2024年4月27日読了

 

内容

維新の10年前に茨城・笠間で生を受けたひとりの女性が、
15歳で故郷を飛び出した。
「絵師になりたい」情熱の人・山下りんは東京で
工部美術学校に入学を果たし、
西洋画の道を究めようと決意する。
ロシア正教の宣教師ニコライに導かれ、
明治13年、聖像画制作を学ぶため帝都ロシアに渡るのだが
女子修道院でも周囲と衝突を繰り返し、もがき苦しむ。

 

明治時代に茨城県笠間で生まれて一人の女性が15歳で故郷を飛び出し、

日本初の宗教画家になった山下りんの生涯を描いた小説。

 

明治維新になる前の江戸時代の終わり頃という古き時代に

女性で絵を描くことが好きで、絵師になりたいという志を

一心に背負い上京をし、その後美術学校に入学してから西洋画を

極めようとロシア正教へと導かれ、自分のしたいことに

迷うことなく進んでいく姿は感嘆するばかりでした。

近年になってやっと男女平等の社会になりつつある現代であっても、

ここまで自分の意思と熱意で成し遂げるにしても相当の努力が

あると思いますが、この時代では想像をつかない程の努力と忍耐力が

あってここまで出来たのかと思わされました。

 

それだけでなく、時代の流れが明治維新から大正という

近代歴史に沿って生きてきた方なので、その歴史の流れにも

翻弄されながら自分の絵師に対する情熱も冷めることなく

続いていったのが素晴らしいと思いました。

恥ずかしながらこんな芯が強く素晴らしい方が

いたというのを知らなかったので、この作品で知ることが出来て良かったです。

 

好きな絵師になるという所から西洋画を学ぶにあたって

ふとした所からロシア正教を触れることになり、

それから今まで未知の世界だった宗教を学ぶことになり、

そしてロシア語まで学ぶこととなりどんどんと世界が広がり、

その一方で様々葛藤しながらも涙ぐましい壁を乗り越えながら

生きていく姿は本当に立派としか思えませんでした。

 

歳を重ねて見えない眼になってしまっても、

絵具を使わずに宙に向かって指を動かし続ける。

描くことは祈りそのものだ。そして祈りは自らのためではなく、

他者に捧げるものだろう。

という節では心震えるものがあり、心の底から絵師になった

喜びや信じる心や宗教の教えなどが降り注いだものだと思いました。

 

山下さんは沢山の聖像画を描いてきましたが、

残念ながら歴史の狭間で焼失してしまったものが

多くなってしまいましたが、それでも日本の各地の教会や

信徒の家の隅でまだ掲げられて嘆きや祈りなどが

されていると思うと心が満たされるというのも素晴らしい

心の持ち主だと思いました。

 

時代背景や社会情勢、ニコライ堂、ロシア正教などと日本とロシアとの

当時の関係なども細かく描かれているので、今まであまり知らなかったことが

学べることができとても興味深く読むことが出来ました。

 

これだけ素晴らしい方だったので

山下りんさんの描いたイコン画が何処かで見れることが

あったら一枚でも良いので見てみたいと思いました。