〇〇「・・・・・・ん?」

庁舎に足を踏み入れるなり、思わず立ち止まる。
・・・・・・なんだか、雰囲気が・・・・・・おかしい。

(何かあったの・・・・・・?)

婦警1「ちょっと!聞いた!?」
「野村さん結婚するらしいよ・・・・・・!!」

〇〇「ぶっ!!」

婦警2「ええっ・・・・・・!!?」
「う、ウソ!?」

婦警1「あ、はみ出し二課の△△さん」
「あなたも初めて聞いたの?」

〇〇「あ、え、あの・・・・・・」
「まぁ・・・・・・」

婦警2「ていうかガセじゃないの?」
「うちの課の『村野』さんの間違いとか」

婦警1「違うって、マジだよ」
「昨日、野村さんが刑事部長に話してるの、部長の秘書の御堂さんが聞いたんだって・・・・・・!!」

婦警2「えええ・・・・・・」
「相手は?」

婦警1「それは、タイミング悪かったみたいで聞けなかったって」

刑事1「え、ちょ・・・ちょっと、待って」
「それマジ!?」

刑事2「野村さんって、あの野村さん?」
「合コンの達人の!?」

婦警1「そうなんです!」
「刑事部副参事官の野村さん!」
「相手、どんな人なんだろう」

婦警2「ねぇ、△△さんのところの課長、野村さんと仲良しだよね」
「誰か知らない?」

〇〇「・・・・・・え?」
「ああ、えーっとですね・・・・・・」

『私』です、なんて言う勇気はない。

婦警1「野村さんだ!
「野村さーん!!」

〇〇「えっ」

野村「ん?」
「ああ、オハヨー」

自動ドアを通って、忠信さんがのんびりとした足取りでこちらに向かってくる。

野村「あれ、○○ちゃんも」

〇〇「おお、オハヨウゴザイマス・・・・・・」

野村「・・・・・・?」
「どうしたの~?」

婦警1「野村さん、結婚するって本当ですか!?」

野村「・・・・・・え」

忠信さんは一瞬驚いたように眉を上げて・・・・・・

野村「まーね」
「びっくりした~?」
あっけらかんとそう言った。

婦警2「ほ、ホントなんですか!?」
本気なんですか!?」

野村「それはホントだし本気だよ~」

刑事1「マジなんすか!」
「相手は・・・・・・」

野村「この子」

忠信さんはさらっと言って、私の肩を掴んだ。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

婦警3「ちょっと△△さん、聞いたよ!」
「野村さんと結婚するんだって!?」

〇〇「!!」

『野村さんはみんなの野村さんなんだから、独り占めしようなんて思わないでくれる?』

あの日の夢で言われた台詞が蘇る。

『野村さんって、かっこいいしエリートだし、何もかも完璧だと思ってたのに』

『唯一の欠陥は、女を観る目がないってことだったわけね』

〇〇「あ、あの・・・・・・」

婦警「いやー、さすがはみ出し動物園の猛獣使いだよね」

〇〇「はい?」

婦警3「だよね~」
「攻略不可能と言われた野村さんまで手懐けちゃうなんてさ!」

〇〇「・・・・・・は、はい・・・・・・?」

婦警4「陰ながらショック受けてる子は多いだろうけど、△△さんなら皆納得せざるを得ないよね!」

婦警3「ホントホント」

〇〇「・・・・・・」

・・・・・・拍子抜け。

婦警4「おめでとう!」

婦警3「あっぱれ!」

〇〇「・・・・・・ありがと」

夢みたいなことになる心配はなかったらしい。
その代わりちょっと不本意な部分で感心されてるけど、複雑だけど、とびきり嬉しい気分で彼女達に笑顔を返した。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

〇〇「は、は、初めまして」
「△△〇〇と申します!」

忠信さんの実家。

野村母「ま~可愛い子ね」
「・・・・・・あら、でも若いんじゃないの?忠信」

野村「そー、9歳下」

野村父「9歳!?若いじゃないか」
「男のロマンだな!」

野村「いや、年で選んだ訳じゃないからね?」

野村父「そうか、顔か!」
「お前は、本当にどうしようもない・・・・・・」

野村「親父・・・・・・」

忠信さんはこめかみを押さえてため息をついた。

野村「そりゃあ顔も気に入ってるけど・・・・・・」
「もしこの顔じゃなくても、俺は絶対○○を選んでた」
「彼女以外考えられない」

〇〇「!」
「・・・・・・」

野村「二人とも○○を知れば分かるよ」
「どうして俺が彼女じゃなきゃだめなのか」

野村母「・・・・・・」

野村父「・・・・・・聞いたか、母さん」

野村「聞いたわ、お父さん」

野村父「一生結婚しないって豪語してた忠信が・・・・・・!」

野村母「仕事と女遊びに一生を捧げるはずだった忠信が・・・・・・!」

何だか、だんだん芝居がかってきた・・・・・・

野村「・・・・・・あのさ、テンション上がるのは分かるけど、とりあえず落ち着いて」

野村母「これが落ち着いていられますか!」
「お母さんねぇ、義理の娘と美味しいもの食べに行ったり、料理したりするのが夢だったのよ!」
「あんたが結婚しないなんて言うから、いつもいつも妄想で間に合わせてたけど・・・・・・」
「これで長年の夢がかなうのね!!」
「・・・・・・ねぇ、○○ちゃん」
「ちょっと『お義母さん』って呼んでみてもらえる?」

〇〇「えっ、い、いいんですか」
「お義母さん・・・・・・!」

野村「やだ~、嬉しいわ!!」
「忠信!○○ちゃん泣かせたら、一生家の敷居は跨がせませんからね」
「そのつもりで」

野村「・・・・・・はいはい」

素っ気なくそう言いながらも、忠信さんは嬉しそうだった。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

〇〇「えっ」

野村「・・・・・・」

お義父さん達がわざわざ用意してくれたホテルに行くと、ベッドの上に薔薇の花が散っていた。

野村「・・・・・・これは・・・・・・」
「・・・・・・」

〇〇「・・・・・・」

顔を見合わせて、くすぐったさに思わず吹き出す。

真っ白なシーツの上に散らばった真っ赤なバラ。
二人は私たちの結婚を喜んでくれている。
そのことを痛感して、思わずにやけてしまう。

(お礼の電話しなきゃ!)

胸踊るような気分でその真っ赤なバラを眺めた。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

お風呂から上がって戻ると、忠信さんが裸のままベッドに寝そべっていた。

野村「・・・・・・お帰り」

〇〇「・・・・・・ただいま」

野村「こっちおいで」
「演出過剰なベッドだけど」

おどけるように笑って、忠信さんはポンポンと自分の隣を優しく叩いた。
ともすれば子供っぽい体勢なのに、なぜ忠信さんがやれば無駄に色気があるのだろう。

私は走り始めた鼓動をなんとかしようと目を泳がせるけど、どうせ無駄だ。
悔しいけれど、この人には一生ドキドキさせられそうな気がする。

〇〇「・・・・・・はい」

甘ったるい敗北感とともに、私はベッドに滑り込んだ。
目の前の人が愛おしくて、愛おしくて、気を抜いたら、涙がこぼれそうになる感覚。

薔薇の芳酵な香りとシャンプーの香りに包まれて、私たちはまるで一生離さないという意思表示みたいにきつく抱き締め合った。