『ナイトメア・アリー』
2021/監督:ギレルモ・デル・トロ








1946年に出版された名作ノワール小説「ナイトメア・アリー 悪夢小路」を原作に、野心溢れ、ショービジネス界で成功した男が、自身の欲深い選択によって、人生が狂わされていく様を描く。

(ノワール作品:虚無的、退廃的、悲観的なテイストで描かれる犯罪作品・異常心理作品)


訳ありな青年スタンは、当てもなく行き着いた先の、人間か獣か正体不明の獣人(ギーク)を見せ物とする怪しげなカーニバルの一座に出会い、一員となる。
そこで読心術の技を学んだスタンは、人を惹きつける天性の魅力とカリスマ性を武器に、トップの興行師となる。
カーニバルで出会った美しい女性モリーと、2人でのショーと生活を始めるも、魅惑的な心理博士リリスと出会い、そしてその出会いがスタンの人生を狂わせていく…


ギレルモ監督としては珍しい、クリーチャーの出てこない映画。
でも、人間の罪深く欲深く、どこまでも暗くおどろおどろしい部分は、クリーチャーよりも恐ろしいかもしれない。
映画全体を包む、ビロードのような深く重厚な色彩感は、ギレルモ監督ならではの美しさ。
本当に、ギレルモ監督の撮る映画は、色味が最高に美しいんです。
カーニバルの様子や、様々な場面の室内セット、装飾、置き物…ギレルモ監督らしさが随所に出ていて、観ていてとても楽しかったおねがい
(リリスの書斎とか、かなりギレルモ監督っぽくて好き。)
個人的には、ギレルモ監督の作品「ヘルボーイ」で、ヘルボーイ役をしていたロン・パールマンが、ちょい役で出演していたのが、なんだか嬉しかったおねがい

映画の話としては、欲をかき、その欲に飲み込まれ堕落して行く、ラストも決して救いのないノワール作品だし、気分が暗い時には観ない方が賢明かもしれない。
ただただ堕落し狂って行くブラッドリー・クーパーをひたすら眺める作品である。
当初、映画の主役はレオナルド・ディカプリオにオファーが掛かっていたそうだが、絶対的にブラッドリー・クーパーがこの映画には合っている。
内に秘めた野心や欲望、飄々とポーカーフェイスだが結構な罪を重ねているところ、アウトローっぽい血生臭さ…ブラッドリーだからこそ出せた味だと思う。


酒乱であった父、母から愛情を貰えなかった幼年期…
スタンの人生に暗い影を落とす幼年期は、その後の彼の人生を狂わせて行く。
愛する女性に母の愛を重ね、何でも許して欲しいと言う稚拙な傲慢さ。
父親のようになるまいと、“絶対に”飲まないと誓っていた酒に手を出してしまった瞬間。
上手くいく、大丈夫、もう少し…と引き際を見誤ったことによる堕落。
堕落、堕落…人の心に艶めく悪、幻想的に描かれる狂気。
そして全ては因果応報、必ず自らの身に跳ね返ってくる。
ラストはハッとさせられる、息を呑むシーンだった。

今目の前にある幸せに満足せず、欲を満たすために貪り、また渇き、また貪る。
貪欲、強欲、その先にあるのは、“ナイトメア・アリー(悪夢の小路)”ではなく、命尽きても抜け出すことの出来ない“ナイトメア・ラビリンス(悪夢の迷宮)”かもしれない…👿