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2024年3月18日読了

 

内容

慌ただしい日常に一日一編、極上の物語を――。
稀代のダンサーが見せる舞踏の無上の美しさと、孤独な魂。

一人の青年に瞬時に恋した胸の高鳴り、そして儚さ。
定年退職し、故郷の町に戻ってきた男が迎える新たな人生。

深夜のタクシー乗り場で居合わせた老人が繰り出す奇妙な話……。
NHK WORLD-JAPANのラジオ番組で、

世界各国の言語に翻訳して朗読された日本の小説から、色とりどりの8作を収録。

名だたる作家の短編を堪能できる、シリーズ第四弾!


出発 石田衣良

私と踊って 恩田陸

アイスクリーム熱 川上未映子

給水塔と亀 津村記久子

愛してた 松田青子

決して見えない 宮部みゆき

太陽 森絵都

父の背中で見た花火 森浩美

 

第一弾、第二弾、第三弾を読んで良かったので

引き続き第四弾も手に取りました。

 

短編の中でもかなり短いページの中にもかかわらず、

今回は「ときめき」がテーマとなって様々なときめきで

心に打たれ、和まされてあっという間に読んでしまいました。

 

どの作品も良かったですが、

印象的で好きな作品は石田衣良さんの「出発」、

川上未映子さんの「アイスクリーム熱」、宮部みゆきさんの「決して見えない」、

森絵都さんの「太陽」、森浩美さんの「背中で見た花火」でした。

特にこの中で異質だったのが宮部さんの作品でしたが、

深夜タクシーで乗り合わせた老人の奇妙な話が

とても不気味でゾクゾクとしたサスペンスミステリーで

一際目立っていた存在でした。

 

石田さんの「出発」では定年退職をしていた男性が

これからの人生を息子の再就職をきっかけに

自らも人生の最出発していく物語でした。

どんな景気の波であっても過ぎ去っていけた。

そしてどんな波でもいつかは過ぎ去っていった。

普通の人間は波の面に顔を出し、ただ息をして凌げば良いのだ。

きっとこの波も越えられる。というくだりが背中を押されるようで

読了後感が良かったです。

 

川上さんの「アイスクリーム熱」はアイスクリーム屋で働いていた

女性はアイスクリームが好きだと思っていたことと、

自分に好意を持たれていたと思っていたことが

仕事を辞めてみたらそうでもない展開となっていく

様子が短いページでさくっとまとまっているのが面白かったです。

 

森絵都さんの「太陽」は歯が痛いと思って歯科に行って診てもらったら、

「代替ペイン」と診断された女性の物語。

病は気からとはよく言ったもので、

それに近いような方法で歯の痛みを取り除いていくのが

とても興味深かったです。

まずは真なる痛みの正体を見極め、直視することとなり、

そして本来の心の痛みを取り除くことをすることによって

痛みが消えていくのがこんな風に分かりやすく描かれて

いるので何科の時に役立ちそうだと思いました。

歯科なのに内服薬の中にラムネが入っていたというのも

この先生からの優しさが入っているのも心温まり

微笑ましかったです。

 

森浩美さんの「父の背中で見た花火」は離婚をした女性と

その父親との交流が描かれています。

離婚をして仕事に励んでいた女性は娘を両親の所へ預け、

その間に父親としては孫に対しての不憫さを感じ、

娘へ助言をします。その助言も自分の経験を踏まえてから

伝えているので心に響くものものありますが、

それよりも子供の頃に甘えられなかった娘の本音が

背中の花火越しに伝えていた所が心にぐっときました。

こうゆう気持ちは大人になったら一度くらいは

経験されると思うので共感する方も多いかと思います。

映画のワンシーンみたいで印象深かったです。

 

初見の作家さんもありましたが、

殆どが有名で一線で活躍されている作家さんの短編なので、

どの作品を取っても心にキラリときめくものがあります。

読みやすくて良い作品ばかりなので、

また再読したいと思うので手元に置いておきたい一冊になりそうです。