句会は夏雲システムで行っております。

このブログは公開の句会記録です。 


6月の兼題は、 「螢」「雨の名前」 しばらくお目にかかれていないのですが、螢には思い出があるのです。また雨は身近だけあって、 雨を表す言葉はたくさんあります。荒梅雨、緑雨、群雨など。おもしろい名がついた雨にも挑戦を。出題 半田真理。

投句一覧

1. 五十年の物ため込んで蜘蛛もまた

2. 海鳴りのリズムに揺られ梅雨の月

3. 金輪際の蛍合戦夜が白む

4. いつまでも聞いていたい声天気雨

5. 会はずゐて遠く郭公鳴くころか

6. えごの実の固太りして小糠雨

7. 白雨や土けぶり土の匂ひ吸ふ

8. 郭公や習わず慣れる手間仕事

9. 立葵イスが一つの停留所

10. 湧き水に蛍飛ぶとや友の庭

12. 現世(うつしよ)に何を探すか飛ぶ蛍

13. 青梅雨や廃寺に続く石畳

14. 背伸びして鳥籠吊るす浴衣かな

15. 糸雨の囲いを破り螢狩

16. 夏風邪の長引き散骨のはなし

17. 烏の巣たまご置場も新しく

18. 思ひがけない人に会ふ余花一片

19. かろやかに死ねたらいいな揚羽蝶

20. 俄雨修羅場潜りし蜥蜴の尾

21. 山の底ランプの宿の蛍かな

22. 暴風雨傘裏返り髪はメドゥーサ

23. 日々地雨泰山木の花も朽ち

24. 筒鳥や蔦這ひのぼる椙林

25. ほうたるの世よりこの世へもどりけり

26. 嬉しげに小鳥縫い飛ぶ青もみじ

27. 楽の音にあらねど調べ湧く泉 

28. 花合歓や岬も島も廃屋も

29. 耳鳴りや山紫陽花を抜けてより

31. 水無月の闇を大きく信濃川

32. 夏の雨コンドル檻で五十年

33. 夕立に落ち武者のごとずぶ濡れて 

34. 朝焼けの故人見送る涙雨

35. 地下道の起伏をゆくや明易し

36. 五月雨や仕事休んで四畳半

37. 吾子の掌の蛍ふはりと放ちけり

38. 捨ててきし淡き記憶や恋ぼたる

39. 紫陽花は水を吸ひ込み色にする

40. 山地より山脈となる夏の雲

41. 五月雨や言葉に出来ぬ事ばかり

42. わだかまり忘れておりぬ花菖蒲

43. 栗の花七つ下がりの雨のくる

44. 螢一つゆるやかに舞う坪庭に

45. 夕蛍息子の前髪切つてやる

46. 年金の少し増えたる立葵

47. 逢ふ人の肘傘雨に濡れし本

48. 雨に咲く紅(くれない)という名の山紫陽花

49. 夕蛍あなたの後をついてゆく

50. ここまでの蛇皮を脱ぎここよりの

51. 慈雨なりけりむさぼるやうにレタス苗

52. 手を結び茅の輪そろりとくぐり抜け

53. 初蛍まだ暮れきらぬ芝原に

54. 翻る海月ゆらりと沈みゆく

55. 螢籠明滅に浮く子の寝がほ

56. 夏草にうずもれ行くや家五軒

57. 木に熟れし野生の枇杷の向ふ傷

58. 白すじの中央に星螢葛

59. 回覧板神輿の担ぎ手募集

60. 蛍や子供一列闇に消え

61. 下鴨の螢火の茶会夕明り

62. 白雨や一間に人の集まりて

63. 枇杷熟れて誰の仕業か狐雨

64. 草の香も土の香もこみあげて喜雨

65. 五月雨や向かうの空の端に青

66. 薬降る甲斐なく病に倒れと祝詞は

67. 夕焼けのルーフトップバー法観寺

68. 梅雨の街宝飾店の首飾り

69. 近づいてきて引き返す蛍かな

70. 万緑や雨の名前はグレイヘア

71. しづかなる港みてゐるサングラス

72. とりあえず目の前のこと今日を生く

73. 青時雨お好きなものを思い出す

74. 螢まとひてあの人もこの人も

75. 落人の吊橋揺れて蛍の夜

76. 梅雨深し猫には猫の行くところ

77. 知身雨いついつやむのでせう

選句・選評

7点

(特選)カコ 佐柳(選)安達 きなこ 武内

夏草にうずもれ行くや家五軒 (白浜和照)

* いずれは夏草と共に朽ちてしまうのでしょう。厨に茶碗など置いたままの廃屋を何度か見る機会がありましたが、どんな物語が紡がれていたのだろう。5軒が生々しい。──カコ

* むんむんむれむれとした夏草に飲み込まれていく家が5軒も!過疎の悲し*さと夏の湿気がタッグを組んで迫ってきます。──佐柳恵美子

*あまり周りのお手入れに気を使わない、ちょっと浮世離れした小集落の一コマかしら。何だかホトトギスの鳴き声も聞こえてきそうで、蕪村の大きな景色とは一味違う「夏草」、なかなかうまく嵌っていると思いました。──安達潔

*夏草の勢いはすさまじく、すぐに人の背丈を超えて茫々になります。空き家にでもなったが最後、すぐにうずもれゆくのです。この五軒はもう誰もいないのですね。──きなこ

* 空間と時間を響かせる句と感じました。「五軒」がリアリティ。──武内

(特選)白浜(選)掃部 小川 カコ 文代 武内

かろやかに死ねたらいいな揚羽蝶 (きなこ)

*軽やかです。軽い願望、揚羽蝶も良いですね。

「死は我々にとって何ものでもない。 なぜなら我々が存在する時には、死はまだ訪れていないのであり、死が訪れたときには我々は存在しないのだから。」エピクロスの名言です。言い換えれば「死は外界の事、他者の死は当然だが自らの死は認識出来ない」と言う事。自らの死は推論や想像でしかありません。

第三者としては、生きてはいないが死んでもいない状況に陥りません様に。気が付きたら死んでいた、自他共に斯くあります様に。軽やかに死ねます様に。──白浜和照

*「死」と「蝶」、詩情の接点として面白い取り合わせ。「かろやか」は望むところだが近過ぎかな?ここを超えるのは目下のところ私にも難しいですが。──掃部けいじ

*老人にとってはインパクトのある句です。願わくはピンピン、コロリです。どう死ぬかは、どう生きるかと表裏一体で、死を考えることは、生を考えることに他ならないのです………。──小川浩志

*ほんとに、そうありたや。 

軽やかには絶妙。──カコ

* ほんとにそう。かろやかに死ねたらいい。揚羽蝶でなくて私は黒揚羽のほうがもっといい。沢山の黒揚羽が私の庭の柚子の木から旅立っていった。一度帰ってきて、なごり惜しそうに翔んで、もう還らない。かろやかに死ぬって難しいかもしれない。──文代

* 同感です。はねの厚さはトランプ一枚と同じらしい。一頭と呼べど軽い。──武内

5点

(特選)三空 掃部(選)安達

しづかなる港みてゐるサングラス (小川浩志)5点

*サングラスの句として新鮮。すっきりしていて味がある。「しづかなる」が巧いですね。──三空

*「海をみてゐる」を受けて季語「サングラス」が見事に生きている。人の存在感と詩情がクッキリ現れ同調に無理のないところ。ただ、「しずかなる」を「港」へ掛かるならば説明的。はっきり「サングラス」へ掛けたいところ。語順の推敲如何でしょう?──掃部けいじ

 *「海」でなくて「港」なので、後半の、m・m・sのリズムから却って、どこかしら人の気配のする夏の穏やかな港が立ち上がってくる感じがしました。「海」でももちろん成り立つと思いますが、そうすると句を支えるのは意味の方に傾斜するわけですが、この句では音韻が自然に「しずかなる」のほうへ還って、最後は結局、物としてのサングラスが全体を照らし出す仕掛け…かしら。何度か読み返すうち、そんな感じがしてきました。──安達潔

(選)かしこ 白浜 文代 武内 佐柳

 梅雨深し猫には猫の行くところ (小川浩志)

*季語が効いているか、考えてしまいます。出て行ってしまった猫。しかし猫は雨の中、出ていくかなぁ。濡れるの嫌がるし。──さとうかしこ

*孫俳句の様な猫俳句。孫の様にべったりはしませんが、猫は斯様なものと言う共通認識に依っています。どの様なシチュエーションでも句にし易いモチーフです。題材効果が高く、分かっちゃいるけど採りました。──白浜和照

* バロンという名の近所の通い猫。バロンは来ると鳴く。直ぐからりと戸があいて、するりと中に消える。が、来て欲しいときは来ないらしい。猫は人の思うようにはならない。猫は猫であるために、孤高を保つ。梅雨深くなると猫は濡れたくなくなるのだろう。行く所のある猫は幸せか。──文代

*師弟関係ではありませんが この句を読んだとき 「猫の恋本音で生きてなどゆけぬ」昨秋 スマホで検索していて見つけた句です。気の向くまま 梅雨だろうが 何であろうが わが道を行く。──武内

*猫は賢いので濡れなくて居心地の良い場所を知っています。──佐柳恵美子 


4点

(特選)文代(選)小川 佐柳

背伸びして鳥籠吊るす浴衣かな (安達潔)

 *懐かしい昔、父が縁側で小鳥を飼っていた。時折、手伝った。籠を吊そうとしても、背伸びしても届かない。背の高い父がひょいと吊してくれた。無口な父がかっこ良く見えた。そんな事を思い出させてくれた句だ。──文代

*浴衣の子が背伸びして、軒端に鳥籠を吊るしている光景がいいですね。昭和の時代を懐かしく思い出しました。──小川浩志

 *浴衣の子供が背伸びして、夏らしく可愛らしい──佐柳恵美子


3点

(特選)きなこ(選)かしこ

ここまでの蛇皮を脱ぎここよりの (掃部けいじ)

*「ここよりの」が光り輝いています。「の」で切れているのがハッと胸に迫ります。

昨日までは世間のしがらみの中で生きてきました。今日、ここよりは心の赴くままに生きて参ります。

人間も脱皮をするのです。──きなこ

* これは遊び心のある冒険句です。

中七を挟んで脱ぐ前と脱いだ後。違うわたし(蛇)を見てちょうだい、と言っているのです。面白いと思います。──さとうかしこ

(特選)武内(選)佐柳

螢籠明滅に浮く子の寝がほ (掃部けいじ)

* みどりが濃すぎずほどに 子の寝顔を見つめている。優しい句。寝息まで聞こえてきそう。──武内

*子供と一緒に捕まえた蛍でしょうか。明滅に浮く、がよいです。──佐柳恵美子



2点

(特選)小川

夕蛍あなたの後をついてゆく (文代)

 *蛍はその神秘的な光から、古来和歌や俳諧にいろいろと詠まれています。古今集あたりになると恋の歌として詠まれているようです。

さて掲句ですが、一読、”夕蛍”が効いていると思いました。そして続く”あなたの後をついてゆく”は、さりげない言葉に詩情があり、新しみもあり、いい句ですね。──小川浩志

(選)カコ 武内

吾子の掌の蛍ふはりと放ちけり (文代)

* 小さな手のひらから蛍が明滅しながら放れていくシーン。なんともいいなあ。

今は中々見れなくなりましたね。ふわりふわり、いつしか見えなくなるまで追っていたのでしょう。──カコ

*この場所は何処なのか? 掌から蛍の光が放れていくさまを目で追っていく。蛍の感触は?──武内

(選)かしこ 佐柳

落人の吊橋揺れて蛍の夜 (文代)

* 螢らしい登場。

祖谷峡か湯西川か?──さとうかしこ

*逃げている?じめっとした蛍の好きな夜、怖いです。──佐柳恵美子

(特選)かしこ

草の香も土の香もこみあげて喜雨 (掃部けいじ)

*無季の句ですね。だから特選にするか迷いました。

「こみあげて」という表現が、乾燥した草や土から立ち上ってくるものを雄弁に物語っています。そして喜雨で止めた。余韻もちゃんと計算しています。──さとうかしこ

(特選)安達

とりあえず目の前のこと今日を生く (きなこ)

*とても迷って、でも我が身を振り返れば確かにこういうことって、どこかに持ち合わせていないといかんなアと思い、特選とさせて頂きました。あえて無季で作られているところにも共感しました。──安達潔

*予選──文代

(選)三空 安達

回覧板神輿の担ぎ手募集 (さとうかしこ)

*今は祭に参加する人も減りました。こんな募集も有るのですね。祭前の町内のざわつきが感じられます。──三空

*回覧板の趣旨に思わず「なるほど!」。いかにも俳句作者らしい、軽味のある愉快な句で、今時のご町内の感じ、あるなあ。──安達潔

(選)掃部 きなこ

紫陽花は水を吸ひ込み色にする (佐柳恵美子)

*「紫陽花」の色の移ろいは水の流れか?「水」を「色」に。この”変移”の捉え方、お見事。──掃部けいじ

*誠に紫陽花は雨によく似合う。雨の水を全部吸い込んで花の色にするのだ。──きなこ

(選)かしこ 掃部

立葵イスが一つの停留所 (三空)

*絵になっている風景。しかし、なぜカタカナの「イス」でなければならなかったのか、分かりません。作者は意図したとは思うのですが。「椅子」でも絵になると思いますが。──さとうかしこ

* ”写生”の一句。季語も措辞も微動だにしない現場感覚。ゆるぎない伝統的基本の手法、永遠なれ。──掃部けいじ

(選)文代 三空

水無月の闇を大きく信濃川 (小川浩志)

*大きな信濃川がたっぷり水を抱えて流れている。水無月の闇を蛇行している景が浮かぶ。スケールの大きな句だ。──文代

 *水無月の信濃川流域のふくよかな広い闇に包みこまれるような臨場感があります。──三空

(選)白浜 小川

栗の花七つ下がりの雨のくる (半田真理)

43. 栗の花七つ下がりの雨のくる2点

* 色々な雨の名前があるのですね。字面が良く勢いが決まっています。栗の花の重たさが質の異なる重たさと響き合っています。何より「七つ下がりの雨」の言葉の魅力が素晴らしいです。──白浜和照

 *栗の花は6月ごろ黄白色の小花を穂状につけ、独特の香りを周辺に放ちます。また、七つ下がりの雨とは午後4時頃から降り始める雨とあります。さて掲句、句意はよく分かりませんが、何か惹き付けられるものがあります。因みに、杉田久女の句に〈栗の花紙縒の如し雨雫〉があります。この句の解釈もよく分かりませんが、云えることは雨の表現方法によって、読者は様々の事を想像できます。今回改めて勉強になりました。──小川浩志

1点

(選)掃部

海鳴りのリズムに揺られ梅雨の月 (さとうかしこ)

 *「海鳴り」と「梅雨の月」の取り合わせが壮大。「海鳴り」は膨大な詩情を孕んで居ります。中七「リズムに揺られ」はもう一息踏み込んで欲しい。──掃部けいじ

(選)三空

夏風邪の長引き散骨のはなし (さとうかしこ)

* 夏風邪で少し気弱になっている時に聞く散骨の話。何か無常さのようなものを強く感じているのでしょうか。「夏風邪」で少し明るさが感じられるところがいいですね。──三空

*予選 ──夏風邪が治っていれば散骨の話は無かったのかしら…。本来無関係な取り合わせですが、切れを置かないことでナンセンスさと詩が確かに生まれています。──白浜和照

(選)カコ

思ひがけない人に会ふ余花一片 (さとうかしこ)

*余花一片が舞う中での意外な出会い、、ときめきましたか?

どなたかしら、、素敵。──カコ

(選)掃部

慈雨なりけりむさぼるやうにレタス苗 (さとうかしこ)

*「むさぼる」が「レタス」とコラボ。レタスの親水性に"勢い"を持たせて充分な表現。破調も違和感がなく自然。──掃部けいじ

(選)カコ

湧き水に蛍飛ぶとや友の庭 (きなこ)

* お庭で蛍が観れる❓

清流があるのでしょう、、なんと贅沢な、、、──カコ

(選)武内

雨に咲く紅(くれない)という名の山紫陽花 (きなこ)

* 色 使いで季語を表現されているような。──武内

(選)小川

万緑や雨の名前はグレイヘア (きなこ)

*お洒落で色彩豊かな現代俳句だと感じました。また、”雨の名前はグレイヘア”の独断がいいですね。──小川浩志

(選)白浜

夏の雨コンドル檻で五十年 (三空)

* とても分かりやすく哀切です。雨も秋や冬では重すぎて春ではそぐいません。今年も夏の様々な雨に時には打たれて、もう生の終わりも近い…。本来コンドルは高地の鳥なのでは。はろばろとした岩山の青空を滑空する別の生もあったのに。──白浜和照

*予選──「夏の雨コンドル檻で」は凄い発想、期待感十分。「五十年」の具体性が返って曖昧で安易。大いなる奇抜な着地が望まれて良いのではないか?──掃部けいじ

(選)安達

 近づいてきて引き返す蛍かな (三空)

 *あまり感情移入しないようにしようと思うと、蛍の句って案外難しいのですが、この「蛍かな」のユーモラスな詠みっぷりには惹かれました。我々の蛍狩って大方こんなもんで、いとど納得でした。──安達潔

(選)安達

 年金の少し増えたる立葵 (三空)

* この時期、会社の車庫を出るとすぐに立葵の並び咲く道に出ます。決して高級感はないけれど、どこか庶民的で素直な明るい佇まいに毎年惹かれて、さて句にするとなると上手くいかずにいました。ところが、年金頼りの高齢者には、少し増えた年金はそれなりに嬉しいもので、その手の〈それなりの嬉しさ〉を寿ぐのに「立葵」はなるほど、ピッタリだなあ、と思えて、一つの季語がストンと腑に落ちた次第です。──安達潔

(選)カコ

会はずゐて遠く郭公鳴くころか (小川浩志)

* 郭公がなく頃、青葉の季節。久しく会ってないあの人この人が妙に懐かしい。あの鳴き声はそんな気持ちを呼び起こしますね。──カコ

(選)きなこ

 捨ててきし淡き記憶や恋ぼたる (小川浩志)

* 恋ぼたる・・・何といい名前でしょう。恋は成就するとは限らない、いや、しない方が多いのかも。淡き記憶は美しく切ない。──きなこ

(選)佐柳

枇杷熟れて誰の仕業か狐雨1点

小川浩志

*誰の仕業か、が怪しい世界に誘います。──佐柳恵美子

(選)掃部

いつまでも聞いていたい声天気雨 (佐柳恵美子)

 *「天気雨」の「声」。これが良い!なにかと"中八"をいちゃもんを付ける輩がおりますが、ここは作品通り口語のフレーズが絶対有効。──掃部けいじ

(選)小川

五月雨や言葉に出来ぬ事ばかり (佐柳恵美子)

*今月も痛ましい事件が起き、目を覆うばかりです。明るい話題は、大リーグ・エンゼルス大谷選手の活躍のみでは。掲句の通り”言葉に出来ぬ事ばかり”です。──小川浩志

*予選── 三空

(選)きなこ

蛍や子供一列闇に消え (佐柳恵美子)

*蛍狩りの子供たちが一列になって闇に消えた。♪ホーホーほーたるこい こっちのみーずはあーまいぞ♪と歌いながら、あの子たちは異界に行ってしまったのかも知れない。のどかなようでちょっと怖い句。──きなこ

*予選──頭に浮かんだのは ロシアに拐われた子供のこと。──武内

(選)三空

青梅雨や廃寺に続く石畳 (文代)

 *青梅雨の頃のしっとりした石畳が廃寺に続いている景、詫びしいが美しくもある。──三空

(選)きなこ

 翻る海月ゆらりと沈みゆく (文代)

*翻ると、水平線にゆらりと沈んでいく月、という表現にドッキリ。──きなこ

(選)白浜

えごの実の固太りして小糠雨 (安達潔)

*先ず固太りと言う表現が素晴らしい。鈴なりの固さに対する密度の低い柔らかな小糠雨の取り合わせがまた素晴らしい。観察の実質があり写生の佳句では。──白浜和照

*予選── えごの木は、白い小さな花が地面に落ちているのを見て、ああ花が咲いたのだなと判ります。花の後の実が「固太りして小糠雨」という言葉の流れが美しい。──きなこ

(選)三空

五月雨や仕事休んで四畳半 (安達潔)

*ちょっと疲れて仕事を休んだのでしょうか。休んでいる四畳半を包むように降る五月雨の音が聞こえてくるようです。──三空

(選)文代

下鴨の螢火の茶会夕明り (武内)

*葵祭の最後を飾る茶会で極上の一滴の煎茶を喫してから、御手洗川に沿って帰った。蛍火の茶会は、舞殿での琴や舞の後、蛍が放たれるという。湧き水の御手洗川だから、昔は蛍が沢山いただろう。幻想的な点滅する蛍が見えるよう。夕明かりがいいな。そこで、一煎、頂きたいものだ。──文代

(選)白浜

白雨や土けぶり土の匂ひ吸ふ (武内)

* 白雨の表記が良いですね。俄か雨の勢いと続いた乾燥した日々の描写が見事です。

中八と土のリフレインに能村登四郎の「春ひとり・・・」の句を想いました。

夕立の降り始めの一瞬の驚きの体験です。視点が素晴らしいです。きっと、この句を特選にすべきなのでしょう。──白浜和照

*予選── 土の匂いというのは確かにあるのです。──きなこ

(選)文代

 ほうたるの世よりこの世へもどりけり (掃部けいじ)

*ほうたるの世は幻の世界、死んでしまったあの人が青いほうたるになって会いに来る。ついていくのに、橋を渡るといつの間にか深い闇に取り残され見失ってしまう。こんなに蛍が舞っているのに私の青いほうたるはどこにもいない。ふっと我に返ってこの世に戻ってしまったのか。そんな景がうかんでくる。──文代

(選)かしこ

夕立に落ち武者のごとずぶ濡れて  (掃部けいじ)

* 時代劇を見たことのある人なら容易に想像できる姿。ずぶ濡れまで言う必要があるかな?とは思いました。──さとうかしこ


0点

山の底ランプの宿の蛍かな (白浜和照)

予選*──三空

花合歓や岬も島も廃屋も (白浜和照)

予選* 島も岬も合歓の花でいっぱいに飾られている。廃屋でさえも・・・。哀しく美しく、そして時の流れを感じさせる。──きなこ

手を結び茅の輪そろりとくぐり抜け (文代)

予選*結びとそろり。──白浜和照

郭公や習わず慣れる手間仕事 (掃部けいじ)予選*郭公が良いです。──白浜和照

総評(投句一覧を見ての感想)

*色々の雨の名前がありました。今回もレベルの高い内容でした。──白浜和照

*選・予選に採らせて頂いた作品のなかに、更に私の希望を述べさせて頂いているものがあります。これは、批評としての気持ちと云うより自分の句作の留意点・自戒点として還元するための行為として敢えて述べさせて頂こうという思いです。当然異論のあることは心得ております。私の自作もそこを満たしているとは全く考えて居りません。そこは意見を交わす事で、自他ともに高い表現の境地を目指す事が出来ればという思いをこめての事であります。ご理解頂ければとの心境です。──掃部けいじ

*今回は素敵に魅力的な句が多く、選びたい句ばかりで絞り込むのに誠に悩ましい回でした。──きなこ

*植物図鑑には季語の花が多く 朝ドラの影響も受け身近な花を調べてみました。皆さんの観察力に比べ見落としていること。それすら気づいていない。まだまだ。毎月 拝見することも貴重な経験です。──武内

*雨のつく言葉を覗いてみる。なんて沢山あること!数え切れないほど。それだけ人の生活に切り離せないものなのだろう。雨を使った句をと思うが難しい。源氏物語で肘傘雨という言葉を知った。急な夏の雨に肘の衣をかざして、傘のかわりにして駆けていくらしい。慈雨、喜雨、白雨、驟雨、虎が雨、鬼雨、いろいろあるんだなあ。皆さんの句を勉強させて頂きました。──文代

*選句してみるまでは、無季を特選にするとは思ってもみなかったのですが、選ばせていただいた有季作品を読み返すうちに、季語を主観に回収しがちな我がココロを反省すること大、でした。せっかく頂いた兼題の「雨」に反応できなかったのが心残りです。──安達潔

[ 兼題出題 ]

☆半田真理


補遺

水の会参加要領 ]

☆会費無料。

☆参加資格、俳句が好きな方。

☆投句締切、毎月17日23時55分。

 投句数(5~7句)当季雑詠、兼題あり。

☆選句選評締切、毎月24日23時55分。

 選句選評数(5~7句)選評字数制限無し。

☆スマホ・PCどちらでも参加可能です。

☆上記は、夏雲システム(ネット句会の自動進行ソフト)を利用させて頂きます。

☆過去このブログは同時進行の句会でした。

  現在は原則、句会の公開記録です。

 アップ更新は上記締切日の1~2日後です。


水の会は故栗島弘先生が主宰なさった句会の一つです。先生の句とお人柄が好きな人と、先生が他の句会で面白く思われ誘われた人で成り立っていました。現在もその人達が中核です。


夏雲システムを使ったネット句会は非常にクールで公平です。

また、現在の水の会は選句選句に一週間の時間があり対面の句会とは質が大きく異なります。

その時間作業は必然、自分への向き合いを深めて行きます。

「より自分自身にそしてオリジナルに」栗島先生の創作精神だと思っております。

ネット句会で最もスリリングだったのが、参加者14人・投句5句・7句選でした。

ご参加お待ちしております。

 

水の会事務