今日も東洋館。いや、口ぐせか!毎回この始まりじゃねぇか!


で、舞台終わりに楽屋で同じく東洋館にしょっちゅういる新宿カウボーイさんと「しょっちゅう居ますね」と話をしていたら、1人の師匠が若手楽屋に入って来た。


東洋館には楽屋が6つある。
若手楽屋と女性楽屋、師匠楽屋と中堅(といっても芸歴30年から40年の師匠)が使う楽屋2つ、あと喫煙部屋


若手楽屋には、僕らと新宿カウボーイさんの4人しかいなかった。
そこへ1人の師匠が入って来た。


「いや〜、観てたよ〜。よかったじゃない」

「ありがとうございます」

はたけんじ師匠だ。

はたけんじ師匠は漫才協会の芸人ではないのだが、漫才協会にいる若手数組を可愛がっている。
その兼ね合いでたまに観に来て、こうして楽屋にやってきてくれる。

かくいう我々もたまたまネタを客席で観て頂いてくれた事があり、「はたけんじバースデイ寄席」に呼んでもらった事がある。

「またさ、上野でやるからさ、呼ぶよ」

「ありがとうございます」

はたけんじ師匠の説明が足りないので、補足すると芸歴40年以上の「元祖ものまね四天王」であり、レパートリーは三波春夫、五木ひろし、前川清、北島三郎など多数ある。

「どうなのよ。ホリプロは?営業あんの?」

相方が答える「どうですかねぇ…。今どこもないですからねぇ」

「まぁな。俺らの時代なんてさ…」

私は新宿カウボーイの石沢さん(和製ウディアレン)に目で合図を送った。
「ちょっ、帰らないでくださいよ」と。

話は「昔は20分の営業なんて当たり前だった」から「たけしに営業ネタを教えた」に差し掛かった。

相方は機械のように「へー」とか「そうなんですねぇ」と相槌をうつ。相槌マシーンになった。


かねきよさんは師匠の隣に座り、苦悶の表情を浮かべていた。


いや!!!

灯台下暗しなのか師匠はその苦悶の表情には全く気づいていなかった。


師匠の話は「笑点のプロデューサーにものまねを否定された」から「それで試行錯誤の末、顔におしろいを塗ってものまねをした」に突入した。


相方は「なるほどー」とか「えーー!」とまるでサンプラーであらかじめ録音した相槌をタイミングよく出しているようだった。

15分が経過したところで70代のチョビ髭を生やした老人が入ってきた。

私は石沢さんに目で合図を送った
「誰?」と。
石沢さんも私に目で合図をくれた
「知らない」



浅草は漫才協会だけでなく、沢山の協会がある。
落語協会、ボーイズバラエティ協会、演芸協会、奇術協会…と。
なので、まだまだ私が知らない芸人はいっぱいいる。


前に一度、東洋館の横で寝転がっているおじいさんがいた。「あー、ホームのレスだな。野生の人だな」と思っていたら、カントリーズのえざおに「あの人、落語家さんなんですよ」と言われて、衝撃を覚えた事がある。


さらに汚らしい風貌で、ヨレヨレのジャンパーを着たおじさんがいたので、「あの人も師匠か!」と思い、挨拶したら、それはシンプルに汚ないおじさんだった。


話を元に戻そう。


私を含む4人は新たに入ってきた、このチョビ髭の老人に「一体誰だ?」という気持ちになった。


はたけんじ師匠がそのチョビ髭の老人を見て言った
「おー、ゆうちゃん。どうする?じゃあ?」
「いや、うん…」

誰だ!
タニマチか!

はたけんじ師匠は喋る
「じゃあよ、あいつら(弟子)のネタ観て、下行こうかな」
「うん…」
「どうなの?この後なんかある?」
「…」
「そうか。じゃあ、待っててよ」
「…」


いや、全然喋ってないのに会話が成立してるー!!


「でもゆうちゃんも60年芸人やってるからな」
「……」

マジかよ!物凄い大先輩じゃねぇか!

勉強不足な自分たちを恥じた。


そのチョビ髭の方はまたスッと楽屋から出て行ってしまった。

「で、よー。たけしのネタを初めて観た時はびっくりしたよ」

はたけんじ師匠の独演会、再開。

相槌マシーン田中。
バッグを持ち始め、出口をチラチラ見る石沢さん。
まるで一塁から二塁へ盗塁を狙っているようだった。
そして依然、苦悶の表情を浮かべるかねきよさん

話は「ものまねのもしもシリーズを最初にやったのは俺だ」から「ピンクレディのペッパー警部を演歌にしたら、ウケた」へと続いていく。


完全に機械になる相方。ペッパー警部のくだりの時は相方もpepperくんになっていた。


「じゃあ、そろそろあいつらんとこ行こうかな」

「お疲れ様でした!!」

師匠が帰った瞬間、ホームスチールを決行するランナーのような素早さでホームへ帰る石沢さん

いそいそと喫煙部屋に行く相方

ソファーに倒れこむかねきよさん

「いや、なんちゅう顔してんすか」と私が尋ねると、どうやら師匠が話してる最中に腰痛が再発したらしい。
けれども横になれないので、苦悶の表情を浮かべてたそうだ。

なるほど。とにかく師匠の話は腰がくだける程、面白かったという事だ。


※ほんとにタメになる話を沢山聞かせて頂いたので、感謝しております。





今日思った事
金持ちのおばあちゃんあるある:ビールの事を「おビール」って言う