1月2日、日本海側一帯を厚い雪雲が覆って町は白に包まれていた。
庭に2センチほど薄く積もった真っ白の雪に冬湖が嬉しそうに「雪だ」とつぶやいた。
特段やることもない正月の街を包む雪をぼんやりと眺めていると、電話が鳴り響いた。
「誰の電話だ?」
「お父さんのだよ」
こたつに入っていた夏海がけたたましく着信音を鳴らす携帯電話を渡してくると、発信元は佐藤充希となっていた。
「もしもし、」
『豊さん、僕です。あけましておめでとうございます』
「うん、あけましておめでとう」
『そっちは雪だってテレビでやってて、大丈夫でしたか?』
「別に大したことは無いよ、薄く積もってる程度だから。証拠写真でもいるか?」
『豊さんが平気だって言うなら大丈夫です、こっちはもう暇で暇で……』
佐藤家の人々は両親ともに東京近郊の人なので帰省するということがなく、親戚や仕事のあいさつに来たひとを相手にする事はあれど充希くん自身は正月にやることは特にないのだと言っていた。
『一緒に福岡行けばよかったかなあ』
「佐藤の家のお付き合いがあるんだからそれはまた別の機会にね、初詣は行った?」
『大國魂神社に二年詣でしました』
「そっか」
『3日の5時に羽田着でしたっけ、帰り』
「うん。それまでは大人しくまってな」
『……お土産期待してますね。それじゃあ』
電話を切ると義父が「誰からの電話だ?」と尋ねて来たので「友人です」とあいまいに誤魔化した。
「豊君も東京暮らし長いものなあ、あちらに友人もできるというものか」
「ええ、暇を持て余してたみたいで」
「正月ぐらいのんびりするのが一番だろうになあ」
朝一番からおせちを肴に日本酒の大瓶を開け始めた義父の付き合いで、自分も湯呑に少しばかりの酒を注ぐ。
後ろから人気がして振り返ってみれば、ウィンドブレーカーとネックウォーマーという朝練準備を済ませた春賀だった。
「いたのか」
「さっきからずっと居たよ……というか、朝から呑んでるの?」
「正月だからな」
その日、雪は一日中しんしんと降り続け翌日になっても止むことは無かった。

***

1月3日、飛行機にはまだ早いが娘たちと共に小倉の街へ出ることになった。
まだ松の内も明けていない街は華やかに賑わっている。
「お土産ほんとどうしようかなあ」
「普通にお菓子で良いんじゃないのか?」
「そうするつもりだけどこれからの長距離移動考えると崩れそうなもの持っていけないんだよね」
パリでお世話になっている人に配るのだというお土産選びに苦戦する夏海、これでいいやと大箱入りのお菓子を4つも買い込んだ春賀、冬湖は一人ひとりに合わせてちゃんとお菓子を選んでいて、妙なところで性格が出ているところにおかしみを感じてしまう。
「父さん、今何時?」
「11時前だな、そろそろ小倉の駅行く時間じゃないか?」
春賀はこれから小倉で新幹線と特急を乗り継いで高校のある島根に戻る。
せっかくだからみんなで改札まで送るよという話になり、小倉の駅を目指していると
春賀が「お父さん、」とこちらを向いた。
「佐藤くんと一緒にいれて幸せなんだね」
「……そうだな」
「昨日の朝の電話、佐藤くんでしょ?楽しそうだったよね」
「うん。春賀が佐藤くんの事好きだって、聞いたぞ。なんか春賀の初恋汚しちゃったみたいだけど……父親として、春賀には幸せになって欲しいんだ」
「なるよ、お父さんよりも幸せになる」
少しだけ春賀の気持ちは落ち着いたようだった。
「ああそれと、父さんからのお土産だ」
ポケットに入れておいたのは元日に買っておいた宗像大社のお守りで、春賀は「ありがと」と呟いた。



そんな訳で年末年始の竹浪家でした。というかまだクリスマスも終わってないのに何故大晦日の話を書いた?