2023年11月5日読了

 

内容

この傷痕にかけて、俺が一生護る。

あの夜、誓いを立てた幼なじみは、時を経て謎多き美女へと羽化して現われた。

特捜部検事となった淳平と、疑惑の政治家の私設秘書を務める優衣。

追い追われる立場に置かれつつも、愛欲に溺れゆくふたり。

だがある日を境に、淳平に暗い疑念が膨らんでいく。

優衣、おまえは本当は誰なんだ?阪神淡路大震災と東日本大震災。

ふたつの悲劇に翻弄された孤児の命運を描く、究極の恋愛サスペンス! 

 

中山さんの作品は何冊か読んでいますが、

社会問題をテーマにした作品を中心に読んでいたので、

今回は恋愛サスペンスだったので今まで読んだものと

少し変わった印象を持ちました。

 

幼馴染の美人の双子、優衣と麻衣と仲の良かった淳平。

阪神淡路大震災を境として両親や兄弟を亡くした彼らは離れ離れとなる。

その十五年後、特捜検事となった淳平は優衣と再会をするが、

政治家秘書となった彼女は幾多の疑惑に翻弄される。

過去を遡ることにより悲しい真実が明らかになるという恋愛サバイバルサスペンス。

 

美人の双子の見分けを出来るのが淳平だったというくらいに

幼馴染で仲が良かったことが伺われ、

思春期になれば自然と恋心が芽生えてしまうという恋愛小説では

王道な展開です。

そして十五年後に再会することとなったけれど、

今までとは違った優衣と出会い戸惑う淳平。

それでも心の中ではいつまでも幼い頃の思い出と恋心が根付いて

いる所がなんとも微笑ましくもよくありがちなタイプの男性でした。

 

けれど特捜という仕事柄潜入捜査も免れない心、

その一方で私的な心が混在として、翻弄されている淳平が

手に取るように見えてハラハラ感がありました。

それよりもかなり驚いたのがいわゆる濡れ場の描写が

かなりきわどくて淫靡でちょっと読んでいるのが恥ずかしく

なってくるような描写でした。

今まで読んだ著者の作品の中でこのような描写があまり無かったので、

これも文才なのかなと思ってしまいました。

 

そして政治家の裏の顔を暴くために国内を舞台にしていたところが、

アルジェリアへと移りここからが物語が急展開となり

ページを捲る手が止まらなくなり一気に読んでしまいました。

テロリストのシーンではあまりにも残酷な描写だったので

ちょっと読むのが苦痛でしたが、

そこから二人の真実が明らかとなり、

そして悲しいラストになってしまい壮大なスケール感でした。

 

異次元どんでん返しと本の帯では書かれていますが、

どんでん返しではないですが、かなりの衝撃はありました。

淳平は全ての真実を遠い国で言い渡されて、

例えそれが贖罪だと決めてもそれを背負いながら

今後の人生を歩んでいくというとなると茨の道に

なってはならないだろうかと思ってしまいました。

 

スティグマというのを知らなかったので、

水江朗さんの解説を読むと細かく重要なことが

書かれていたので分かりやすかったです。

優衣の額の傷跡と淳平の心の傷跡、

これが永遠に繋がっていて欲しいと思ってしまいました。

 

阪神淡路大震災、東日本大震災そしてテロ、

そして政治問題、社会情勢、社会背景を交えながら

恋愛を織り交ぜていくというかなりの問題点を

盛り込みながら展開していくので読み応えがありました。

ただサスペンス感というのは少ないかもしれないですが、

物語の展開としては楽しめました。

これだけの要素を一つの中で展開していくなんて、

やっぱり凄い作家だなと思いました。