この後俺をもっと饒舌にする魔法かけてよ、キスって言うんだけど」
「残念だな、もうCMが終わる」
そう言って井澄をラジオブースに押し込めた。

***

ラジオが終わるとこれから大阪だからと、私に自分のLINEIDと携帯番号を押し付けて次の仕事へと向かっていった。
電話番号を打ち込んでSMSを送り付けると画面に花びらが舞い散った。そういうサービスでもあるんだろう。
すぐに電話が鳴り響いて通話ボタンを押すと『木村さん何でショートメッセージなの?!』と大声が響いた。
「うるさい、あと本名で呼んで」
『あ、木村って偽名?』
「仕事用の名前ですよ」
仕事仲間に教えたことがない渡会智幸の名を口にすると『わたらいちゆき、さん』とちいさくつぶやいた。
その響きは過去からほんの少し一歩距離のある響きに聞こえた。
「これから地下鉄なんで切りますよ」
ああ、なんだか今日は気分がいい。




おわり
本編全然進まなかったけどいちおう本編終了です