一人一人、校門をくぐっていく。



ある子は走りながら、ある子はニコニコと、またある子はちょっと浮かない表情を浮かべながら。



息子は、それを目にして、母の手をしっかりと握り、爆発しそうなほどの不安と戦っている。



颯爽と一年生が通る。



一人で淡々と、でも、その足取りはしっかりと。



ちらりと門の脇で固まっている親子に目をやりながら、平然とその場を去っていく。



何人も何人も、こちらを一瞥して、スタスタと通り過ぎて行く。



息子は、その一歩がなかなか踏み出せない。



その一歩は、息子にとっては天国か地獄ほどの、生死を分ける大切な一歩。



運命を左右する、大事な一歩。



そのくらいのプレッシャーを抱えながら、今にも壊れそうなギリギリの表情で、ゆっくりと進む。



進んだと思ったら、また下がる。



結局、周りの登校の波には乗れず、亀のような歩みで、ヨロヨロとなんとか昇降口までたどり着く。



担任の先生が気遣って、下まで降りてきてくれる。


「おはよう!」

と明るい声で、息子に話し掛ける。



息子の表情は固まったまま。


すでにバリアが張られているようだ。


「今朝何食べてきた?」


と、極めて明るく聞く先生の声が、ただ、風に吹かれた花ビラのように宙に舞う。



息子の表情は、ますます固く歪んでいく。



今日もやっぱりダメかと、母は隣でため息をつく。


そんな母の心を読み取るかのように、即息子が泣き出す。



「怖い!怖い」と、毎日見ているはずの風景を見て言う。



毎日見ている先生や子どもたちが、彼のレンズを通すと、途端に敵に変わるようだ。

 


危険信号が出て、息子はヒラリと逃げ出す。



母は追いかける。



先生は、何回目かの驚きの表情を見せ、いかにもどうしたら良いか分からないといった様子で、右往左往する。



目的はみんな一緒のはずなのに、なぜかこの瞬間、皆のベクトルが違う方を向いている。



何度でも繰り返す、途方に暮れる朝。