俺は決して、目立つ選手じゃなかった。
どこまでも泥臭くやっていくだけの、45という年のわりに少しばかりスタミナがある事だけが取り柄のだけのフランカー。
「あの、竹浪さん、」
なのになぜ、
「俺、竹浪さんが好きです」
娘と同い年の男の子に告白されているのだろうか。

あの壁を越えていけ


「で、逃げて来たと」
長女による焼きそばと野菜ジュースを目の前につきだされ、大人しく野菜ジュースを受け取る。
亡き妻に似た柔和な面立ちを釣り上げてくるのはなかなか迫力がある。
娘がこんな風に怒りを感じさせるのはもう数年ぶりだが、ラグビーをやめようかと考えた時に比べればまだましと言うものだ。
「ねーちゃん何しとんの」
「とーさんのお悩み相談、冬湖ははよ寝んね」
「はーい……」
末の娘は麦茶をグラス半分も飲んでいくとさっさと戻っていく。
よくよく考えると娘に恋愛相談する父親って相当間抜けなのではないだろうか?という自問が沸き上がるが、喋ってしまった以上洗いざらい語るほかない。
「しかもとーさんの口ぶりやと、言うてきたのってあたしの中学の同級生の佐藤くんやろ?そういやとーさんとこのチームで広報のバイトしとるんやったっけ」
「……勘が良いな」
「一手先を読まなあたしみたいなちびは一本が取れんからね」
さすが日本の誇る女子剣道の名選手、俺の娘ながら一枚上手である。
ロクに何もできなかった俺の代わりに素晴らしい娘を四人も育ててくれたものだと亡き妻に心から感謝したいが、こうも先を読まれるといっそ怖い。本当はお前千里眼でも持ってるんじゃないのか?
「明日ちゃんと返事したら?」
「何を仰いますかねこの子は、相手から誘ってきたとしても未成年に手を出すのは犯罪なんですよ?」
「ちゃんと断れって意味で言うたんやっちゃけど」
「そうね……」
「と言うかとーさんまさか男の人と付き合ったことが……「ない!無いからな?!」
ここだけは断固主張したい。
ラグビー選手はゲイが多いなどと言うが、決してみんながみんなゲイな訳じゃない。
海外にはゲイのラグビー選手もいるし、俺が知らないだけで日本にもゲイの選手がいるのかもしれない。この間社内研修でそういう話聞かされたし。
だがラグビーやってる奴にはゲイが多いというのも偏見である。
世間には日本代表候補にまでなったのに嫁に逃げられたことが遠因となって退社後の消息不明になった奴もいるのだ……いや、これは蛇足だな。
「……まあいいや、明日ちゃんと断りなよ。あたし洗濯物回したら寝るから終ったら干しといてね」
「了解、お休み。秋恵」
「おやすみ、とーさん」

***

告白してきた佐藤充希と言う子は、長女の中学の同級生で俺の所属するチームの熱烈なファンだった。
練習が見学できる日はいつも彼がいて、コアなファンと対等に話をし、様子を見に来た娘たちに内容を解説している姿も見かけた。
高校生になった彼が正式にチームのスタッフ見習いとして他のスタッフに混じって働くようになると、高校を出たばかりの若手選手から齢50を過ぎた外国人監督までその若々しい真っすぐさとラグビーへの愛情で多くの人たちから愛されていた。
しかし彼はずいぶんと俺のことが好きなようで、何かと目で追いかけられている感じはしていたし、彼の言葉の端々から好意は感じていた。
……それはあくまでも、ラグビー選手としての俺が好きなのだろうと思っていたのだが。
『俺、竹浪さんが好きです』
あの真っすぐで熱い目が、頭から離れない。
いや、ほだされちゃダメだ。
相手は17歳男子、しかも娘の中学の同級生。
子どもの時からの病気で激しい運動が制限されているという彼は、年の割には細くて色の白い印象以外は子どもなのだ。
でも、どうしたらいいのだろう。



(あの目に今も、心が揺り動かされているなんて!)

フォロワさんからのプレゼントの御礼で書いたお話。
「年下痩せ型マネージャ×年上ラクビー選手」という陸だったのですが気付いたらなんだかすごいことになっちゃった上に、続きを求められたのでまだ少し続きます