私たちは、患者さまが本当に                           
求めていることに応えているだろうか

病と闘う、苦しさ、孤独は
何をもって埋められるだろう・・

私は、その答えを解らないまま
 その心のそばにいたい・・
生きている今を
どうか、あなたらしく生きられますように

そう願いながら、
看護を模索してきたように思います

患者さまから学なばせて頂いたことを
お伝えすることが
懸命に生きたひとへの感謝となり
看護への思いを実践していく勇気になると信じて

一井みづほ
 
 
 

✨忘れられない患者さま(その4)

✨ 患者さまが遺してくれたもの✨

 

前回(その3の続き

 

・・最期の日・・

 

一日に何度も痛みに襲われ注射を繰り返している患者さまが

「おい!新人。シャーペット!」と

ナースコールしてくれた患者さまの思い

 

・・・・

 

日に日に衰弱していく患者さま

ある日には、

「温泉も行きたかったなあ・・」と

独り言のように呟いた

 

”行きたかった” という過去形に

もう健康な時には戻れないやり切れなさ

 

諦めてひとり逝くことの覚悟を

 

背負おうとしているように思えた

 

・・でも、言葉では何も返せない自分・・

 

わたしは

痛みが治っている時間を見つけて

蒸しタオルを何枚も重ね、

バスタオルで冷めないように覆い

体をじっくり蒸すように温めながら

清拭させてもらった

 

「ああ気持ちいい。まるで風呂に入ってるみたいだ」

その言葉に、

わたしも少しほっとしていた

 

片付けていると、患者さまは

 

病室の白い天井を

まるで空を仰ぐように見上げて

 

「今日は、いい日だった・・」

と言った

 

患者さまは

生きている一日一日を噛み締めている

 

 

そんな日々も束の間、

容体は悪化し

呼吸をするのもやっとの状態になった

 

亡くなる前日、次の勤務は準夜勤だから

それまで大丈夫だろうか

 

わたしは申し継ぎをして帰る前にもう一度病室を訪ね、

患者さまのそばに行くと

 

患者さまは

力がなくなってきているその手のひらを出して

自ら開いて待ってくれた

 

わたしは、はっとして

ナースコールをその手のひらにのせ手を添えると

ナースコールを弱々しく握ったまま

 

「うん」とうなずいて、目を閉じた

 

患者さまは、

死期を悟って、懸命に耐えている

 

 

・・・・・

 

次の日

準夜勤で早めに出勤すると

師長から「待っていたのよ!あなたを・・

さっき息を引き取って・・」

と言われた。

 

間に合わなかった・・

 

妹さんは

「ごめんなさいね。あなたには・・

わがままばっかり言って・・」と

声を詰まらせた

 

わたしは何も言えず、

ただただ頭を下げるだけだった

 

 

患者さまは、あれほど苦しんだ闘いが嘘のように

本当に安らかな面持ちだった

 

こんなにも美しい穏やかな微笑みを湛えた人だったのだと、

その表情に改めて、

病気と闘う日々の苦痛と苦悩の大きさを知った

 

 

わたしにできることは、

本当にもっとなかったのだろうか、

 

という思いだけが残っていた

 

・・・〜・・・〜・・・〜・・・〜

 

患者さまが遺してくれたもの

 

患者さまが亡くなって数日後、

先輩看護師から、

冷凍庫にシャーペットがそのまま残っていことを告げられ、

「最後のは、

ひとかけらも食べられなかったんだ・・」

と洗っていると、

 

あなたがいる時だけだったからね」と、

先輩は優しく肩を叩いて言った。

 

 

わたしは、

「おい!新人。シャーペット!」と

リクエストしてくれたのは

患者さまからの”優しさ”だったことに気づいた。

 

 

何をしていいか、どう言えばいいか

言葉すら見つけられない新人の未熟なわたしに

 

「シャーペット!」と、

リクエストしてくれると

わたしは嬉しくて、

「はいっ」と、飛んで行くものだから、

 

 

患者さまは、

わたしに、何かをさせてくれるために

ナースコールをしてくれていたのではないか。

 

 

そうだ!!

あの得意そうな、満足気な患者さまの笑顔は

 

ひとかけらのシャーペットをリクエストすると、

わたしは嬉しくて

飛んで 持ってくる 🤗

 

妹さんは、「食べられたね」と

ほっとして、微笑む 😊

 

あの時

患者さまが返してくれた笑顔は

まるで、学生時代、恩師が向けてくれた

懐かしい優しい眼差しだった。

 

大学で、学生たちにずっとドイツ語を教えてきた

人格者の患者さまは

 

卒業したての私に

 

美味しそうに頬張って見せ

✨ナースの仕事の喜びを与えてくれた!!✨

 

そして、

傍らで心配する妹さんの気持ちに

精一杯、応えたのだ!!

 

・・〜・・✨・・〜・・✨・・〜・・

 

「何をしてもらっても、僕はもう助からないんだろう」と

投げかけられた日から

 

何をさせてもらったらいいのか

どう応えたらいいのか

言葉すら見つけられないまま

 

”それでもわたしは

患者さまの

その心のそばにいたい

”いつもそばにいます”・・という思いで

ナースコールを手のひらに手渡し

 

最後の日は、患者さまから

手のひらを開いて待ってくれた

 

わたしが毎日、病室に行けたのは

患者さまの優しさに支えられていたからだった🙏

 

・・〜・・・〜・・・〜・・

 

人は

死ぬために今を生きているんじゃない

生きるために、今を生きている✨

 

生きている今を

患者さまは

まるで、教壇に立っていた時のように

生徒を見守るような優しさで・・

 

わたしは

看護していたのではなく

看護させていただいていたのだ!

 

・・・・・

 

束の間でも、哀しそうな孤独の視線を

癒せるすべを見つけたい

 

そんな思いに応えてくれたのは患者さま

 

自分の至らなさ、思いの浅さ

患者さまに

ありがとうございましたと言えなかったこと

患者さまの思いを叶えること、

もっとできることはなかったのか

・・どうしようもなく悔やまれた

 

 

看護というには未熟な場面を通し

関わらせていただいた

ひとつひとつの場面が蘇り、

 

わたしは、

ボイラー室に駆け込んで

ボイラーの音にまぎれて泣いた。

 

・・〜・・・〜・・・〜・・

 

病気と闘うということは、その人の人生そのものの苦難と闘うことだ。余命わずかの中で、それでも命ある限り生きている今を病室のベットの上で、何を思ってどう生きるのか、そこに関わる看護師の私は、どう向き合うべきかということを患者さまは、しっかり遺してくださった。

それは、何にも替えられない患者さまからの”報いなければならない教え”であり、看護師でいる限り、一生自分に問い続ける「私の”使命”」となった。

看護師になって初めて受け持たせていただいた患者さまは、私の生涯を通して✨忘れられない患者さま✨となり、それから出逢う多くの患者さまと向き合う時、いつもこの患者さまが教えてくださった一人ひとりの「患者さまの思い」に立ち返るようになりました。

 最後(その4)まで、読んでくださり、ありがとうございます。

 

忘れられない患者さま(その1)

 ✨忘れられない患者さま(その2) 

忘れられない患者さま(その3)

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ブログを通して

患者さまの思いを伝えたい   

 

そして

 

どんなに周りが、

看護への価値観を

共有しにくい環境であっても

 

懸命に生きた患者さまから

学んだことは

しっかりと看護に

実践していかなければならない

 

 

生きている今を

どうか、あなたらしく

生きられますように

 

 

・・〜・・✨・・〜・・✨・・〜・・