す句会は夏雲システムを利用させて頂きます。

このブログは公開の句会記録です。  


兼題「新蕎麦」「声」出題、半田真理。

栗島先生の歌声を聞いた方はいますか。 この頃は、句会の後は懇親会つまり飲み会が多いのですが、以前はカラオケによく行っていたと、先生がおっしゃっていました。 果たして、どのようなお声だったか。持ち歌はあったのか。 どなたか教えてください。という思い入れの「声」です。

出句一覧

1. 子が何か浸せる秋の流れかな

2. 身に沁むや化野過ぐる声明僧

3. 『ありがとう』感謝の声を伝えよう

4. 今年も白き蕎麦の花一面に

5. 新蕎麦の貼り紙幟日の眩し

6. 春夏を知らぬ秋蝶空をゆく

7. 石竹の鮮やか過ぎて身に沁むや

8. 秋曇り今日は卵を食べない日

9. 倣ひとて痩せた秋刀魚の腹を食ふ

10. そぞろ寒水面を風の小走りに

11. 新蕎麦をランチタイムに友人と

12. 人は皆声を残さぬ水澄むや

13. 秋空のあまりに澄みて我は鬱

14. 朝寒の声頓狂に洩れにけり

15. 綿虫の大声に耳傾けよ

16. 雨粒の微塵明るき冬支度

17. 師の声の心に聴こゆ秋の夜

18. 山神様の恩寵は草の花

19. 新蕎麦や話の尽きぬことばかり

20. 割れと目が合って柚子の実落とすリス

21. 歌声はシャンソンだつた秋日和

22. 新蕎麦に酒の肴と楽しい夜

23. 虫の声途切れて崩れ簗もまた

24. 栗飯はほうんほうんと食ぶるもの

25. 新蕎麦を待つ嬉し顔真面目顏

26. 秋の陽に鹿のオブジェや友の庭

27. 秋の夕暮スマホに代はられ生き字引

28. 動きたる影に驚く秋の夜

29. 新蕎麦や北信五山見える丘

30. 新蕎麦や胸に荒野のあるがまま

31. 声の懐かし珈琲は秋の色

32. 身にしむや仲良しこよし子らの声

33. 秋冷の朝陽がなぞる樹々の幹

34. 玉乗りのぽつねんとゐて秋時雨

35. 島道や田水落として馬曳いて

36. ウォリー探せ芝のこほろぎ探せ

37. 秋の日をちぎつたやうな蝶の来る

38. 風炉点前それは何かと聞いてみる

39. 秋刀魚喰ふ食堂の片隅に

40. 近隣へ配慮の声を忘れずに

41. 新蕎麦を門前蕎麦の句会かな

42. 宵闇の三軒先の金木犀

43. 新蕎麦にあればこそこの棒さばき

44. きらめきや燕帰りし多島海

45. 新蕎麦や年一度喰う贅沢さ

46. ゐのこづち人とは死ぬるものらしき

47. 水澄むや父母に子は吾一人

48. 文机に朝深まりぬ走り蕎麦

49. 地の声に迎えられたる木の実かな

50. 走り蕎麦つゆを漬けずに先ず一本

51. 物売りの声色遣ふ温め酒

52. 木通を飛ばす岬の先は島また島

53. 十割の香り歯応え出雲蕎麦

54. 桔梗の野趣さだまりぬ供へけり

55. 秋しぐれ林の中に献血車

56. さあ一献弾みし声の走り蕎麦

選句・選評   

4点句

(特選)掃部・武内選)三空・白浜

秋の日をちぎつたやうな蝶の来る 半田真理

*「秋の日をちぎつた」との喩えが抜群。秋蝶のイメージを広く深く喚起させて、秋日の哀感を滲ませる。──掃部けいじ

* 翅がボロボロになった蝶。吸櫁 産卵 樹木を周り 種類にもよるが寿命はおよそ2~3週間。雨 風に負けず生きている姿に勇気をもらう。──武内

 *「秋の日をちぎつたやうな」とは斬新な把握です。蝶は秋の日の象徴となりました。──三空

*栗島先生へのオマージュ。秋の日の何をちぎったのでしょうか。しかし、勢いがあります。秋日のエッセンスとしての蝶がある勢いを持ってこちらへ来る。どうすれば良いんだ。留まらせるのか身を反らすのか、ただ見ているのか。嬉しい様なやっかいな妹の様な、秋日のかけらです。──白浜和照

(特選)三空(選)かしこ・白浜・カコ

島道や田水落として馬曳いて 安達潔

*決して無くなることのない日本の情景がゆったりと叙されています。何か歌っているような心地の良いリズムが素晴らしい。──三空

* 淡々とした調子が、静かさと長閑けさを伝えている。馬曵いてまではなかなか昨今見られない風景だなぁと。──さとうかしこ

*島は海底から起立する山の頂きです。多くは水田に不向きと思っていたのですが、調べると作っているのですね。石垣島だと二期作だとのこと。佐渡でも淡路でも良いのですが島道の表記が沖縄方面を示唆している様な。作者の日本昔話。のんびりしているのは、島道と馬曳いてで醸されていますが、馬を曳くのは蒸気機関車通学並の今は昔の物話。──白浜和照

*馬を引く昔田舎はそうでしたよ。荷を運んでも来た馬。電柱に縛られて主人を待つ姿が浮かぶ。これは農耕馬。今も居るんでしょうか。見てみたいもの。──カコ

(選)半田・きなこ・武内・カコ

走り蕎麦つゆを漬けずに先ず一本 掃部けいじ

*わかるわ~。まずは、蕎麦の味を感じたい。塩で食べる場合もありますね。──半田真理

 *江戸っ子だってねぇ。まずは蕎麦そのものの味と香りを!──きなこ

*子供の頃 父の実家にそば畑があり祖母が石臼で曳き手打ち蕎麦を作ってくれたことを思い出した。──武内

* まずはそのまま食べてみる。蕎麦好きのすることなんでしょ。なるほど。味わうとはこのことかと。──カコ

3点句

(選)半田・三空・きなこ

雨粒の微塵明るき冬支度 安達潔

* 雨粒を微塵、という表現がおもしろく感じた。──半田真理

* 冬支度を少しづつ進めている穏やかな様子が伝わってきます。──三空

* 冬という季節に向かう雨粒があまりに細かく明るく見えて、心も少し明るくなるような・・・。──きなこ


2点句

(特選)カコ(選)安達

師の声の心に聴こゆ秋の夜 三空

* 実際にはもう聴くことはできないが、先生、いつも心で聴いてます。懐かしい声を忘れません。仕草まで浮かびます。人恋しい秋の夜ではの心情だろう。共感に共感です。──カコ

* 「師」はたぶん既に鬼籍に入っておられる。その声が「心に聴こ」える、そんな心持になるのも、シンとした夜の静かさがどこか、暮らしの落ち着き振りと密やかに繋がる感じの残る「秋」なればこそか。あえて「聴こゆ」を詠み入れることで緩やかな心のゆとりが伝わる、そんな秋の夜の感じが上手く出ていると思いました。──安達潔

(選)半田・安達

動きたる影に驚く秋の夜 三空

*その闇の深さ妖しさが、秋の夜の醍醐味。ふと影が動く。誰っ?と声をあげる作者の後ろには…。ジャーン。乱歩の小説の一節みたい。──半田真理

*この「驚き」はたぶん軽いもの。そこに、<17>同様、心に緩やかなゆとりのある「秋の夜」の感じがよく出ていると思いました。──安達潔

(特選)きなこ(選)三空

 新蕎麦や胸に荒野のあるがまま 掃部けいじ

 *心に響く句です。胸に果てしない寂しさがあろうとも、

何はともあれ食しましょう、今年の新蕎麦を。──きなこ

* いろいろと胸に穏やかならぬ事はあるが、それはそれとして、今は新蕎麦を楽しんで居られる。心の広さと余裕が感じられます。──三空

(特選)かしこ(選)カコ

声の懐かし珈琲は秋の色 半田真理

* この声の主は栗島弘氏か?そうでなくてもいいけれど。コーヒーはコーヒーブラウンというくらいだから、秋っぽい色なのだけど、「は」と強調しているくらいだから、特に秋っぽい特別な懐かしい色に感じたのでしょう。──さとうかしこ

* 上五の声の懐かしが良いなあ。秋色のカフェ、さらに良いなあ。濃い目の琥珀色かしら。──カコ

(特選)半田(選)きなこ

倣ひとて痩せた秋刀魚の腹を食ふ 白浜和照

* 痩せた秋刀魚の腹。その腹を食うという。もちろん腹ワタを喰らうのだ。まさに腹を括ったな、と思わせる句。痩せ我慢、諦念、ユーモアのある句。ごちそうさまでした。──半田真理

* 郷土の風習か、我が家の倣いであるか・・・。最近の秋刀魚は身が薄い・細い。それでも習慣でハラワタを食う。通はそこが美味しいのです。──きなこ

(選)かしこ・白浜

秋曇り今日は卵を食べない日 きなこ

* 何の因果もないお天気と卵。だけど、秋晴れの雰囲気ではないし、秋曇り程度がいいのかしら。食べない日、と決めたのもとぼけた感じがして面白い。──さとうかしこ

* 作者の日常そのままなのでしょうが、秋曇りとの取り合わせが何とも豊かな味わいです。「広島や卵食ふ時口ひらく・三鬼」大変鮮烈な句でそれを承知のすっとぼけた自解がありますが、どちらも日常の変容です。秋曇だから食べないのでしょうか。何か規定があるのでしょうか。秋曇りと卵を食べない二つの日常の結合が、全く力みの無い穏やかな詩へと昇華されています。──白浜和照 

(選)三空・カコ

 秋空のあまりに澄みて我は鬱 きなこ

* 分かります。あまり澄みすぎるのも時によっては精神的にこたえますね。──三空

* 鬱たから感じる澄んだ空色なんだろう。物思う秋。鬱にもなるこの頃の世情である。──カコ

(選)半田・安達


今年も白き蕎麦の花一面に 武内

* 蕎麦の花。ちょっと独特な匂いがあるとか。一面の白い花。ドライブ中に、山あいに見つけると、ここにも人が棲んでいるのかと感慨が。──半田真理

* 素直な作品!これだけで、その土地の景色ががちゃんと見えてくるのは、「蕎麦の花」のご利益、だなあ。──安達潔

(選)掃部・武内

新蕎麦の貼り紙幟日の眩し さとうかしこ

* 「貼り紙幟」の具象物から「日の眩し」の感覚への移行・飛躍が好手。──掃部けいじ

* 蕎麦好きにとって待ちに待った日。幟を見ると嬉しい。──武内

(選)武内・白浜

朝寒の声頓狂に洩れにけり 掃部けいじ

* 晩秋 窓を開けたとき 「ひぇ~」「う~」と発する。これから益々寒くなり 窓には結露が。──武内

* 今年、確か台風14号の過ぎた朝急激な朝寒がありました。頓狂と言う言葉は擬音語・擬態語の類なのでしょうか。言葉自体が頓狂ですが今では教養の範疇。今季初めての朝寒につい洩れた無意識の身体の声。両肩が寄り「コ・コ・コ」とでも呟いたのでしょうか。この句には面白味と軽いペーソスがあり、着眼表現がヒソと魅力で特選とすべき句なのかも知れません。──白浜和照

1点句

(特選)安達

秋冷の朝陽がなぞる樹々の幹 きなこ

* 「朝陽」の表記には少し工夫がいるかもしれませんが、「秋冷や」ではなく「秋冷の」とされたところに却って季語の感じがよくあらわれるようで、ナルホドの写生句。「なぞる」で「樹々の幹」の佇まいも感じられ、上手いなあと思いました。──安達潔

(選)武内

宵闇の三軒先の金木犀 きなこ

* 散歩中 視界に入らずとも何処からと甘い香りが漂ってくる。小さい花を無数につけて。 銀よりも金木犀が好き。──武内

(選)掃部

 十割の香り歯応え出雲蕎麦 きなこ

* 「十割の」がこの句のすべて。上五に据えて以下、全くその通り。「出雲蕎麦」の限定もピタリ。──掃部けいじ

(特選)白浜

 秋しぐれ林の中に献血車 三空

* 多分実景なのでしょう。分からない言葉は無いのですが、確としたイメージを描けない句です。ならば採るなと言われそうですが、シュールな緊迫感はその分からなさにありそうです。救急車、パトカー、消防車の持つ緊急性が無い分違和感が大きくなります。林の道を走っている景ではなく、停車しているのでしよう。そんな場で献血作業をしている訳もありません。「秋しぐれ」は血を待つ人に掛っているのでしょうか。林としぐれと血の暗さが薄く混じり合う、献血車ならではの奇妙さが表現されています。──白浜和照

(選)安達

 子が何か浸せる秋の流れかな 三空

*言われてみると、人が徒然に「何か」を浸してみたくなるのは、なるほど秋かもしれない。学校帰り、友達と別れて差し掛かる小流。ふっと孤心に身を預け、ひんやりし始めた秋の小川に、道々拾った穂草などを浸してみたりするのは、おそらく女の子で…。もちろん「秋だなあ」と感じているのは、女の子ではなくて、心に浮かんだ「何か」という言葉に詩心のきっかけを汲み取った、大人の作者です。──安達潔

(選)かしこ

人は皆声を残さぬ水澄むや 三空

* 視覚に残らない声。視覚で感じる水の澄み。その対比。調べが私にはしっくり来ないけれど。──さとうかしこ

(選)カコ

石竹の鮮やか過ぎて身に沁むや さとうかしこ

* 夏の花であるがまだ赤々と咲いている。夏の名残がくっきり。花が色を落としていく今頃だからこそ身に染みる頃ですね。──カコ

(選)きなこ

 そぞろ寒水面を風の小走りに さとうかしこ

* サササッと、風は確かに水面を小走りに走って行きますね。──きなこ

(選)掃部

新蕎麦や北信五山見える丘 さとうかしこ

*「北信五山」の中七四文字が効いている。臨場感が伝わる「新蕎麦」。──掃部けいじ

(選)かしこ

 綿虫の大声に耳傾けよ 掃部けいじ

* 大声とは何と大げさな!綿虫に声があるなら私も聴いてみたい。聴こえる人にはきこえるのかもしれない。──さとうかしこ

(選)半田

新蕎麦を待つ嬉し顔真面目顏 掃部けいじ

* 待つというのは、注文した新蕎麦を待っているということでしょうか。真面目顔というのが、おもしろいです。──半田真理

(選)きなこ

玉乗りのぽつねんとゐて秋時雨 掃部けいじ

* たまらなく寂しい風景。雨が降って人がいない通りに玉乗りが一人。見てくれる人がいなきゃ玉に乗っても空しい。──きなこ

(選)かしこ

新蕎麦や話の尽きぬことばかり 半田真理

* 新蕎麦、というだけで、ただの蕎麦がただでなくなる。その気分の高揚感が、会話を盛り上げ、持続させる。初物への日本人の入れ込みが伝わる。──さとうかしこ

(選)三空

歌声はシャンソンだつた秋日和 半田真理

* シャンソンだと分かった時に心が軽やかになった感じが、秋日和の季語でよく伝わってきます。──三空

(選)武内

 さあ一献弾みし声の走り蕎麦 半田真理

* 相手は上司?同僚か?又は級友?いろんな声が聞こえてきそう。──武内

(選)掃部

 栗飯はほうんほうんと食ぶるもの 白浜和照

*「ほうんほうん」のオノマトペの独創が決め手。うなずけます。──掃部けいじ

(選)掃部

地の声に迎えられたる木の実かな 白浜和照

*「木の実」の落ちた音が「地の声」。接点の感覚が面白い。──掃部けいじ

(選)白浜

きらめきや燕帰りし多島海 安達潔

*瀬戸内海や九十九島、燕の目線の俯瞰でしょうか。晴れた日の凪いだ海と近景の照葉樹、黒い島影が複雑に散らばっている広い景。確かに燕が去った一抹の寂しさが感じられるきらめきです。少し固めの言葉ですが多島海が良いです。特選にすべきなのかも。──白浜和照

補遺

[兼題に就いて]

兼題「新蕎麦」「声」。
栗島先生の歌声を聞いた方はいますか。 この頃は、句会の後は懇親会つまり飲み会が多いのですが、以前はカラオケによく行っていたと、先生がおっしゃっていました。 果たして、どのようなお声だったか。持ち歌はあったのか。 どなたか教えてください。という思い入れの「声」です。(半田)


[選句選評後]

*今回私には特選同等の句が三句ありました。

何か一寸した事で特選句は変わっていたと思います。

2句は1点1句は2点、私だけの選に近いものです。

ただこの傾向は水の会の傾向の様に感じます。

皆さん自分に回帰しているのだと思います。

俳句は創作で、創作とは自分自身になる事だと思っております。

皆さんバラバラで、それが本当に魅力的な句会だと思います。

今回の選句選評の感想でした。

白浜和照