「自分は何のために歌うのか」 

という壁にぶつかり、北海道の女子大を卒業後、実家・帯広の産婦人科医院を手伝いながら過ごしていた。

 そんな時、彼女のもとに、ヤマハポピュラーコンテスト出場の話が舞い込んでくる。


 賞を獲るために出場する、ということに疑問を感じ、拒んでいた彼女に対して、主催者側から返事が届く。
 
 「賞が欲しいのなら出ないで下さい」 

 その返事に納得して彼女は出場を決意する。

 1974年、ヤマハ・グループの総帥でありヤマハポピュラーコンテストの創設者である 川上源一 氏は、全国から寄せられた応募曲1万曲の中から、彼女の詞に着目し、彼女を浜松の自宅へ招いている。


 当時のヤマハポピュラーコンテスト北海道地区のスタッフの一人は、みゆきの歌に対して次のような話をしている。

 「完成度は高かったが曲調が暗く、時代の流行から外れていた。

 僕らはいいとは思わなかったが、川上さんには眼力があった」


 川上氏の死後、みゆきは 

 「私が安心して仕事が出来たのは川上さんの存在が大きい」 

 と語っている。


 今でも彼女のCDのクレジットの最後には 「DAD(父) 川上源一」 と明記されている。
  
 1975年5月18日につま恋で行われた第9回ポピュラーコンテストに出場し 傷ついた翼 で入賞。


 1975年10月12日につま恋で行われた第10回ポピュラーコンテストと、その翌月第6回世界歌謡祭に出場し 時代 を歌い上げ見事グランプリに輝いている。


 そして1975年12月21日 時代 が発売され、中島みゆきの代表する曲のとなっている。


 カップリング曲 傷ついた翼

 オリコン最高位 14位





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中島みゆきのデビュー切っ掛けとなった

第9回ポピュラーコンテスト 傷ついた翼 収録

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中島みゆきのデビューのきっかけは ヤマハ・ポピュラー・コンテスト であるが、デビュー3年前の大学3年生の時、北海道地区代表としてニッポン放送主催の '72全国フォーク音楽祭全国大会 に出場している。
 その時歌った歌が あたし時々おもうの である。


 '72全国フォーク音楽祭全国大会 では、自由曲と課題曲というものがあり、自由曲はそれぞれがオリジナルの歌を歌い、課題曲というのは、時を同じくして、その場で全員に詞が渡される。その詞に即興で曲をつけて発表するものだったらしい。

 その時の課題曲の詞を書いたのは、審査員も務めた詩人の 谷川俊太郎 氏であった。


 谷川俊太郎 氏が '72全国フォーク音楽祭全国大会 に出場した1972年5月28日の中島みゆきの様子を次のように書いている。
 
北海道地区代表・中島美雪…グループで出場した人たちの多かった中で、彼女はたったひとり、野外音楽堂の高いプロセニアム・アーチの下で、とてもほっそりと見えた。


 ちょうどダルシマーみたいに聞こえるコードをギターで4回、そして彼女は歌いだした…、

 <あたし時々おもうの> 

 と…。


 初夏というよりもう夏に近い強い陽射しの中で、樹々の新緑の風が光って、その日はどんな下手な歌にだって心を動かされてしまう、そんな日だった。


 あがっていたのか、それとも本当に心がこもっていたのか、時々不安定になる中島さんの透明な声は、私に何か得体の知れない哀しみを感じさせた。
 それは 

 <いつのまにか いつのまにか 命の終わり> 

 という、若い娘が歌うにしてはいささか早過ぎるようでいて、そのくせ妙にのっぴきならない切実さをもったあの歌詞のせいだったのだろうか…。」

 上記のことを谷川氏が書いたのは、実はこのコンテストの5年後のことである。それだけ中島みゆきの印象が鮮烈に残っていたのかもしれない。

 中島みゆきは あたし時々おもうの で見事 優秀賞 に輝いている。そして プロデビュー の話が持ち上がったが、結局彼女はその話を断って北海道に帰ってしまう。


 当時のことを彼女はある対談で回想し次のように語っている。

「フォーク音楽祭の最終審査は東京であるわけ。

自由曲ってのは、それぞれでやってくるんだけれど、課題曲というのは、時を同じくしてパッと全員に詞が渡される。その詞が谷川さんのだったの。


 で、私としては、当時 

 “コンテストを通ってきたんだ” 

 “私は地区予選を通ってきたのよ” 

 みたいに、わりと天狗になっているわけ。 

 “ナニ、そんなもん” 

 くらいに思ってて 

 “私は人とは違うのよ” 

 くらいに思ってね。


 ところが、その詞をパッと見たらタイトルが 『私の歌う理由(わけ)』 だったの。 

 “やられた!” 

 と思った、あん時。もう脳天ぶったたかれたような気がしたの。
 それまでも谷川さんの詩は読んでいたけど、あらためて読んでみたわけ。

 あれはショックだった。少なくとも、いい気になって舞いあがってたからね。

 そこにガーンでしょ。これは大きいわよ。すごい素朴な詩だったの。」

 このことは、歌を歌う彼女にとって衝撃的な出来事だったのであろう。大学の卒業論文には 谷川俊太郎 のことを書いている。


 彼女はこの時、天狗になっている自分に気付かされ 

 「自分は何のために歌っているのか」 

 という疑問にぶつかったのである。

 そして原点に還るために彼女は北海道でもう一度、自分を見つめ直そうと思ったのであろう。


 この時、谷川俊太郎と中島みゆきが出逢わなければ、今の中島みゆきはいなかったかもしれない。

 そして 

 「自分は何のために歌っているのか」 

 というその思いは中島みゆきの歌の原点となり、今も続いているのだと思う。



「あたし時々おもうの」 詩:中島美雪

あたし時々おもうの
命は いったいどれだけ
どれだけのことを できるものかしら

いつのまにか いつのまにか 命の終り
あたしたちが 若くなくなったとき
あたしたちは まだ
いつか いつかと
声をかけあうことがあるかしら
命は 命は
なんにもしないうちに 終わってしまうから
「若い時」なんて あたしたちにも もうないの

いつのまにか いつのまにか 命の終り
あたしたちが 若くなくなったとき
あたしたちは まだ
いつか いつかと
声をかけあうことがあるかしら
命は 命は
なんにもしないうちに 終わってしまうから
「若い時」なんて あたしたちにも もうないの

若くなくなったあたしたちは
いったい どんな顔をして
行きかえばいいの
いったい どんな顔をして

あたし 時々 おもうの




私の歌う理由(わけ) 詩:谷川俊太郎

わたしが歌うわけは 一匹の仔猫
ずぶぬれで死んでいく 一匹の仔猫

わたしが歌うわけは 一本のケヤキ
根を断たれ枯れてゆく 一本のケヤキ

わたしが歌うわけは 一人の子ども
目をみはり立ちすくむ 一人の子ども

わたしが歌うわけは 一人の男
目を背けうずくまる 一人の男

わたしが歌うわけは 一滴の涙
悔しさと苛立ちの 一滴の涙




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1975年9月25日

 この日 アザミ嬢のララバイ で 中島みゆき はデビューする。


 アマチュアの頃から地元北海道では 「コンサート荒らし」 「コンサートの女王」 という名を頂戴するほど有名な存在だったらしい。地元ラジオ局のディレクターの間でも有名だったそうだ。


 デビューのきっかけとなったのは、1975年5月18日に静岡県掛川市のつま恋エキシビジョンホールで行われた 第9回ポピュラーソングコンテスト に 傷ついた翼 で入賞したことである。


 本当ならば 傷ついた翼 がデビュー曲となるはずだったが、既にオリジナル曲を130曲持っていた彼女は、レコーディングスタジオでそのうちの何曲かを

 「念のため、ちょこっとテープに録ってみましょうか」

 と言われるがままに歌い、その中の アザミ嬢のララバイ がデビュー曲になっていた…というような記事を読んだことがある。

 原曲のタイトルは ララバイ だった。
 もしその時、違う曲が選ばれていたら、それがデビュー曲になっていたかもしれない。


 1972年にデビューする話もあったが、その時その話を彼女は断っている

 その話はまた後日にでも…。


 アザミ嬢のララバイ のレコードジャケットは、アザミの花とその後ろで佇む女性の絵で、中地智のイラストである。


 昔、オールナイトニッポンの放送の中で 

 「デビューが決まり、送られてきたサンプルのレコードジャケットを見たら、自分の写真ではなく絵でガッカリした(笑)」 

 と冗談交じりに話していたことがあった。


 そのレコードジャケットの裏には簡単な中島みゆきのプロフィールが載っている。

 ララバイについて

 「去年の1月頃、不安な状態から逃げたい気持ちで作る
 アザミについて 

 「一見、針に包まれて強そうであるが、実際は、菜の花や桔梗よりももっと弱い花ではないか

というコメントを寄せている。


 彼女が不安な気持ちでこの曲を作った時と同じように、不安の中にいる人達に対する 「子守り歌(ララバイ)」 がこの曲なのであろう。彼女の原点ともいえる曲である。


カップリング曲 さよならさよなら
オリコン最高位 38位




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