「そう言えば成人式どうするの?」
久しぶりに顔を合わせた友人兼父親の彼氏がコーヒーを飲みつつ問えば「たぶん仕事」と返すほかない。
10月半ば、数日遅れの誕生日祝いとして奢って貰った厚切りローストビーフランチを大事に咀嚼しながらほかほかのパンを口に放り込む。
「予定とか出てないの?」
「さすがにまだ10月だしね、父さんに前撮りの写真どうする?とか言われてるし11月中に休み取れればその時撮るかとは思ってるんだけどね」
「ふうん。写真撮ったら見せてね」
「いやなんで?」
「うちの母さんがたぶん見たいって言うから」
佐藤家母は一人息子のことをそれはそれは大事に育てたが、それとは別に娘が欲しかったと常々言っており母のない私たちを娘代わりに思っている節があるのでまあ分からないでもない。
「分かった、おばさんによろしく言っといて」

―で、3か月後―
「まさか成人式前日に前撮りとはなあ」
父さんが苦笑い気味にそう呟く。
福岡の実家から届いた母さんの振袖を専門の人に着つけて貰ったが結構ずしりと重い。
「これでも仕事明け直行なんだけどね」
11月は七五三シーズンで会ったことを失念した私は見事に前撮りを忘れ、12月は仕事に追い立てられて気づけば年が明けていた。
年の瀬の予定を聞きに来た時にまだ前撮りを取ってないと聞いた父親がツテを頼って国立にある写真館の予約を取り、私は仕事明けの身体を引きずって無理くり国立までやってきた。
終わったら振袖を日野の家に持ち帰って、翌日もう一度振袖で成人式に出ることになる。
「もっと計画的にすればいいのに」
夏海が呆れ気味にそう言うが、高校に入った途端卒業後の渡仏を見据えて準備を始める夏海の計画性の方が異常だと私は思う。
「あ、ごめん写真撮って」
携帯を渡すと「はいはい」と言って数枚の写真を撮る。ついでに自分の携帯でも写真撮ってやがるこの父親。
「でもあとでちゃんとしたカメラで撮るだろ?」
「佐藤のおばさんが見たがってるって言うから」
「なら俺の方で送ったのに」
そう言いつつ写真は瑞穂さんに先に送った。佐藤のおばさんとはたぶん成人式会場で会うからその時でいいだろう。
カメラブースの準備が出来ましたと写真館の人から声がかかる。
「じゃあ行ってくる」
長い袖を揺らしながら、大人になったという事をぼんやりと思う。

私は後何年生きて、何年警察の仕事を続けるだろう。
けれどこの長い人生のそばに、愛する家族と、瑞穂さんがいてくれたらいいなと祈るのだ。

成人式の秋恵ちゃん