スラミス・ヴュルフィング
【メッセンジャーの存在】
現在の
『スカボロー・フェア』の歌詞は。
「スカボローの市に行くのですか?」
・・・と、
誰かが誰かに訊ねるシーンから
始まりますが。
その訊ねられたほうの人は、
スカボローに住むある人への
伝言を頼まれていました。
この伝言を頼まれた人のことを、
「メッセンジャー」
・・・と呼ぶことにしますが。
この、
メッセンジャーという存在は。
スコットランドの
『妖精の騎士』のバラッドにも。
また、
「キャンブリック・シャツ」が
出てくるあの3つの歌。
『The Humours of Love』
『THE CAMBRIC SHIRT.』
『Ignotus版』
・・・のどれにも。
登場していませんでした。
それらはみな、
妖精の騎士と若い娘。とか。
ある男とある女。のような、
1対1での直接的な対話でした。
ではなぜ。
『スカボロー・フェア』には、
「メッセンジャー」が
登場することになったのか。
その痕跡を辿れるような歌も。
そこにはあったそうです。
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チャイルド・バラッドの
『妖精の騎士』の中に。
「Lord John」
・・・という歌があります。
ヴァージョンFです。
'Did ye ever travel twixt Berwick and Lyne?
Sober and grave grows merry in time
There ye'll meet wi a handsome young dame,
Ance she was a true love o mine.
'Tell her to sew me a holland sark,
Sober and grave grows merry in time
And sew it all without needle-wark:
And syne we'll be true lovers again.
'Tell her to wash it at yon spring-well,
Sober and grave grows merry in time
Where neer wind blew, nor yet rain fell.
And syne we'll be true lovers again.
'Tell her to dry it on yon hawthorn,
Sober and grave grows merry in time
That neer sprang up sin Adam was born.
And syne we'll be true lovers again.
'Tell her to iron it wi a hot iron,
Sober and grave grows merry in time
And plait it a' in ae plait round.'
And syne we'll be true lovers again.
'Did ye ever travel twixt Berwick and Lyne?
Sober and grave grows merry in time
There ye'll meet wi a handsome young man,
Ance he was a true lover o mine.
'Tell him to plough me an acre o land
Sober and grave grows merry in time
Betwixt the sea-side bot and the sea-sand,
And syne we'll be true lovers again.
'Tell him to saw it wi ae peck o corn,
Sober and grave grows merry in time
And harrow it a' wi ae harrow tine.
And syne we'll be true lovers again.
'Tell him to shear it wi ae hook-tooth,
Sober and grave grows merry in time
And carry it hame just into his loof.
And syne we'll be true lovers again.
'Tell him to stack it in yon mouse-hole,
Sober and grave grows merry in time
And thrash it a' just wi his shoe-sole.
And syne we'll be true lovers again.
'Tell him to dry it on yon ribless kiln,
Sober and grave grows merry in time
And grind it a' in yon waterless miln.
And syne we'll be true lovers again.
Tell this young man, when he's finished his wark,
Sober and grave grows merry in time
He may come to me, and hese get his sark.'
And syne we'll be true lovers again.
この「Lord John」という
バラッドは。
出典が。
「Kinloch MSS, I, 75.
From Mary Barr.」
・・・となっています。
当時。
George Ritchie Kinloch
(ジョージ・リッチー・キンロック)
という人がいて。
彼はスコットランドの
弁護士だったようなのですが。
(おそらく趣味で)
バラッド集めもやっていた
ようでした。
キンロックのほかにも当時は、
ウィリアム・マザウェルや、
あとは以前も少し触れた、
ピーター・バカンといった
バラッド収集家たちがいて。
チャイルドは、
キンロックやマザウェル達の
原稿にアクセスし。
そこから見つけた
いくつかのバラッドを、
「チャイルド・バラッド」の中に
収録したそうです。
キンロックの集めた
バラッドの中に、
『Lord John』があり。
この歌は、
キンロックが当時の
スコットランドの歌手。
「Mary Barr」から
聴いた歌。
・・・だとのこと。
また、
キンロックがこの歌を
記録したのは1820年代でしたが、
(おそらく1827年)
この歌自体は、
もっと古くから存在していた
ようでした。
キンロックによると、
歌手のメアリー・バーは、
「印刷物で見つけたものは
何も記憶に残っていません。
私が歌う歌はすべて、
50年以上前に口頭で
伝えられたもので。
それ以降の他の歌を覚えて、
自分の記憶に負担をかけることは
しませんでした」
・・・と語っていたのだそうです。
*******
この歌は、
「Did ye ever travel twixt Berwick and Lyne?」
・・・から始まっていて。
「BerwickとLyneを
2回旅したことがある?」
・・・と訊いています。
「Berwick」って、
靴のメーカー??
・・・なんて
思ってしまいましたが
多分、
こっちのことだろうと
思います。
「バーウィック」ではなくて
「ベリック」ですね。
「Lyne」という地名は。
スコットランドにも、
イングランドにもあるようですが。
多分、おそらく、
なんとなく。
スコットランドの方っぽい
気がします
この歌には二人の
「男女」の主人公がいて。
「Tell her」「Tell him」
・・・という歌詞が
あることから、
彼らが、
「メッセンジャー」を介して、
お互いの伝言を
伝えあっているのが解ります。
おそらくこの男女は、
片方が「Berwick」
もう片方が「Lyne」に
いるのでしょう。
タイトルの、
「Lord John」
(ジョン卿)
・・・とか、
歌詞の中の、
「young dame」
(若いお嬢様)
・・・という言葉から、
この二人は、
上流階級の人達。
・・・ということが
見て取れます。
そして、
「Ance she was a true love o mine」
「Ance he was a true lover o mine」
「And syne we'll be true lovers again」
・・・とありますから、
二人は元恋人だったようです。
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リフレインはとても奇妙で。
「Sober and grave grows merry in time」
これは。
どう訳せばいいのでしょう?
グーグル先生は。
「地味でも深刻でも
時間が経つと楽しくなる」
・・・と訳していましたが
「sober」には、
「地味」のほかに、
「お酒に酔っていない(しらふ)」
という意味もあります。
「酔いが醒めている」
・・・みたいな。
あとは、
「真面目」「シリアス」
「窮屈」「分別のある」
「抑制された」
・・・という意味もありました。
これは完全に私の想像ですが。
もともとは恋人だった
上流階級の二人が。
なんらかの理由で今は
引き裂かれていて。
お互い、
遠いところにいる。
今の状況は、最悪。
まるで「墓場」にいるような
感じだけれども。
やるべき仕事さえこなせば、
やがて幸せになれる。
・・・みたいな。
そんな感じに聴こえました
*******
「Sober and grave grows merry in time」
・・・というリフレインは、
少し変わっていますが。
でも。
「sober」は「savoury」と
音が少し似ていますし。
あとは。
「grows merry in time」は、
「rosemary and tyme」と
聞き間違えるかも?
またこの歌では、
「holland sark」
(オランダのシャツ)
・・・が使われていることから、
もしかすると。
『The Humours of Love』
『THE CANBRICK SHIRT.』
『Ignotus版』
・・・の3つの歌よりも、
古い可能性もあり。
あの3つの歌に出てくる
「ハーブのリフレイン」の元型が、
これだったりするということも。
もしかしたら、
あるかもしれません。
その逆で。
「ハーブのリフレイン」を
聞き間違えて。
こういう言い回しになった。
・・・ということも
考えられます。
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【スカボロー・フェア聴き比べ】
ドイツの歌手。
シンガーソングライターで、
オート・ハープの奏者。
・・・だそうです。
オート・ハープ。
・・・という楽器は
知りませんでした
最初聴いた時は、
トルコの楽器と
勘違いしてしまいました
Alexandre Zindel 『Scarborough Fair』(2010)
★University of Wisconsin MadHatters★
アメリカの
男性アカペラグループ。
この歌を隣で聴いていた
娘が一言。
「こわい」
・・・と
University of Wisconsin MadHatters
『Scarborough Fair』(2010)
★KOKIA★
日本人。
ザバダックの
上野洋子さんの時も。
実は思っていたのですが。
日本人が歌う
こういう歌を聴くと。
なぜか。
アニメやゲームが。
まず、頭に浮かんできます
日本人の歌声は。
細くて繊細で。
それは多分。
身体の作りからして
違うからなのでしょう
けれども。
西洋の、
特にオペラの人達からすると、
日本人の声は時折、
「細すぎる」と
感じるようです。
私は。
そういう、
繊細な声が。
好きですけど
ただ、やっぱり。
『スカボロー・フェア』の
あの匂いは。
本場の人達にしか
出せないのかもしれません。
そういう意味では。
サイモン&ガーファンクルでさえ。
その「匂い」は
「本場」とは違っていて。
KOKIA 『Scarborough Fair』(2010)
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【ちょっと横道】
「オートハープ」のことが
気になって。
調べてみました。
ウィキによると、
これは、ハープというより、
ツィターなんだそうで。
そのツィターという楽器は、
トルコのカーヌーンに
類似した楽器だと
書いてありました。
やっぱり!
ベリーダンス時代を
思い出す音です。
Müziğin Renkleri - Kanun
ついでに思い出した、
あの頃、好きだった曲です。
Mercan Dede 『Halitus』(2006)