『ヤング・ベッキー』より(Child 53)

アーサー・ラッカム

(1919)

 

 

 

【バラッドについて】

 

 

 

 

 

 

《スカーバラ・フェア》のように、

四行で1スタンザが形成され、

 

物語性を強くもち、

 

作者や成立年代不明で

口承によって伝えられてきた

伝統歌は、

 

バラッド balladと呼ばれる。

 

<中略>

 

バラッドの語源は、

 

後期ラテン語で「踊る」を

意味する動詞 ballareと

されており、

 

15世紀頃までは、

キャロル caroleと呼ばれた

リング・ダンスに伴って

歌われていたそうだ。

 

人々が手をつなぎあい、

円を描きながら踊られた

キャロルには、

 

音頭取りをする

チーフ・シンガーがいて、

 

そのチーフ・シンガーが

四行詩であるバラッドの

一行目と三行目を歌い、

 

ダンサーたちが

二行目と四行目のリフレインを

歌っていった。

 

つまり、

現在に残るバラッドで

二行目と四行目に

リフレインをもっている歌は、

 

中世以降に成立した

可能性が高い、

ということになる。

 

《スカーバラ・フェア》は、

わずかに例外的な箇所もあるが

こうした古いバラッドの

ひとつと考えられる。

 

<中略>

 

バラッドは、

長いあいだ人々の生活の中で

命脈を保ってきた。

 

かく歌われるべし、といった

厳密な規範は、

そこには存在しない。

 

その時々の生活が、

古くから歌われてきた

バラッドにおのずと

投影されていく。

 

だから

《スカーバラ・フェア》は、

中世以前に成立したバラッドが

様々に変容しながら

生きつづけ、

 

18世紀後半に歌われていた

形が記録されて、

 

現在に伝えられたと

捉えられる。

 

こうした古いスタイルを

もっているバラッドは、

 

オールド・バラッドという

名前で分類されており、

 

本書でもこのあまり

パッとしない名前を

使っていこうと思う。

 

 

内容からそのバラッドを

オールド・バラッドと

推定することも可能である。

 

オールド・バラッドには、

キリスト教定着以前の

民間信仰、原始信仰の痕跡が、

 

必ずと言っていいほど

色濃く残されているからだ。

 

(『バラッドの世界』P16~P18より抜粋)

 

 

*******

 

 

 

 

 

もともとダンスに合わせて

うたわれた歌をさして

「バラッド」と言ったが、

 

やがて、

あらゆる種類の単純で

センチメンタルな恋愛歌を

指すようになった。

 

<中略>

 

文字を持たない民衆によって

各地でうたい継がれてきた

多種多様な物語歌を

 

「バラッド」という言葉で

表現するようになったのは

17世紀以降であり、

 

以後今日まで、

その用法が一般的である。

 

<中略>

 

これを総称して

 

「traditional ballad」

 

(「伝承バラッド」ないし

「口承バラッド」)

 

という。

 

また、それが民衆によって

歌い継がれた点から

 

「folk ballad」

 

「popular ballad」

 

とも表現する。

 

スコットランドとイングランドの

国境を舞台とする物語歌を特に、

 

「Border ballad」

(ボーダー・バラッド)

 

と呼ぶ。

 

 

 

 

日本では「バラッド」と

「バラード」は言葉の区別なく、

 

広く、抒情あふれる愛の歌を指して

自由に使われているようである。

 

<中略>

 

もともと「バラード」という言葉は

フランス語の「ballade」で、

 

音楽用語としては

ショパン(1810ー49)の

ピアノ曲にあるような

 

物語をイメージした

譚詩曲をいい、

 

また、

中世フランス詩の定型詩体

 

(1スタンザが8~10行から成る

同韻律を持つ3スタンザと

4~5行から成る反歌1スタンザで、

それぞれがリフレインで終わる)

 

をいった。

 

英語の「ballad」も、

フランス語の「ballade」も

イタリア語の「ballet」も

 

語源は同じで、

 

ラテン語で「舞踏」を意味する

「ballare」である。

 

 

 

 

バラッドがバラッドたる所以は

物語をうたうという

ことであるが、

 

その内容において

大きな特徴がある。

 

<中略>

 

全体を大きく見れば、

 

バラッドの物語は

男女の恋愛と戦いの世界である

とも言えよう。

 

しかしこれを

細かいモチーフという

観点から見てみると、

 

求愛の成功と失敗、

 

殺害、復讐、後追い自殺、

 

嫉妬と呪い、

忠義と裏切り、

近親相姦、

 

アーサー王伝説、

キリスト教物語、

 

変身物語、

海賊譚、

 

浮気や家事をめぐる

ユーモア等々、

 

枚挙に暇のない多様な

物語世界が展開する。

 

さらにその世界を

一段と豊かなものに

しているのは、

 

妖精、悪魔、人魚、亡霊などの

異界の登場人物たちである。

 

彼らが絡むことによって、

例えば悲劇的事件の持つ

生々しさを

 

非現実的なものに

変容している。

 

 

(『バラッド詩学』より抜粋)

 

 

*******

 

 

 

 

 

 

バラッド(ballad)は

本来文字のない社会の所産である。

 

文字の書けない民衆が

文字の読めない民衆のために作り、

 

口誦伝承してきた

民族的遺産である。

 

幾世代にもわたって

誇りと名誉を狙って伝えられ、

 

しかも、

その間に民衆による激しい

淘汰選択を闘い抜いたあげくの

民族的共有財産である。

 

従って、

そこには今日のイギリス民族の

祖先の生活感覚の生の姿が

歌い継がれている。

 

<中略>

 

今日、

筆学文学としてみるバラッドは、

バラッドの形骸であっても

バラッドそのものではない。

 

何となれば、

バラッドは口承による流動の間を

生きていてこそ

バラッドたりうるからである。

 

イギリスにおける

バラッドの最降盛期は

15世紀とされるが、

 

バラッドがそれ本来の姿で

生きていたのは

1400年頃までのことで、

 

その時代には

caroleと呼ばれる円舞

(ring-dance)に伴って

うたわれていたのであった。

 

その後

吟遊詩人(Minstrel)や

吟遊詩人(Bard)の

出現によって、

 

「うたいもの」

 

としてのバラッドは、

 

「語りもの」

 

としてのバラッドに

その地位を譲り、

 

ためにSong-leader

(わが口説などの音頭取りにあたる)は

MinstrelやBardに、

 

歌い手(踊り手)は

聴き手に変わり、

 

コーラスやリフレーンも

概ね消失し、

 

バラッドもそれ本来の

相を変ずるようになった。

 

 

(『バラッド研究序説』P7~P8より抜粋)

 

 

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『バラッドの世界』

 

・・・という本は面白いですにっこり

 

 

久々に読んでみたら

この本では、

 

「モリス・ダンス」

 

・・・のことにまで

触れていたことに気づき。

 

お得な気分になりましたニコニコ

 

 

他の二冊は、

バラッドの専門書です。

 

私のように、

 

バラッドそのものを

深く研究したいわけでは

ない人には。

 

ちょっと、

マニアックすぎる内容ですが。

 

 

バラッド・オタク。

 

・・・みたいな人にとっては

素晴らしい本なのだろうと

思いますおやすみ

 

 

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【スカボロー・フェア聴き比べ】

 

 

ケイト・ラズビー

 

 

『スカボロー・フェア』ではなく、

『エルフィン・ナイト』ですが。

 

こんなのもありました。

 

彼女はイギリスの

フォーク・シンガーなのだ

そうですが。

 

曲調が明るいせいか、

 

イギリスのフォークというより、

アメリカン・カントリーに

聴こえてしまいますほっこり

 

 

Kate Rusby 『Elfin Knight』(2005)

 

 

 

ラルフ・マクテル

 

 

 

 

英国のシンガーソングライター。
アコギ奏者。

1960年代から、
英国のフォーク・シーンに
影響を与え続けている人。

 

 

マーティン・カーシーと。

色々と雰囲気が、

かぶる感じがしました。


詩の2行目のリフレインを
みんなで合唱しているところは。

伝統に沿ってるっぽくて

いい感じですにっこり


この『スカボロー・フェア』。

すごい好きです。

ツボにはまります。

 

 

Ralph McTell 『Scarborough Fair』(1985)

 

 

 

The Coolies


ここまで突っ走ってると。

もう。

 

これはこれで、
楽しいニコニコ


エアロビがしたくなる
『スカボロー・フェア』です。


The Coolies 『Scarborough Fair』(1986)

 

 

 

Incantation (musical group)

 

 

「Incantation」で
調べると。

アメリカの、
デスメタル・バンドのこと
ばっかり出てくるのですがにやり

 

 

このバンドはそっちでは

なくて。

 

伝統的な部族音楽とか

南米の音楽を演奏する

グループみたいです。

 

 

フォルクローレになった

『スカボロー・フェア』ですニコニコ

 

 

Incantation 『Scarborough Fair』(1987)

 

 

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【ちょっと横道】

 

 

ラルフ・マクテルさん。

なんだか、

すごくファンになりました。


そして、この演奏。

見る限り、
アコギ一本のようなのに。

 

なぜか、


重なるシンセみたいな?
ヴァイオリンみたいな?
音が。

いい感じに、
入ってくるのが聴こえて

くるのですが。

 

これは私の

幻聴ですか?

 

それとも、

本当に入ってますか?

 

その音。


いい歌だなぁ。


あと。

関係ないけど。
うしろの食器棚が素敵目がハート

 

 

Ralph McTell 『Girl from the Hiring Fair』(1989)

 

 

 

幻聴?がすごく

気になったので。

 

原版も聴いてみました。

 

こっちには

しっかり入っているようだけど。

 

その音真顔

 

 

Ralph McTell 『The Girl from the Hiring Fair』