病院までタクシーよりも歩いて行った方が早い距離とはいえ、この時はその5分がとてつもなく遠く感じた。

なにしろまともに動けないもんだから、ちょっと歩いては立ち止まって…の繰り返しで、やっとたどり着いた頃にはもうしゃべることもできないくらいになっていた。

自動ドアに入り、受付のところで警備員に「面会ですか?」と聞かれるも、辛くて説明することができない。

その場でうずくまって倒れ込むわたしを見て警備員は「これは産気づいた妊婦だ」と思ったらしく、何も言わずに早速、車いすでナースステーションまで連れて行ってくださった。

そこでわたしを担当してくれる助産師さんが出迎えてくれる。

「あらあら、心配してたのよ。大丈夫~?!」

優しい言葉にわたしは泣き崩れてしまい、安心したのかそこから涙が止まらなくなった。

助産師さんは泣いているわたしを陣痛室へ連れて行き、少し子宮口の開き具合などを見てから、
「3cmくらい開いているからお産にしましょう」
と言っていろいろと手はずを整え始めた。

「まじか~!」
と思い、心の準備がついていかずに余計に泣いてしまう。

すると、
「泣いてもいいけど、無駄に体力消耗しちゃうよ」
と言われ、ふと我に返り、
「もうここまで来たら産むしかない」と心を入れ替えることができた。

この助産師さんは本当に最後までとてもよく面倒をみてくれて、わたしはこの助産師さんが大好きになるのだが、この時は顔も見れないほどに意識が朦朧として余裕がない状態だった。

「痛い~!痛いよ~!」
と叫ぶわたしに、
「痛いね~、よく頑張ってるよ、うまいよ」
と声をかけてくれる助産師さん。

これがどんなに心強かったかと言ったらない。

そうすること数時間。それでもなかなかわたしの子宮口は全開大まで開いてくれない。

いきみが我慢できなくなり、「ぎゅーっ」といきんだところで骨盤が開く感覚があった。

「今、骨盤に赤ちゃんの頭が下りてきたよ。分かった?」
と言われて、首を縦に振る。

「あなたいきみながら広げるタイプかもしれないね。めいっぱいいきんでみて!」

助産師さんのその言葉で、わたしは子宮口が広がるイメージをしながらとにかく体がいきむのに任せた。

横向きになっていた体をよつんばいに持ち上げ、もうなすがままにいきみまくった。

とにかくこの時の痛みといったら!

「痛いね~!『この野郎!』って言いたくなるような痛みだよね」
と助産師さんが言うとおり、本当に腹が立って仕方ないような痛みだ。

わたしの願いは1つ。
「いい加減に子宮口広がってくれ~!」
ということ。

だけど助産師さんは「破水すればお産が進むんだけどね~」
と言い残してわたしを1人にするではないですか。

わたしは心細さと恐怖でいっぱいになりながらもじっと耐えた。
「どうすれば破水するんだろう…破水しなかったらどうするんだ?」
余計なことも考えた。

手すりを必死でつかみながら、短いペースで来る陣痛の波にただ体を任せる。
心だけが置いてきぼりでついていかず、「もうやだ~!」と何回も泣いて叫んだ。

その時お水を手に取ろうとしてペットボトルを倒してしまうも、それをなおすこともできなかった。

意を決してナースコール。

「あらあら・・・」
助産師さんが再び現れてわたしの中に手を突っ込み、子宮口をぐりぐりとやる。

「もうすぐかな」
と言われたところで、「ポンっ」という音とともに破水。(もしかしたら助産師さんが指で破水させたのかな?)
「ほら、破水した。これで広がるよ~」

いったい何がどうなっているのか??
もはや分からないけど、終わりが見えてきたようでこの時は少し嬉しかった。

夜中の23時ごろ、ついに「じゃ、分娩台に行こう!」という言葉を聞く。

そのときちょうどのタイミングで仕事を終えた旦那が陣痛室に現れた。

「あれ?立ち合いだっけ?」
と聞かれたが、わたしは首をぶんぶんと横に振った。

「絶対こんな姿を見られたくない!」
と真剣に思ったからだ。

車いすで分娩室まで行き、やっとの思いで分娩台に上がるわたし。

それから数十分間、絶叫するわたしの声を旦那は廊下で聞いていたという…。