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2024年5月30日読了

 

内容

二十五年前に家族を捨てて出ていった父親が突然戻ってきた。

妻と娘夫婦が経営する八ヶ岳の麓の園芸店へ。
二十歳下のイタリア人女性と恋仲になり一緒に暮らしていたが、

彼女が一人で帰国してしまったというのだ。
しかし娘たちはとっくに大人になり、妻にはすでに恋人がいた。
次女の遥は叫ぶ。「許さないから。絶対に。出てってよ。早く出てって!」
長女の真希は苛立つ。「大恋愛して出ていったのなら、二度と戻ってこないのが筋ではないのか」
妻の恋人・蓬田は夜ごと彼女からの電話を待つ。「俺はまるで女子高生みたいだな」
そして妻の歌子は思い出す。夫との出会いの場所に咲き乱れていた花のことを。
家族とは。夫婦とは。七人の男女の目線から愛を問い直す意欲作。

 

二十五年前に二十歳下のイタリア女性と恋仲になった父親が突然家に戻ってきた。

長野県を舞台に父親の行動に家族の右往左往を描いた物語。

 

井上さんの作品は「あちらにいる鬼」を読んでインパクトがあったので、

この作品を手に取りましたが、今回はそれに比べると少しインパクトが弱く

登場してくる人達が中途半端だったので全体的に

モヤモヤと不完全なまま終わってしまいました。

一番賢かったのはイタリア人女性の勢いある行動力でした。

この中では一番若い年代だったこともあったり、

お国柄もあったのかなとも思ってしまいました。

 

不倫をしていた夫が突然家に戻って来るだけでも、

家で待っていた家族としてはどう対処して良いのだろうと考えてしまうので、

一波乱、二波乱あっても良さそうでしたが、そんなこともなく、

妻は他の男性と新しい人生を考えていたり、長女夫婦の夫は謎の行動をしたり、

次女は不倫をしたりと、家族全体がバラバラの生活をしているようで

何だか空虚感のようなものを感じました。

特に次女の不倫相手の行動が自分本位すぎて嫌悪感を持ちました。

こんな状況であっても家族という形は保っているので、

家族とはいったい何なんだろうと疑問抱きました。

 

こんな複雑な気持ちが起こる一方ですが、

このような生活を実体験している著者にしてみれば、

日常的な風景であったと思うので何か思うでもなく、

何か慌てて行動するでもなく平静に受け止めて日々を送っていたのかと

思うとこの作品のような日常になるのかなとも想像しました。

 

夫婦だからこそ他人には絶対に分からない結びつきがあったり、

家族だからこそ見えない深い繋がりもあるのかと思いました。

「結局のところ愛したり恋をしたりするという行為は、

 一種の病気かもしれない。

 それが本当の愛だったとか偽物の恋だったとか、

 そんなことはそれが終わってからしか言えないことなのかもしれない。」

というのが印象的でこの事に尽きるのかなとも思いました。

 

百合中毒だけでなく、美しい花にも毒があるので、

美しいものには毒あるという忠告のような意味もある

作品であると思ってしまいました。