イヤミスってあるじゃないですか

この小説はその真逆。

あ、ミステリーじゃないけどね


妙子は39歳のバツイチ

バツイチといっても

シングルになって苦しくても

頑張ってる、とかじゃなく

元華族だか貴族だか、

やんごとなき生まれで、

オートクチュールの店を

経営していて、独身を謳歌している女性

同じような境遇の友達が二人いて、

年増だから年増園とか

仲の良いマスターに言われても

そこに粋を感じちゃうような

定例会を開いている

おしゃれな女性


これ、昭和39年の作品だからね

当時としてはなんていうの?飛んでる女?

最先端を行く女性である。

お金にも困っていないし

かけがえのない友人もいる

義理立てしなきゃいけない集まりなんかはあるものの、

内心見下しながら、うま〜くやってのける

男遊びもしちゃう、しゃら〜っとね。

毎日はつつがなく進む。

だけど、時々砂を噛むような

砂漠を感じるような瞬間があるのだ。


心の砂漠に行き渡る水って、

どこにもないのかな?

そう思うこともしばしば

砂漠は飲み込むしかない

そう思って生きている。


ある日、例の年増園メンバーで

ゲイバーに行ってみることにした

なんでもめちゃくちゃイケメンのバーテン

がいるらしいってことで。


会ってみると、ほほう、噂に違わぬ

イケメン、美男子。

しかもなんか

普通の男の子とは違うのだ、オーラが

雰囲気が、表情が

メッキじゃないようなニヒルさ


妙子は店に通いつめ、デートに誘うことに

成功する。

さて当日、

おしゃれをして待ち合わせの喫茶店に

行ってみても

わざと遅れて行った自分よりも

遅く登場する千吉(これが彼の名前ね)

足元は下駄だし

高級でもない焼き鳥屋に連れて行かれるし

妙子は何度もこれは違う、

私の思う相手じゃない

やめようやめよう、しくじった

って思う。


挙句の果てにはデート中なのに

パチンコをしだして

なかなか店から出てこない千吉。

だけどどうしても

嫌いになれない

自分から次の約束をしてしまう。


2回目のデートでダンスをする。

千吉に抱きしめてもらって

感じたのは

これは砂漠ではない

ということだった。

つつがない毎日の中にある砂漠

空虚

満ち足りないなにか

この人とならそれを感じない

だって本物なんだもん

身体の相性もすごくいい

そうして多めに払ったお金を

千吉は意地でも受け取らなかった


それじゃそのお金であなたの電話番号と 

次の約束を売ってちょうだい

なんてかっこいいことを言って

それから二人はなんとなく

付き合うようになる


千吉は妙子に恋をしてはいない

だけど決して嫌われてはいない

惚れられてる感じはする

二人だけの世界観

二人だけにしか通じない冗談

空気、温度

いつかそれを失うってことは

十分すぎるほど分かっている。

みっともなくすがりつくような

真似もしたくない。


知人には甥っ子だと紹介する

やむを得ずではなく

進んでそうする。能動的に。

もう一度、ちゃんと学生に戻してあげたい

穢れたゲイバーのバーテンダーで

終わらせたくない

まるで子を想うような愛もある。


一緒に暮らそうと提案し

暮らしても束縛なんて絶対にしない

嫉妬と不安でどうにかなりそうに

なりながら

それでも彼自体を愛している妙子

顔が好みとかもう超えちゃって

それはほんとに愛情だった。


それぞれ別の恋人を持ちましょう

とも提案する。

そしてお互い紹介し合おうって。

その日を楽しみにしたりする。

まるで『エンディングノート』みたいだね

突然やってくる死なんて怖いもんね

書いておけば安心、きっと

終焉がいつかなんて知らないけど

けどだけど、永遠なんてないんだから

私は分かってるんだから

それならせめて私色に。



まるで自分でプロデュースする葬儀みたいに

終焉を何か別の輝きや悪ふざけや

剥製を制作するかのように

演出しようと思ったのかもしれない

そうでもしないとやり切れない

のかもしれない

それはまるで麻酔のような効果をもたらし

自分から言い出してその気もないのに

相手の押し切りで別の恋人もできる。




結局、千吉は妙子の顧客の娘と

結婚したいと思うんだけど

その子に恋をしているわけじゃない

名家の暮らしに憧れているだけだ

というのが

妙子にもはっきりわかる。


その娘の母である、自分の店の顧客は

千吉が自分の過去を洗いざらい

話したと、妙子に告げる

洗いざらいというのは嘘だ

妙子との関係は話したけど

お金さえくれれば男性にだって

気軽に身を売ってきたことや

ゲイバーに勤めていたことは秘密にしている


結局、単なる甘ちゃんの若者だった

というのがラストではっきりとわかる。

妙子はその秘密を婚家に伝える証拠写真も

手に入れたけど、

目の前で千吉自らネガまで焼かせ

きっぱりとした態度で千吉を捨てる

そうして自分の養子にしてあげる

と約束する。

千吉が華族の出として結婚するために

婚家側から提示された

条件を呑んであげるのだ。


千吉は喜んで

愛してると抱きついてくる

ずっと愛してたんだ

妙子はサラッと身をかわし

お別れのキスだけはさせてあげる

但し、ドアは開けたままね

とかっこよく切り離す。


そうして最後

やっぱり女同士がサイコー

とばかりに、遊園地で遊ぶのだ

何もかも乗り越えて


もうそこに砂漠はないだろう


という、双方ハッピーエンドなんだけど。


うーーーん

読後感が良すぎて嫌い

私は、嫌われ松子の一生が好きだなあ


純な気持ちすぎて、

相手に恐れられ捨てられちゃう松子は

ずうっと私の中で生きている。


南くんの恋人のちなみとか、

銀河鉄道999のメーテルとか、

読者が、忘れたくても忘れられないような

心に染みができるような話が好き。


そういう意味でいったら

照子というゲイボーイ

(って書いてあるんだもん)は

辛くて哀しくて好き。

彼(彼女?)も昔、

千吉と一夜を過ごしたのだろう。

後になって

「誰とでも寝るんですよ、あの子」

と言った中に、照子自身も含まれるのだ

ということが想像できる。

好きで好きで仕方なかった時期があった

と告白したから。

この人は妙子の味方になっていて

真心のあるいい人なんだけど

きっと、スイスイ生きられないだろう

これからも。

千吉の証拠写真を

あの人を苦しめるためならタダであげる

けど、仏心を出してネガごと焼き捨てる

つもりなら、50万で売ってあげる

と言う。

妙子は正直に、私は千吉を救うと思う

と話す。

私も甘いわよね、って。


その一言を聞いて

照子は

「嘘よ、50万貰うなんて。タダであげるわ」

と言う。

二人共、千吉を好きな気持ちを

痛いほど共有できるのだ。

届きそうで決して届かない 

星空みたいな輝き。


何かの時に使おうと思った切り札を

妙子のためなら、と捧げたのだ。


悪党になれない哀しい照子は好き。



でも実際体験するなら絶対妙子がいいな。

妙子みたいに

そんなこんなもあって、

酸いも甘いも噛み分けた

美しい蝶になったけど何か?

みたいに、楽しく暮らしたい。


薄っぺらな感想でごめん