それは、アップライトピアノ。
高校入学のお祝いを兼ねたもの。
それまで、家には、小学校入学前に買ってもらった電気オルガン(電子ピアノなど無かった時代のもの)があった。
ピアノから比べると、鍵盤の数が少なく、「エリーゼのために」が弾ききれなかったのを覚えている。
中学校2年の時。
新採用の音楽の先生が、生でモーツァルトのソナタ(K331番 トルコ行進曲付き)を弾いてくれた。
今思うと、音楽大学のピアノ科卒業の先生だったのだろう。
とにかく。
人生初の生演奏に、魂が震えた。
その後、私の願いは、ピアノを買ってもらうことになった。
一生懸命勉強して、希望の高校に入学。
ピアノも習い始めた。
しかし。
高校の音楽の授業で、小さい頃からピアノを習っている人と、そうでない人との「差」に愕然とする。
リズムが取れない。
楽譜が読めていない。
薬指と小指が動かない。
それでも。
指の練習方法を友だちから教えてもらい、努力する。
動かなかった指の付け根が熱く感じるくらい動かすと、少しずつ、動いてくれる喜びを感じながら。
約1年後には、ソナチネの練習に入れる事になった。
しかし、大学受験というものが襲ってくる。
当時、消音装置なんて付いていなかったから、夜中に練習する事もできない。
そんなこんなで、結婚して家を出た後、ピアノは誰からも弾かれなくなり、実家から無くなってしまった。
それから、35年。
やっと自分のために時間もお金も使えるようになった頃。
もう一度、ピアノが欲しくなった。
あの頃とは違い、レバー一つで、電子ピアノに早変わりする。
ピアノも習い始めた。
当時、最後まで弾ききれなかった「エリーゼのために」のテンポの速い箇所も弾けるようになった。
あの時、親がピアノを買ってくれなかったら、今の楽しみは無かった。
一番嬉しかったプレゼントは、同じものではないけれど、今、ここにある。