女子ラグビー部の練習は基本的にきつい。
冬休みに入っても部活が入っているし土日は何かしらの試合で埋まる。
パス練習、シャトルラン、テニスボールを使ったキャッチ練習とその内容はキリがない。
例え今日が聖なる夜・クリスマスであろうとも練習は続いていく。
「……お腹空いた」
シャトルランを終えてふいに口をついたのはそんな言葉だった。
日が暮れて過酷な練習が終わり、お腹がぎゅるりと鳴いた。
「わかる」
「嘉穂いま何食べたい?」
「ケーキ、それもチョコレートたっぷりでちょっとラスベリーソースのかかった奴」
「分かるすごい食べたい」
練習が終わると自宅生の友達は駐輪場へ、私と嘉穂はのんびり歩いて寮の食堂へと向かう。
寮生は毎日三食食事が出るが非運動部学生も一緒なので量は一般的な定食屋さんと変わりがなく、希望する学生にはおかずが追加される。
本日の夕食はご飯とみそ汁、ささみ巻きチーズとフライドチキン、冬野菜のサラダにショートケーキ。
空腹を満たすために大量の米を盛って食べるのが我ら女子ラグビー部の習わしである。
「「いただきます」」
それらを1時間かけてしっかり咀嚼して綺麗に平らげるのはもはやこの寮の日常であった。
ラグビーを始める前は大盛りご飯なんて食べようとも思わなかったが、この過酷なスポーツに体も心ものめり込んでしまった今では当然となっている。
練習がしんどければしんどいほど、ご飯は美味しいのである。
「……ねえ春賀、まだ入る?」
「入るわ」
夕飯を綺麗に平らげると、私達の脳裏にはあるものがよぎった。

「「チョコケーキ食べに行こう」」

うちの高校は島根の地方都市にあるが、町の中心部からは少々離れていた。
門限には余裕があるから、中心部までケーキを食べに行けるはずだ。
「寮母さん、チャリ貸して!」
「外出届も!」
急いで外出届を書いてチャリの鍵を借り、蛍光イエローのたすきをひっかけ(こっちの夜道は暗すぎてないと怖いのだ)全力でチャリを漕ぐ。
目的地は高校からチャリで30分程のところにあるイートインのある洒落たケーキ屋だ!
真夜中のように暗い夜道をバカ騒ぎしながら走って行けば、閉店間際のケーキ屋が見えた。
「すいません!」
「チョコケーキありますか!」
店主は驚いたようにこっちを見てから、「ありますよ」と優しく答える。
イートインに腰かけると出てきたのは濃厚なチョコレートのケーキに暖かい紅茶の入ったポット、そしてサンタのジンジャークッキーが二枚。
「写真撮っていい?」
嘉穂がスマホを取り出して私の方に向けるので、私はサンタのジンジャークッキーを手にニッと笑うのだった。

***

―数年後―
「よくその時の写真残ってたよねえ」
「だって楽しかったし」
嘉穂がニヤリと笑いながら見せてきたのは高校生の私とジンジャークッキーの写真だった。
いつしか最高の友達にして最高の恋人になってしまった彼女は私にジンジャークッキーを押し付けてきた。
「写真撮っていい?」
だから私もクッキーを手にニッと笑うのだ。



ちょっと早めのクリスマスのお話