私たちは、患者さまが本当に                           
求めていることに応えているだろうか

病と闘う、苦しさ、孤独は
何をもって埋められるだろう・・

私は、その答えを解らないまま
 その心のそばにいたい・・
生きている今を
どうか、あなたらしく生きられますように

そう願いながら、
看護を模索してきたように思います

患者さまから学なばせて頂いたことを
お伝えすることが
懸命に生きたひとへの感謝となり
看護への思いを実践していく勇気になると信じて

一井みづほ
 
 

 

人生最期の過ごし方の選択を通し

ナースの役割を投げかけてくれた患者さま 🍂

 

私が19歳の看護学生の時

初めての病院実習でのことです

 

当時、私はまだ、

人生経験もなく

患者さまの人生観に

どのように関わって大切にしたらいいか

本当に解っていなかった

 

看護学院2年生の病院実習

 

初めて白衣を着る緊張と

患者さまに接することができる喜びを胸に

実習に行きました

 

 

・・✨・・✨・・

 

患者さまが

最期の生き方の希望を

心を開いて

打ち明けてくれた時

 

患者さまの希望が叶うように寄り添い

全力で支援したい

 

しかし、時に

ご家族と患者さまの思いが違う時

私たちは

どこまで介入していいのだろうか?

 

・・・

 

その課題を残してくれた患者さま

 

 

今も胸が痛みますが

もうあんな思いをさせないように

忘れないでいる患者さまです

 

・・✨・・✨・・

 

 

内科実習で受け持たせていただいたのは

80歳を過ぎたご老人

色々な経験談を謙虚に話してくださる

優しい方でした

 

実習で病室を訪ねると

笑顔で迎えてくださって

患者さまとはいつも

廊下にある長いベンチに座ってお話をしました

 

時に、

祖父と話しているような

懐かしい居心地で

穏やかな時間が流れていましたが

 

病名は肺癌

リンパ節にも転移があり

遠隔転移がないか

検査を進めている段階でした

 

・・・

 

でも

ご本人の希望で

確定診断名は言わないことになっていて

「肺の炎症」ということになっていました

 

「癌であっても病名は告知しないでほしい

どんな病気であれ

もうこの年まで生かされたから

これからはここで静かに療養したい」

ということだった

 

主治医の先生は

ご家族やスタッフにも

病名は言わないでという本人の希望と

年齢や体力、穏やかに余生を過ごしたいという希望を尊重し

抗がん剤治療ではなく

副作用の少ない治療で

ご本人の苦痛緩和を優先しながら

療養していただくと説明してくれました

 

 

私の胸の内は騒ついていました

患者さまは、病名を知りたくないと言っている

いやそれは

ご自分で解っているのかも知れない

勘づいているから

癌って言葉で聞かされたら、やっぱりショックで落ち込む

穏やかな心持ちではいられない

 

最期まで自分らしく

穏やかに、周りに感謝しながら人生の終末期を過ごそうと

自分に覚悟させようとしているのかも知れない

 

病状の深刻さを感じさせないように

今の平穏な毎日を紡いでいけますように🙏

 

実習中の私は

体温を測り、血圧を測り

時には

清拭をさせてもらったり・・

ケアをさせていただく時は

呼吸が苦しくならないように精一杯だった

 

まだ、何をするにもドキドキ

・・

不慣れな看護学生の

そのケアの一つ一つに

患者さまは

「ありがとう‥😊」と

見守るような優しい微笑みを向けて下さいました

 

・・✨・・✨・・

 

患者さまから学んだ患者さまの思い💖

 

ある日

患者さまといつものように

廊下のベンチに並んでお話していると

患者さまは

 

「もうね、十分生きたんだ」

 

えっ・・思わず患者さまの方を見ると

 

「ここはいいね・・

周りも静かで 🏡🌲🏥

みなさん優しい 🌱

僕が療養するには一番だと思っている

人生の最期はね

穏やかに、寿命に自然に身を任せて行きたいね」

 

患者さまは、

私に返事を求めているのではなかったかのように

立て続けに

「あなたには故郷があるんだね

どんなところ?」

私に違う話題を持ちかけられた

 

『どっちを向いても山に囲まれた🏞

川が流れているだけのすっごい田舎です😁』

と答えると

 

「きっと空気の綺麗なところで育ったんだろうね😊

そんな気がしてたよ」

 

そう言って微笑まれた

 

・・✨・・✨・・

 

しかし

1週間後、実習に行くと

ご家族だけで話し合いをされてたのでしょう

長男さまから

少しでも長く生きて欲しいから

積極的に抗がん剤治療を受けさせたいと

先生に申し出があったそうです

 

患者さまは

癌センターに、転院されてしまっていました

 

・・・

 

患者さまは、薄々勘づいていたかも知れないけれど

癌センターで抗がん剤治療をということは

告知しないで欲しいと言っていた自分の病名も知ってしまった・・

穏やかに、寿命に自然に身を任せて過ごしたいという希望は・・

 

でも

 

息子さんはきっと、

一生懸命、積極的治療を早く受けさせようと奮闘されたのでしょう

転院できるように

準備を進めていらしたとのこと

そして患者さまを説得し

昨日、転院されたということでした

 

患者さまは、ショックを受けながらも

明日転院という夜に

私に1通の手紙を書いてくださっていました

 

便箋3枚にぎっしり書いてくださった手紙には

まるで書きながら自分を納得させようとしているかのようでもあり

自分の生きた証を綴るかのようでもありました

・・・

手紙には

 

どんなお仕事をされてきたか

好きな作家のこと

自分の人生を振り返って思うこと

この病院の先生や看護師さんへの感謝の気持ち

そして

今回の転院について

 

自分は抗がん剤治療は受けたくないけれども

息子たちは諦めがつかないようです。

息子たちなりに私のことを思い

頑張って欲しいと期待している。

息子たちの気持ちに応えることも最期の務めかと。

「老いたるは、子に従え」ということです・・

 

と書いてあった

 

そして

実習中の私に

 

『ベンチに座って話をしている時が一番楽しかった。

まるで、祖父と孫娘のように、

陽だまりで過ごした穏やかな時間は

病気を忘れさせてくれる時間でした。

 

あなたは良い看護師さんになれますよ。

ありがとう

病気の人をお世話する尊い仕事です。

どうかご健康で、頑張って下さい。

お幸せを祈っています』

 

と、励ましの言葉と一緒に

ご自分の「自叙伝」を退職した時に本にしたという1冊を

私に読んで欲しいと

添えてくださっていました

 

ナースステーションで渡された

その手紙を読みながら

私はおいおい泣きました💧

 

「老いたるは、子に従えということです・・」

と書かれた一文に

胸が詰まりました

 

肩を落として

迎えに来た息子さんの車に乗って行かれたと聞き

その光景が、その言葉と一緒に思い浮かび

悲しくてなりませんでした💧

 

 

ここで最期の時を穏やかにと願っていた時間が

今日からは、抗がん剤との闘いになっている

 

〜・・・*・・・〜

 

患者さまの思いを守るために

何をどうすればよかったのか

ご家族の思いをもっと早く知っていたら

ご家族の気持ちにも

もっと寄り添っていたら

結果は違ったのだろうか

 

・・・

 

19歳の私には

まだその時は

確固たるものは何もなく、

患者さまの「失望感」を思うと

やりきれず、

告知はされていなくても

自分の死期を悟り

不安もあったはずなのに

時には、孫娘と祖父のような穏やかな時間を

実習生と過ごしてくださった

患者さまの人柄にも

胸がいっぱいになっていました

 

そして

息子さんは、尊敬するお父様が癌末期と知り

どんなに焦って動揺したのか・・

立派に生きてきたお父様を思い

藁をもすがる思いで

癌センターの門を叩いたのだろう

 

ご家族の気持ちと患者さまの希望の

双方を支えることができなかった

 

この後悔が、

患者さま同様に、ご家族の双方を支える役割が

看護にあるということを

教えてくれました

 

〜・・・*・・・〜

 

患者さまが病床の状態であっても

最期まで

悔いのない人生の過ごし方ができるよう

全力で守りたかった

 

患者さまが一日一日を

愛おしむように

穏やかな気持ちのまま生きられるよう

患者さまの意思を守りたかった

 

看護学生時代のこの苦い経験は

後になって

患者さまの思いの代弁者になるという役割が

看護の中にあることを教えてくれました

 

・・✨・・✨・・✨・・✨・・

 

最後の決心は

患者さまに委ねられたであろうが

「老いたるは子に従え」という言葉は

患者さまの本心として

前向きに受け取るには悲しい。

本当は、違うよね

手紙は、自分を無理に納得させようと

患者さまは一生懸命綴っていた

 

〜・・・*・・・〜

 

家族との関係で悩む時

私たちはどこまで介入していいのだろうか

 

病気や障害によって

自分の力だけでは今までのように

暮らしていけなくなった時、

患者さまは

自分の希望を誰に、どう言えばいいのでしょう

 

家族の気持ちをも思い

自分の希望と困難さの中で、

患者さまは苦悩します

 

患者さまの思いや

抱えている暮らしの事情は様々

また、ご家族もそうである

 

余命幾ばくかの中で

どこで、どんなふうに

終末期を生きるのかの希望 💫

それは

ご家族にとっても大切な時間

 

・・✨・・✨・・

 

患者さまが陽だまりのベンチで語ってくれた

 

「もうね、十分生きたんだ。

・・・

最期は、自分の寿命に、自然に身を任せて行きたいね」

 

あの時

患者さまは、きっと

まだ19の実習生の私に

何か言わなければと返事をさせるには困らせてしまうと思って

戸惑った顔をしてそばにいる私に

間を置かずに

「故郷はどんなところ?」と聞いてくださったのだろう

 

でも、この時のことを

ご家族に伝えることができていたら

ご家族と話し合うことができていたら

 

お父様の本心を理解できる機会を作ることが必要だった

 

・・✨・・✨・・

 

患者さまとご家族の思いを繋ぎ、叶えることができるよう

 

大切に寄り添える人でありたい

 

 

・・✨・・✨・・