2021年1月19日読了
内容
平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷つけたくない夫。
元不倫相手を見返したい料理研究家…始まりは、ささやかな秘密。
気付かぬうちにじわりじわりと「お金」の魔の手はやってきて、
見逃したはずの小さな綻びは、彼ら自身を絡め取り、蝕んでいく。
取り扱い注意!研ぎ澄まされたミステリ5篇。
ただ、運が悪かっただけ
埋め合わせ
忘却
お蔵入り
ミモザ
芦沢さんの作品と言えばイヤミスが多いですが、
今回はイヤミスというというよりも日常のちょっとした事から
徐々に深みに嵌っていくいうじわじわとした怖さが忍び寄ってくる
という印象を持ちました。
ただ、運が悪かっただけ
冒頭を読んでいるとミステリーとは思わない文章だったので
ここからどんなミステリーが始まるのかと思ってしまいました。
老い先が短い妻を持つ夫の拭い去れない過去を話したことから
長年抱えていた問題が明かされていくように思えましたが・・・
夫の長年の悩みを身体の自由が利かない妻が少しでも
夫の心の重荷を拭い去ろうとする光景は少し涙をそそります。
肝腎な問題は最後まで分からずじまいですが、
良い方向に考えてあげれば妻のためにはなるのかと思ってしまいました。
埋め合わせ
プールの栓を閉め忘れてしまい膨大な水を流してしまった
学校の教師。自分のせいにならないようにと色々と繕ったり、
嘘をついたりとあくせくとして、やればやるほど深みに
嵌っていくのが思わず笑えてしまいました。
こんな事だったならば最初から素直に話してしまえば良いのにと
思ってしまいますが、そこが人間の本性でこんな心が
芽生えてしまうのでしょうね。
やっと心を許せる教師にフォローをしてもらったのに、
意外なラストで大どんでん返しでとても印象のある作品で楽しめました。
忘却
熱中症で孤独死をした隣の部屋に住んでいた老人。
この隣に住んでいた老夫婦のある出来事から
この老人の意外な一面が判明してしまうというミステリー。
ミステリーというよりもこの老人がしてはいけないことを
していたのでこんな結果になってしまったのですが。
実際にこんな人がいるかと思うと少し怖いです。
いつの間にか電気料金が安くなっていたら電気の
点検をしてもらうのも必要かと思ってしまいました。
意外な観点からのラストでしっくりとしました。
お蔵入り
これは昨今の芸能界によくある光景だったので
途中まではあまり驚かずに読んでいましたが、
後半はとんでもない女の子の思いから映画の公開が
中止になれば良いとかになったりして。
もしかしたら本当にこんなこともあるのかなと思いながら
読んでしまいました。
薬物か映画の公開か、それとも・・・
ミモザ
元不倫関係だった男を見返すために料理研究家になった女性。
もう二度とこの男の前には行かないと思っていたのに、
ふとした所で再会。
偶然を装っていた再会からその後も偶然ではなく、
もはや計画的だったとは思わざるおえない状況に
後からぞっとしました。
良い出会いをして良い再会をしてれば丸く収まりますが、
こんな男性に遭遇してしまったら何処までも着いて
きそうで一歩間違えればストーカーになるのではないかと
思ってしまいます。
それよりもラストの状況に夫は気が付いたのかどうか
それも気になる余韻です。
こちらも印象のある作品でした。
どの作品にもそれぞれ味わいのあって、
インパクトの強い作品が多かったと思います。
本を読んでいてもこれだけぞくぞくとするので、
これを映像化したらとても面白いなと想像してしまいました。
短編集でこれだけミステリーとしての面白さが
十分に味わえたので満足した一冊でした。
直木賞ノミネート作品ということで手に取りましたが、
それだけでなく十分にインパクトのある作品だと思うので、
これからの作品も期待したいと思います。
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