大晦日、義弟から借りたワンボックスカーで向かうのは街の郊外にある墓地だ。
「お寺さんに挨拶してくるから四人で墓掃除しといてくれるか?」
「了解」「わかった」「「はーい」」
四人四色の返事をしながら花束やお供え物を持って妻の墓へと向かう、
お寺の本堂に足を延ばすとここを管理しているお坊さんが顔を出してきて「お久しぶりです」と声をかけてくる。
「毎年の事ながら暮れのこの忙しい時期にすいません」
「いえいえ、緋沙子ちゃん今日が誕生日なんでしょう?」
「……こう遠いと命日にも来れないですからせめて誕生日くらいは祝ってやりたいと思いまして」
そう、12月31日は亡き妻の誕生日だった。
それで年末こちらへ来るついでに妻の遺骨が眠るこの墓地へ毎年足を延ばしているのだった。
「縁もゆかりもない東京や青森に埋めるよりこっちのほうが知り合いも多くて良かろうと思って埋めたのは良いですけど、年末にしか来てやれないのは申し訳ない気もするんですよね」
もっと身近に埋めてやれば毎日でも会いに行けたのだがもう埋めてしまったのでしょうがない、と苦笑いをこぼすとお坊さんは「こういうのは気持ちが一番大事ですよ」と返してくる。
「そうならいいんですけどね」
お布施とお焼香を済ませて亡き妻の眠る墓に着くと、娘たちは墓掃除を終えている。
「早いな」
「お父さんが来るのが遅いだけよ」
「夏海がそう言うならそうなのかな」
妻のために買った小さなバースデーケーキに夏海のフランス土産と春賀の島根土産が墓前に花束と共に供えられる。
生きていればもう50近くなる妻を今も娘たちは覚えているのだと思うと、心は穏やかに安らいだ。
「ひーちゃん、誕生日おめでとう」
小さく声をかけると娘たちも静かに笑っていた。

***

墓参りを終えると義妹から『帰りにお餅につけるきなこと海苔を買ってきて欲しい』とメールが届き、この後こちらにいた頃の友達と会う予定があるという秋恵を途中で降ろし、四人で近所のショッピングモールへ足を延ばした。
そう言えば青森の親戚たちの分は現金書留で郵送してあるが、こちらの親戚たちに渡すお年玉の準備をしていないことを思い出してぽち袋を探していると夏海がじっと何かを見ていることに気付いた。
「夏海?」
「お父さん、」
その手に持っていたのは和柄のはぎれセットで「欲しいのか?」と聞くと「違うの、」と返してくる。
昔から夏海はこういう綺麗な布が人一倍好きな子で、青森に帰るとうちの母親から刺繍や手芸を教わっていたものだった。
それが長じて高校出たらフランスに服飾の勉強をしに行くと言い出したときは一族全員が大騒ぎになったが、晴れて渡仏してからも時折届くメールで順調に生活できていることは察せられた。
「こういうのお土産に持って行ったら喜んでくれるかなって」
「フランスで知り合った子か?」
「うん、同じ学校の同級生ですごくセンスのいい子だからこういうの渡したらすごく素敵なドレスにするんだろうなあって」
夏海が楽しそうに顔をほころばせると「その子が好きなんだな」と呟いてしまう。
「いや、好きとかそう言うのじゃなくて!」
「そうか?俺も覚えがあるぞ、そう言う気持ちは」
「え?」
「ひーちゃん、夏海のお母さんと出逢った頃がそんな感じだったな。目の前でカッコいいプレーしたら喜んでくれるかなってよく考えてた」
「そうなの?」
「俺だって男だからな、好きな人の前ではカッコいいところ見せたいんだよ。という訳で夏海にもこれを買ってやろう」
夏海はしばらく考えてから「そうする」と告げて和柄のはぎれの詰まった袋を3つ選んで渡してきた。
「おとーさん、ついでにこれ買って」
冬湖がついでにと渡してきたたらこのぬいぐるみは当然のように却下した。