成人式の実行委員なんて引き受けるもんじゃない。
同級生たちは先にカラオケへ行ってしまったし、私も慣れない振袖をたすき掛けして片付けの手伝いに入ってそっちにケリがついたら合流しに向かう事になっている。
概ね片付いた成人式会場は静かでただっ広い。
市民ホールを出ると佐藤のおばさんがタクシーを捕まえているのが見えた。
「おばさん、」
「あら秋恵ちゃん、これから帰り?」
「会場清掃手伝ってて。もし良ければ相乗りさせてもらえません?」
「いいわよ、どこまで行くの?」
「甲州街道沿いのカラオケ屋なんですけど。半額出すんで」
「奢るわよ」
「……じゃあ、すいません」
私がタクシーに相乗りするとおばさんは運転士に注文を付けると、私を隣に座らせた。
タクシーは甲州街道へと向かって走り出す。
「まったく、あの子も秋恵ちゃん放置していくなんて」
「しょうがないですよ、終わって即二次会に引きずられていきましたからね」
佐藤充希と言う少年が中学時代学年では上位に入るルックスや真面目な人柄で結構人気があったにもかかわらず、本人はわき目もふらず趣味と勉強に打ち込んでいたせいで高嶺の花的な扱いになっていたことを思い出す。
「ほんとよねえ、大学入っても豊さんとラグビーの事しか考えてないもの」
それを言われると思わず視線がそれた。
この人の息子である佐藤充希と言う人間が私の父親である竹浪豊と言う人にどれだけの愛と熱量を注いでるか、私は嫌と言うほど知っているから気持ちは複雑だ。
「ま、あの子が女の子の話するのも想像つかないし好きにさせるわ」
「……おばさんは嫌だとか思わないんですか?いい年こいて女っけ一つも無くて」
「女っけあるじゃない。秋恵ちゃん。」
冗談交じりにそう言うので「勘弁してくださいよ~」なんて私が笑い飛ばす。
正直私はちゃんと相手がいるからご遠慮いただきたい。
「正直言うとね、もしあの子で末代になったらご先祖様に何言われるかとは思うのよね」
その台詞で思い出した。
佐藤家は元々日野で結構長いこと続いてる名家で、立派な邸宅に住んで近隣にいくつか土地も持ってるってことをだ。

「でも、あの子がどんな大人になったって私は受け入れるだけ。
あの子が生まれてからの20年間でやれることはやったし、親として教えられることは教え切ったからあとは本人に託すしかないじゃない」

おばさんはからりとした声色でそう告げる。
ひょっとして父さんと自分の息子のことに気づいてるんだろうか、と疑うくらいに腹が座ってる。
「……そうだね」
タクシーが止まると、そこは目的地のカラオケ屋だった。
私は車を降りて「おばさん、」と声をかける。
「うん?」
「タクシー助かりました、あと子育てお疲れさま」
「二十歳の子供の台詞じゃないわね」
おばさんはそう言いながら遅めのお年玉と言って五千円札を押し付けて車のドアを閉めた。


成人式の話まだ続いた。
親の考える理想の子供になれなくても子どもにも親にも罪はないよなあと考える本日の25歳児かなはさんです