ちょっと気になる。
だいぶ気になる。
あいつとの唯一の連絡手段だった、
ホットメールの登録が消えていた。
『Hey, Ishwor!!?? Are you still there??!! Please!! wake up!!!』
最後の日、約束の日だってのに
出発時間になってもやつは出てこない。
ドアの向こうから、
あの独特の体臭が臭ってくる。
もう何日も風呂に入っていない、(そもそも風呂なんてない)
ハシシと体臭の混ざったあの鼻を突く臭いは、
今思い出しても顔をしかめたくなる。
やっとこさ出てきたあいつは相変わらず
黒いキャップに薄汚れたジャケットにジーンズ姿で
目を真っ赤にしていた。
『Hello my friend, I'm sorry I've overslept. Are you ready now?』
『Ofcause I'm ready! how about you?!』
ちょっと急かして、
約束どおりバイクでインド・ニューデリー行きのバス停へ。
最初は歩いていくつもりだったが、
バイクでいってみると思っていたよりも遠かった。
所定の時間には間に合い、余裕綽々でまっていたが、
なんとそこからバスが来るのに2~3時間待つ羽目になったのだが・・・。
ともかく、やつとの最後の時間だった。
お金も満足に持っていないのに、やつはバス停の近くの売店で
食事をおごってくれた。
ここを出れば、、、ここさえでれば、、
これまでここネパールを一刻も早く出たいと思っていた。
事情は自分にある。
あるトラブルから圧倒的な資金不足に見舞われ、
ネパールを飛行機で出れなくなったのだ。
至急インドに戻る為(ニューデリー→上海→成田行きの飛行機に乗るために)に、
バスのチケットが必要になった。
無事チケットは手に入ったものの、
このチケットが本物なのかどうか、心底心配だった。
毎日毎晩悪夢を見た。
毎晩起こる停電。
真っ暗な中で、もう読み終わった本の内容を反芻する。
ふと眠りに落ちては、夢の中で
ひょろっと背の高いインド人やネパール人が
『Hello--- トモダチィ~
』
『チョットミルダケェ~
』
と歩み寄ってくる。
はっと起きて、安心するのか、
否、まだネパールだったと、ドッっとため息をついていた。
窓の外にはいつも朝になるといるどこぞの
ガキンチョたちがダンボールを燃やして暖をとっている。
時々通り過ぎる結婚パレード。
幸せの空気なんか共有できるかと、
ブサくれていた時間が長い。
時間が、長い。
一日が、長い。
「こんなはずじゃなかった」
なんて、もう飽きるくらい考えたから考えてない。
早くこの不安から脱出したかった。
鬼気迫るこの不安を、
やつは毎晩やわらげてくれた。
「和らげた」より、
ただ毎晩ホワイトウィスキーをお湯割で、
プラスつまみを看板も出さない店で格安で飲み食いするだけ。
でも、十分だった。
ただ一緒に飯食ってくれて、話してくれるだけだけど、
本当にこいつがいてよかったと、
この、クセーけど、ハシシ浸りで金も持ってないけど、
でもある意味本当に人間クセーこいつが、結構好きだった。
『カトゥマンドゥ、What to do-』
『Don't worry my friend, Today,is gonna end, Tomorrow is the new day』
『Tomorrow , your new life!!』
ヘベレケになりながら、毎晩毎晩同じ様なことを語り合った。
飲んでいて12時を越えると、
『Look, now is the new day! new Life!!』
と笑いながら酒を飲んだ。
食費的にも、精神的にも。本当に助けられた。
買い物するにも、店のやつに安くしろと言ってくれた。
感謝しても仕切れないほどだった。
最後の時、別れる前に、俺はギリギリまで持っていた、
ネパールルピーをポケットの中に忍ばせていた。
もしかしたらバスが途中でトラブって、この金がないと困るかもしれない。
でも、Ishworにお礼もしたい。
迷いに迷って、
最後の握手の時に手持ちほとんどのルピーをその手に握らせた。
『Thanks everything Ishwor, you are my brother,
Thank you.more than words.』
どっかの英語の歌詞で聴いたような台詞が、思わずでた。
無事日本に帰って、
しばらくバタバタしてしまった。
研修や引越し、言い訳だけど。
よし、そろそろあいつに日本の写真ハガキと、
おひねりでも送ってやろうと、
ホットメールで先にメっセージを送信。
でも、エラーがかかった。
ものすごく後悔した。
もっと早く、もう一度連絡をとっていればよかった。
最後にメールをしたのは、五月ごろだったか。。
果たして生きているのか、ちゃんと暮らしているのか、
俺のことは覚えていてくれてるのか。
しばらくは、やつを探すことになりそうだ。
ちょっと気になる、あっちの兄弟。