壁の門衛は告げた

「影を身につけたままでは」

「この街に入ることはできない」

「太陽が当たった時にできる自分の影ですか」
 
「そうだ」
 

私は影を渡してこの街に入った

 

 

ーーー

 

いつだったか

 

小さなギャラリーで○○先生(画伯)個展

 

何度かお会いして、お互いに顔見知り

 

自分より20歳若く、気さくな「現代アート」先生

 

今回も自分に、「絵を描きませんか」と言う

 

「いや絵の才能はないです」と、辞退する

 

「今朝出かけて描いたのを見てください」と、先生

 

外に出て行き、車から持って来た

 

まだ乾いていない、2号のキャンバス4枚

 

全部に、大きな筆で「マル」3つとシャラシャラ

 

まるで、「アンパンマン」か「団子3兄妹」

 

「これなら、描けるでしょう」

 

「?」

 

「○○院の三重塔ですよ」

 

「ほう~、これが、ですか」

 

 

テーブルに座って、雑談をした

 

ふと先生が本の話

 

「僕は「村上春樹」の本が読めなくてねー」

 

「何冊かトライしたけど、付いて行けなくてねー」

 

「全部途中で投げ(止め)です」

 

「私は、いくつか読んでますけど」、自分

 

「あっ!、そうか」

 

「先生、それは・ですねー」

 

「(文を)理解しようと、思うからですよ」

 

「近代アートと同じで(笑)」と、答えた

 

ーーー

 

 

図書館に予約して

 

8カ月待った、村上春樹著

 

「街とその不確かな壁」発行2023年4月

 

影のない世界

 

自分は、村上春樹ファンだと思う

 

意外性や異次元の世界

 

細やかな表現、辞書的な表現力、豊富な知識

 

世界のクラシック音楽、ファッション、絵画

 

「意識とは脳の物理的な状態を、脳自体が自覚していること」

 

等の、哲学的な表現

 

味わいながら、1週間で読み終わった

 

ストーリを思い起こす

 

「すばらしい言葉や表現が多かったなー」

 

余韻に浸りながら

 

「うっとり」

 

ーーー

 

 

「あなたー」

 

「2階で何しているの」

 

「早く降りて来て頂戴」

 

「ご飯できてるわよ」

 

「ああ、わかった」(現世界)

 

 

久しぶりの「村上春樹」長編小説

最後に読んだのは、3年前の「一人称単数」

「1Q84」ともなれば、14年前になる

本は年を取らないが

作家も自分も、確実に老いて行く

「なー」

 

「何?」

「どんな、ストーリーかって(聞くの)」

「それは、ねー」

「全661ページを説明しないと」

「できないんだけど」