「懐かしいなあ」
豊さんがふいにそんなことを言っていたのは、振袖の秋恵ちゃんのせいだろう。
冬晴れの成人式のなかで中学の同級生と笑いあう長女を見て父親としての感慨と言う奴が湧いたのかもしれない。
「思い出でもあるんですか?」
「うん、日本選手権決勝出られなくて悔しかった記憶」
豊さんの大学時代、日本選手権は大学日本一と社会人日本一が成人の日に試合を行って日本一を決めるのが通例になっていた。
あの時代の学生ラガーマンが成人式よりも日本選手権に出たがることは想像にたやすい。
「悔しいから日本選手権見ないでふて寝してたよ」
「まあそうなりますよね……」
「それに俺は充希君みたいに紋付き袴着ての成人式じゃなかったしな」
「何でですか?」
「正月終わったらすぐ東京帰っちゃったからな」
両親か蔵の奥から引っぱり出してきた古式ゆかしい紋付き袴ははっきり言って会場で浮いていたが、どうせこの先着ることもないだろうと大人しく受け入れて着用していた。
「そもそも豊さんの頃でも成人式に紋付き袴はないと思うんですよね」
「無かったな、でも結婚式では着たぞ?」
成人式を懐かしがり、過去形で結婚式を語る。それだけこの人は年上なのだとふいに思い知らされる。
「じゃあ、僕と挙式するときも着てくださいね。紋付き袴」
豊さんがは?と間の抜けた声を出してると遠くから「佐藤くん!」と声がかかる。
どうやら同級生たちが僕を呼んでるようだった。
「じゃあ、行ってきます」
履き慣れない下駄で小走り気味に冬の道を走る。
あの人の隣に並べるだけの僕でありたいと、想いながら。


すっかり忘れてた佐藤くんと竹浪さんの話
そう言えば豊さんは早稲田卒なので今年の大学ラグビー選手権で響く荒ぶるを聞いて感涙したりしたんですかね。
ちなみに姉上から「青森の成人式は冬だよ」と突っ込まれアーッとなりながら修正するのであった……雪国は一律夏にやると思ってた……