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2024年6月24日読了


内容

認知症を患うカケイは、「みっちゃん」たちから介護を受けて暮らしてきた。

ある時、病院の帰りに「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」と、

みっちゃんの一人から尋ねられ、カケイは来し方を語り始める。
父から殴られ続け、カケイを産んですぐに死んだ母。

お女郎だった継母からは毎日毎日薪で殴られた。兄の勧めで所帯を持つも、

息子の健一郎が生まれてすぐに亭主は蒸発。

カケイと健一郎、亭主の連れ子だったみのるは置き去りに。

やがて、生活のために必死にミシンを踏み続けるカケイの腹が、だんだん膨らみだす。
そして、ある夜明け。カケイは便所で女の赤ん坊を産み落とす。

その子、みっちゃんと過ごす日々は、しあわせそのものだった。それなのに――。
暴力と愛情、幸福と絶望、諦念と悔悟……絡まりあう記憶の中から語られる、凄絶な「女の一生」。

第45回すばる文学賞受賞作

 

認知症を患っている独り暮らしのカケイは、介護士のみっちゃんから介護を

受けて暮らしている。

このみっちゃんからある時「今までの人生を振り返って幸せでしたか?」

と尋ねられ、カケイの視点で生涯を描いた物語。

 

主人公のカケイさんの文体が認知症を患っているということもあり、

文体が独特なので慣れるまで少し違和感がありましたが、

途中からはこの文体がより自分の口から話しているようで

人間味がよく伝わって味わい深かったです。

 

このカケイさんが語るものはとても残酷て壮絶な人生

だったことばかりが出てきて、重たい気持ちになりました。

けれどそれにめげることなく必死で生きて、

今も不自由な身体になりならがも一日を大切に

生きている姿に胸を打ちました。

 

今はあまり聞くことがないですが、

幼い頃に私もカケイさんのようにお天道様は見ているから

陰ひなたなく生きていくようにと教えられました。

きっとカケイさんもこの教えを守っていきてきたから

こんなに頑張ってこれたのだなとも思いました。

 

カケイさんの中では幾つものみっちゃんが登場し、

そのたびに初めはどのっみっちゃんなのだろうかと思いましたが、

これが認知症の感覚とはこんな感じなのかなと思うと

胸のつまる思いになりました。

けれど最後まで忘れることのないみっちゃんをを思いながら

幸せな時があったと言えるものがあっただけでもと

思うと少し救われた気持ちになりました。

 

年齢を重ねてくるとこのような事柄は他人事とは思えなくなり、

意識しなくても意識してしまうので、

この作品は読めば読むほど深く感じるものという印象でした。

人生の最後にカケイさんのように思えることが出来るのだろうか、

と思うと同時に小さな幸せを探しながら生きていくことを

大事にしたいと思えた作品でした。

 

すばる文学賞受賞作品として納得のいく作品でした。