『ドント・ウォーリー』
2018/監督:ガス・ヴァン・サント




今回は、映画ポスターではなく、ジョン・キャラハンの風刺漫画を猫バージョンで描いてみました。




ポートランドの街を、オレンジの髪をなびかせ猛スピードで車椅子を走らせていた、実在の風刺漫画家ジョン・キャラハンの自伝を映画化。

2014年に他界した名優ロビン・ウィリアムズが、生前に映画化を熱望していたキャラハンの自伝を、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で仕事を共にした監督ガス・ヴァン・サントが脚本を書き、企画から20年を経てついに映画化。

ロビン・ウィリアムズの心を継ぎ、膨大なリサーチを重ね、キャラハンの仕草から話し方までを体得し演じ切ったのはホアキン・フェニックス。


アルコールに依存する日々を過ごしていたジョン・キャラハンは、自動車事故に遭い一命を取り留めたが、胸から下が麻痺し、車椅子生活を余儀なくされる。

絶望と苛立ちの中、益々酒に溺れ周囲とぶつかる自暴自棄な日々だが、断酒と過去からの解放のため、自分を憐れむことを止め変わろうと決意をする。

そして、持ち前の辛辣なユーモアを発揮し不自由な手で風刺漫画を描き始める。



最初、3つの時間軸の場面での語りから始まる本作。
途中でも、わりと時間軸が変わって行くので、少し脳内で整理しながら観る感覚。
でも、ゆったりと丁寧に描かれているので、置いてけぼりになることは無いと思う。
本当に丁寧に丁寧に、描かれている。

ひねくれてしまっても当たり前のような半生を生きてきたジョン。
13歳からアルコールを飲み始め、依存症になり、それが原因で身体障害者となってしまう…
自身を保つためにアルコールが必要だった。
でも、このままではダメだと、断酒のコミュニティのようなものに参加する。
このコミュニティでは12のステップで依存症から脱却していくのだが、“本を読む”というステップで『老子』の本が読まれている。
まず、『老子』の説く「道」。人智の及ばない宇宙の原理としての「道」。
映画の中でも、見えざるものを信じ、それに託すこと、委ねることから始まる。
そして「無為自然」。欲や感情を手放し、作為のない、自然のままで生きること。
「上善は水の如し」。水のように柔軟に、一番低いところに身を置き、人々に益を与える。
そのような『老子』の思想が至る所に散りばめられ、それを腹落ちさせていく事で、ジョンは自分の人生を切り開いていく。
また、「許し」も大きなテーマとなっていて、
荒れ狂う怒りや苛立ちを撒き散らすジョンに対し、相手を「許す」こと、そして相手にした自分の行いを「謝る」ことを実践させる。
そして、そんな自分も「許す」こと。
被害者意識で他責をしてきた自分や、自分は愛されないと自分自身で追い詰め傷つけてきた自分を、心から「許す」こと。
自分自身を「許す」ことが、きっと一番難しいけれど、「許す」ことが出来ると見える世界がガラリと変わる。
少し『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の主人公と重なる部分があった。

見えざる万物の力があり、自身もその宇宙の一部であること。
そして、あるがままを受け止め、決して驕らず憐れまず、柔軟に高い視点から人生を見渡す。
相手も自分も「許す」。そして「感謝」する。
そこから、自身がこの世界に何を還元していけるのか、出来ることは何なのかを見つけていく…
とても深い、深淵の優しい穏やかな教えが、ジョンの人生と共に描かれていると感じた。


「弱い人間こそ、強い人間になれる。」コミュニティを取り仕切るドニーの言葉。
たくさんの傷つきを体験してきたものだからこそ、人の弱さも悲しみも、分かってあげられる強い人になる。
そして悲しみや不条理を経験してきたジョンだからこそ、描くことが出来た辛辣なユーモアがある。
生きる希望の焔を心に燃やし続ける限り、どんなに体が不自由でも、心は自由で居られる。
そして、それを世界に発信していける…
心に寄り添う、とても優しく力強い映画🎞️
『老子』のことを、すこーしでも知っていると、さらにわかりやすく染み込みやすい映画かなと思いました照れ
どんどん表情が明るく穏やかに変わっていくホアキン・フェニックスの演技にも心を打たれる、
ホアキンファン必見の作品です✨