通り過ぎていく人はスマホに夢中で誰も見ない。
たまに見てくる人もいるが、それは好奇な眼差しと憐れむ眼差しが主だった。
足が突っかかってよろける人もいる。
こっちを見下して何か言ったが、何も聞こえない。
そう、雨の音でさえ、何も聞こえない。
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新調した新しいワンピースに新しい靴。
薄いベビーピンクがベース、色とりどりの花柄。
腰には茶色いベルトを巻き付け、白っぽいカーディガンを羽織る。
ワンピースとカーディガンはどちらも七分丈でサイズもぴったりだった。
おニューの靴はそれに合わせたように、赤色のツヤツヤしたパンプス。
いつもはめんどくさいので、ジーパンにTシャツにスニーカーだったが、今日は違う。
「そろそろ行かないと遅れちゃう!」
やけに女の子らしい格好をして、語尾に音符が見えるくらい浮かれていた。
そう、今日は初デート。
この23年間生きてきて、彼氏いない歴年齢、23年だったが、ついに念願の初、デート!!!
相手は同じ職場の先輩。
そこそこ人気があり、仕事も効率的で、容姿も好みだった。
声を掛けられたのが1週間前の休憩中の出来事。
いつものようにコーヒーをゆっくり飲みながら書類を片付けていた。
ふと、自分の座っている反対側の席で動きがあった。
顔を上げるとそこには先輩が。
何が起こったのかわからず、フリーズして動けない。
「笠原奈緒さんだよね?
僕のことわかる?」
「え、あ、はい…。
営業部の…仲本さん、ですよね?」
「そうそう!
笠原さんって広報部だったっけ?」
と、こんな感じに他愛もない話が始まった。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、話していくうちに段々と考えをまとめていく。
「あのところで、仲本さんがどうしてこちらに?
というか、なぜ私の名前を?」
埒が明かないのであれば質問をするまでだ。
「…えっと、その、ずっと笠原さんが気になっててね、いつもカフェで休憩取ってるの知っていたからチャンスかなって。」
「………え?」
唐突の告白にまた空間が切り取られた感覚になった。
なんの冗談だ?
ただでさえ、部署の接点はあったとしても個人の接点はない。
頭が、痛い。
コーヒーが静かに冷えていく。
カップの中には茶渋が付いており、時間が経っていくことを知らせる。
申し訳ないな。
そんなことをぼんやりと思いながら先程の会話を思い出していく。
『俺さ、ずっと笠原さんのこと見てたんだよ。
気づかなかった?
それで、俺と…1日だけデートして欲しくて。
お願いします、笠原さんの時間を俺にください!』
その後は怒涛のようだった。
場所と時間、日取りを決めて仲本さんは去っていった。
ご丁寧に伝票も持って。
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それが経緯だ。
とにかく、わけも分からないが可愛くなれるようにショップに行き、3時間も使ってようやくお目が叶う洋服を手に入れ、今日に至る。
髪は変になってないかな。
口紅の色、時代遅れ?
おばさんみたいかな…あ、まつげが落ちた!
待って、化粧の仕方これでいいのかな?
爪のケアもっとしておけば良かった…。
なんて、様々なことを考えていた。
本当、柄にもない。
待ち合わせ場所に着き、辺りを見回す。
すると、聞き慣れた少しハスキーな爽やかな声。
「笠原さん、ここだよ!」
「あ…仲本さん…。」
未だに夢だと疑う自分がいる。
「ごめんなさい、遅れてしまって!」
「何言ってんの?
待ち合わせの10分前じゃん。
俺もさっき来たところだからさ、良かった…笠原さんより前に来て。
男の俺の面目が立たないよ。
あ、その服すごく可愛いね…それにいつもと違って、とっても素敵だよ。」
矢継に褒め言葉が降ってくる。
いいのだろうか、こんなご褒美のようなものを貰って。
そのあと、映画を見て、ウィンドウショッピングをして、気になったものがあれば買ってもらった。
本当の恋人みたいで、浮き足立って顔が緩くなっていくのがわかる。
ベタっぽく、公園の中で売っていたアイスを買って仲本さんの元へ行く。
しかし待っているはずの仲本さんがいない。
キョロキョロと見てみるが、やはりどこにも姿がなかった。
「どこいったんだろ…アイス溶けちゃうな…。
あ、お手洗いかな。
じゃあ近くで待ってみるか。
……ストーカーみたいになってそうだ嫌だなぁ。」
そうして、公園の中にある公衆トイレの前までやってくる。
案の定、仲本さんの声が聞こえてきた。
「あ、やっぱり!
声掛けて待とうかな。」
張り上げようとしたその時、会話が聞こえる。
「急に電話してくんなよ。
…ああ、上手くやってる。
分かってるよ、罰ゲームは罰ゲームだ。
たく、なんで好きでもない女と1日デートしなきゃいけねえんだよ。
あの女がマジになって追っかけてきたらこえーだろうが。
あ?
しくじるかよ、吹いちまうだろうが。
あの女、騙されてんのに嬉しそうな顔してんだよ。
まあちっと気が引けるけど、最後ヤッて終わりだろ、チョロいチョロいww
ぜってえ彼氏出来たことねえって…と、そろそろ戻んねえとやべえ。
あとで結果聞かせてやるから待っとけよ。」
夢だ。
そう思ったのに、足元が落ちる感覚があるのに、ヒールで足の痛さが伝わって来て夢でないことを知らせる。
私はアイスを捨てて駆け出してた。
後から何か聞こえたが、何も聞こえない。
そして、私はコケた。
派手に。
足から赤色の液体が流れ出る。
と、またベタなことに雨が降る。
嘲笑うかのように、轟々と。
ほら、私はやっぱり、ヒロインにはなれない。
〜fin〜