2024年1月28日読了

 

内容

あの夏、私たちは「家族」だった――。 息子を事故で亡くした絵本作家の千紗子。

長年、父・孝蔵とは絶縁状態にあったが、認知症を発症したため、

田舎に戻って介護をすることに。

父との葛藤と息子の死に対する自責の念にとらわれる千紗子は、

事故によって記憶を失った少年の身体に虐待の跡を見つけ、

自分の子供として育てることを決意する。

「嘘」から始まった暮らしではあるものの、少年と千紗子、孝蔵の三人は、

幸せなひとときを過ごす。しかし、徐々に破局の足音が近づいてきて……。

切なさが弾ける衝撃の結末――気鋭のミステリ作家が描く、感動の家族小説。

 

息子を事故で亡くした絵本作家の千紗子。

認知症になった父の介護をするために故郷に帰る。

そこへ事故によって記憶を失った少年と出会ったことから

千紗子の生活はがらりと大きく変わる。

これだけの内容だけでも物語の展開を想像するだけで

大きく膨らんでいき、読み進めていくとその期待よりも

遥かに展開が大きくなっていき、ただのミステリー小説だけの

域ではなく心を揺さぶられてしまい一気に読んでしまいました。

 

主人公の千紗子の息子の死、離婚、そして記憶を失った少年の虐待やいじめ、

そして父の介護の現実、確執と葛藤などとそれぞれの苦悩を抱えながら、

それでも懸命に現在と過去を見つめながら、大切な人たちと笑顔を

作り出しながら日々生きているのがいじらしくもあり、

強さも感じられました。

 

嘘をつくと言うのはいけないことだと十分に分かりますが、

この作品を読むと嘘から生まれた優しい嘘ならば

ついて良いのかなとも思えました。

嘘から始まった少年との親子関係ですが、

お互いにかけがえのない存在と分かり、お互いを必要としながら

生きていけるということは、結局のところ家族という形や

血の繋がりというのは一体何だだろうと考えさせられました。

 

父の友人の亀田が常にこの家族を見守り続け、

千紗子が罪を償った後までも温かく支えていた存在感が

とても光っていて良かったです。

人生の中でこんなに人に寄り添える人物がいるかと思うと

どんなに心強いかと思うと共に亀田のような人間になれるように

努力しなければいけないとも思いました。

 

怒涛の流れで最終章に入っていき、

そして少年が最後に発した嘘のインパクトで更に驚き、

この物語のインパクトが強調されて良かったと思います。

 

千紗子のしてはいけないと分かりながらも

亡くなった息子の代わりに一緒に暮らしていこうと思う心境。

善と悪を苦悩している光景は心揺さぶれるものが大きかったですが、

認知症になった父の心の変化のや状況が詳細に描かれ、

それを綴っていたノートを読み返すシーンは心が震え、

涙を止めるのに必死でした。

 

北國さんの作品はこの本が初めてで、

映画「かくしごと」2024年公開予定ということで

手に取りましたが、丁寧な描写で読みやすく、

特に田舎の情景描写が美しく、人物像も人の温もりを感じられたり、

息遣いを感じられる描写で良かったです。

ミステリー小説とはいえ、家族の絆を中心に描いていたので、

余計に人間味のある描写が詳細に描かれていたのが印象的でした。

この作品をきっかけに他の作品も読んでみたいと思いました。

 

映画も機会があったら是非観てみたいです。