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2024年6月12日読了

 

内容

棋士を目指して13歳で奨励会に入会した岩城啓一だったが、

20歳をとうに過ぎた現在もプロ入りを果たせずにいた。

9期目となった三段リーグ最終日前日の夕刻、翌日対局する村尾が突然訪ねてくる。

今期が昇段のラストチャンスとなった村尾が啓一に告げたのは……。

夢を追うことの恍惚と苦悩、誰とも分かち合えない孤独を深く刻むミステリ5編。

 

弱い者

神の悪手

ミイラ

盤上の糸

恩返し 5編収録

 

将棋をテーマにした短編集だったので、

将棋の細かいルールなどはあまり知らなかったので

その部分は分からなかったですが、それを除いても十分に楽しめた作品でした。

 

「弱い者」では棋士が避難所であった才能ある少年が抱えた悩みを

将棋の指し手から読み取るというミステリー。

こんな将棋の読み手をするなんて考えもしなかった展開に驚かされました。

それと同時にこの少年の悩みを少しでも拭い去ってあげたいと思いました。

 

「神の悪手」では奨励会の先輩をうっかりしたことから殺めてしまい、

それを自分の人生を懸けた将棋によって罪をミステリー。

些細な事で将棋人生を棒に振ってしまうなんて・・・と思ってしまいました。

 

「ミイラ」では詰将棋で今まで生きてきた世界のルールから放ち、

知らない世界のルールへと飛び出すという少年の話ですが、

この世界がまた将棋上へと行われるのが見事でした。

 

「盤上の糸」では将棋の二人の対局を盤上だけで味わせる話でしたが、

目の前で対局をしているかのようなリアルな緊迫感や心理描写

などが臨場感があって良かったです。

人との対局とは思えず違う生き物のように感じられました。

 

「恩返し」では将棋の駒を作る駒師が主役となり、

ベテラン棋士が選んだ駒によって駒師の人生ドラマが描かれたもの。

駒師という仕事はを初めて知り、興味深かったです。

気に入った作品は「盤上の糸」と「恩返し」でした。

 

どの作品も盤上になることが多いですが、

対局ではその一瞬でその後の人生までも変えてしまうほどの

緊迫感のある戦いであるということがよく伝わって、

それが将棋の駒のように緻密に描かれていたのがミステリーと

人間性が出ていて楽しめたかと思います。

将棋をテーマにしたミステリーというのは今までに読んだことが

無かったので印象的な一冊でした。