『When the Troll Mother took care 

of the King Storbyk』

ヨン・バウエル

(1914年)

 

 

 

***2021年6月24日の日記***

 

 

例の飲み会の翌日に、

 

ソラ君と
会う約束をしていました。


その日のソラ君は、

無精ひげが
うっすら生えていて。

いつもと少し、
違う感じがしました。


あの日は。

上野動物園に行く約束を

していましたが、

臨時休園に

なっていたので

予定変更で、
映画を観に行くことに

なりました。


あの映画は、
ソラ君が観たいと

言っていたのに。

映画館で。

 

隣で彼は。

ずっと爆睡していてあんぐり

えー・・・

・・・と思っていました凝視


そのあと、
お茶をしていると。

ソラ君は。

 

黙って私の顔を、

ジーッと見てくるのです。

もうずっと、
こっちを見てくるので。

 

私はなんだか、

気まずくて。

「何?」

・・・と訊いたのですが、

「今日、Lyricaと会って
 よかったよ」

・・・と。


ソラ君は、

それだけしか言わないので。

私は、

「?」となりました。


夜。

ちょっと風に当たらない?

・・・と、彼が言って。

 

すぐ近くの

日比谷公園に行きました。



そこは。

 

夜は恋人たちのメッカで。

周りのカップルたちは、

あっちでもこっちでも
仲むつまじく。

 

 

そんな中、

私達はベンチで。

かなり長い間。
二人でボーッと座っていました。


その日のソラ君はずっと、
いつもと少し様子が
違っていて。

なにも喋らないし。

私もなんだか、

話しかけづらくて。


二人でただ、

座っているうちに。

すごく。

やりづらい気分に
なってきましたおねだり


*******


そこでおそらく、
30分以上は。


二人並んで。

ただ黙って

座っていました真顔

 

周りのラブシーンを
見せつけられながら無気力


突然、
ソラ君が口を開きました。


「Lyricaって。
 俺のこと、どう思ってるの?」

・・・と。


え?今更?驚き

 

・・・と思いました。


 

そして、

今更だったので逆に。

 

「好きだよ」

 

・・・と素直に言いづらく。

なんて言えばいいのか
困っていると。


「俺さ。Lyricaのこと、

本当に好きなんだけど。

 悪いけど、彼女だと
 思ってるんだけど」


・・・と彼が言いました。


そこまで言ってもらったら、

さすがに黙っていることは

出来なくて。


「私もソラ君のこと、
 好きだよ?」

・・・と言ったのです。


でも、そうしたら。

彼は突然、
頭を抱えだして。


「あー。違う!
 違うんだよ!」

・・・と。

なんだかすごく、
辛そうな顔になって。

頭をかきむしっているのです。


この展開が。

 

私にはまるで

意味が解らなくて。

どうしたらいいのかも、

解りませんでした。

 

 

けれども。

 

ソラ君があまりに

辛そうなので。

 

私は思わず、

彼にぴったり寄り添って。

 

彼の肩に、

自分の頭を乗せて。

 

そのまま、

黙っていました。


そのうち彼も少し、

落ち着いてきて。

 

頭を撫でてくれました。

 

 

その時に私は、

突然思い出しました。

 

 

そうだ!

 

ソラ君は、

海で日焼けして。

 

今日は肩がヒリヒリするって

言ってたっけ!びっくり

 

・・・と


「あ。ごめん。
 肩、痛かったんだよね」

・・・と。

私は急いで離れて。


「大丈夫」

・・・と彼は言って。

 

 

それが弾みになったのか。

ソラ君が、

いろいろと話し始めました。


*******


昨日の飲み会で。

ちーちゃんと
再会した時。

ソラ君は。

 

彼女のことはずっと、

無視していたのだそうです。


けれども。

ちーちゃんの方から
声をかけてきたらしく。

結局。


朝まで二人で。

二人きりで。


飲んでいた。と。


ソラ君は。



「昨日アイツと
 飲んでたらさ。

 なんか。

 昔の気持ちを、
 思い出しそうになって」

・・・と言って。


それを聞いた時、
私はもう。

予想外すぎるこの展開に、
頭がついていかなくて無気力


え?

今頃になって、
揺れる。なんてこと。

本当にあるの?

・・・と。


そこが本当に。
信じられませんでした。


私達、今までこんなに、
相思相愛だったのに?

・・・と。


いやいや。

「昔の気持ち」って、

それは。

ただの、

一瞬の気の迷いで。

でも。
一瞬でも迷ってしまったって

ことを今、

 

言いたいだけなんだよね?

・・・と。


この信じられない

状況に対して。

私の頭は。

そうやって自分を

納得させようとして

いました。

 

 

けれども。

 

私も動揺していたせいで。

 

思っていることとは

全然違う言葉が。

 

口から勝手に

飛び出していました。


「えっと。さ。
 だったら、なんでさっき。

 私のことを好きだ。
 なんて言ったの?」

 

・・・と。

そんな言葉が無意識に。

 

 

ソラ君はそこで、

長い間黙っていましたが。

 

意を決したようにまた、

話し始めました。


ちーちゃんが他の男の子と

付き合い始めた時。

ソラ君は、
好きだった彼女を忘れたくて。

いろんな女の子を
誘っては遊びにいく。

・・・を繰り返して

いたのだそうです。


でもそれでも、
心は埋まらなくて。

他の女の子たちとはみんな。
その日限りだった。と。


女の子を次々と

誘っていたなんて・・・と。

 

私はその時。

 

結構、

ショックでした真顔


Lyricaはお店でも

よそよそしかったし。

 

だから誘っても

絶対に来ないだろうと

思っていたから。

 

 なかなか声は

かけられなかったけど。


でも来てくれた時は、

本当にウソみたいで。

 

本当に嬉しかった。と。

 

ソラ君はそう言って。

 

 

私はその時。

 

そんなに嬉しく思って

くれていたのか。と。

 

少し、

胸が痛かったです。

 

 

そしてディズニーランドに

行った時に。

 

Lyricaとは

絶対にこれっきりには

したくないと思った。と。

 

ソラ君は言っていました。

 

 

私はそんな状況の中。

 

彼のこの言葉が。

 

一瞬、

調子のよい噓のように

聞こえてしまい。

 

思わず、

彼の目をのぞき込んで

しまいました。

 

 

でも、

あの時の彼は。

 

本当にものすごく

辛そうな顔をしていて。

 

とても

嘘をついているようには

見えませんでした。


私が混乱しているのは、
彼にもすぐ分かったみたいで。


「大丈夫だから。

これからも誘うからな。
 Lyricaのことは、絶対に!」

・・・と。

私の手を。
 

痛いくらいに、
両手で握りしめて。

すごい力を込めて。
フォローしてくれましたが。


私はなんだか、
頭がまわらなくて。


思ってもいないような

言葉が。

次から次へと。

口からぽろぽろ、
こぼれてしまってぐすん


「そんなこと。
 
 わざわざ言わなければ
 わかんなかったのに。

 聞きたくなかったのに。
 そんな話」

 

 

・・・と、

小声で呟いていました。

 

 

その独り言が

よく聞こえなかったソラ君は。

 

「ん?」と。

 

わざわざこっちに

身体を向けてまで。

 

私の言葉を、

ちゃんと聞いてくれようと

するのです。

 

 

彼のその優しい態度が、

逆に辛くて。

 

私は思わず、

彼を責めてしまいました。

 

 

「私のこと、好きって
 言うんならさ。

 なんでそんな話、するの?

 正直すぎる!!」

 

・・・と。

つい、

そんなイヤなことをぼけー



そうしたら、

ソラ君も少し感情的になって。



「俺は、A男みたいには
 なりたくないんだよ!」

・・・と。

 

 

それは少し、

強い口調で。

 

 

私もそうですが、

ソラ君も。

 

二人でいる時に

こんなに声を張り上げたことは

今までになかったので。

それは。

いろいろな意味で
ショックでした。

 

 

大声で言いあうことも

ショックでしたが。

 

それだけではなく。

 

あの時、

 

ソラ君にはそんな意図は

ないことは解っていましたが。

 

私が勝手に、

図星をつかれていたのです。


A男君というのは。
ソラ君の学校の友達で。

 

彼もやはり、

同じバイト仲間で。

なので私もよく知っていた

男の子でしたが。

 

その子は。

根は悪い人では

ありませんでしたが。

女性関係が、
かなりめちゃくちゃな人で。

二股、三股は当たり前。

 

・・・みたいな、

そんな男の子でした真顔


そのA男君みたいには
なりたくないと言った

ソラ君。

 


なんだか、私は。


ソラ君が。

私に対して、

誠実でいてくれようと

すればするほど。

自分が今やっていることを、
責められているようで。

 

胸が痛くなりました。


あの時の私はまだ。

レン君とも。
そのまま付き合っていて。


レン君のことを。

 

ソラ君にはずっと、
秘密にしていたのだから。

 

 

そして、レン君にも。

 

ソラ君のことは、

秘密にしていたのだから。


あの時のソラ君の

あの言葉は。

彼が私のように、

二兎を追うような。

 

そんな最低な人では

ないのだと。

それを私に、
ハッキリと解らせたし。


だから彼はきっと。

私と付き合いながら。

 

心の中でこっそり

ちーちゃんを想う。

 

・・・なんてことは

出来ない人で。



だから、

彼はいずれ。

彼女か私の。

どちらかを
選ぶはずで。


だとしたら。

たとえ報われないと

解っていても。


ソラ君はきっと。

ちーちゃんへの気持ちを
選ぶだろう。

 

・・・と。

 

あの時、

なんとなく。

そんな気がしました。

そういう直感が、

走りました。


「ごめんな」

・・・と彼が言った時。


「私も辛いけど。

多分、ソラ君のほうが辛いね」

・・・と。

そんな言葉が、
口をついて出ていました。

 

 

ちーちゃんには

既に他に彼氏がいて。

 

それでもまだ、

ソラ君は彼女のことを

忘れられなくて。

 

そんな報われない思いは。

とても辛いだろうと。

 

そう思ったからです。

 

 

あの時は。

 

私はまだ、

そう思っていました。


*******


家はほとんど、
反対方向なのに。

ソラ君はいつも。
家の近くまで送って
くれていて。

あの日もそうやって、
送ってくれたのですが。

帰りの電車の中では。

私達はほとんど、

話しませんでした。

 

二人とも黙ったまま、

真っ暗な外の景色を

見ていました。

 

 

このまま、

無言のまま別れるのかと

思っていたら。

別れ際、ソラ君が。

「じゃあ、次は。
 動物園な!」

・・・と、明るく言うのです。



「え?
 本当に行くの?」

・・・と、私が言うと。

「もちろん!
 また、電話する」

・・・と。

 

 

そしてソラ君は、

 

「またな!」

 

・・・と、笑顔で手を振って

帰っていきました。


彼のこの言葉には少し、
驚きました。


自分の本当の気持ちに
気づいてしまった彼が。

この先もまだ。
私と付き合えるの?

・・・と思っていました。


彼の気持ちが、
自分から離れそうなことは。

 

私にとってもかなり

ショックなことでしたが。


でも。

こういう風に

なってしまったら。

もう。
先はない。

 

・・・と。

なんとなく。
どこかで解っていました。


それなのに、

 

あんなことを
言うなんて。

もしかして、

ソラ君は。

今は本当に。

 

私のほうを

選ぼうとしているってこと?

・・・と。


何とも言えず。

宙ぶらりんな

感じになりました。

 

 

つづく

 

 

*******

 

 

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